湯浅健二の「J」ワンポイント


2005年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第32節(2005年11月23日、水曜日)

 

混沌の優勝争いという願ってもない学習機会を与えられた両チーム・・神に感謝しなければ・・(ジェフ対レッズ、1-0)

 

レビュー
 さて、何から書きはじめましょうか。ゲームは、拮抗しハイテンションの素晴らしい内容になりました。両チームともに、最後の最後まで全力で闘い抜いた・・守備が崩れることもなく、ゲームが締まったものになった・・まあだからこそ、ロスタイムに入ってからの「オウンゴール」には、ちょっと溜息が出てしまった・・ってな全体的印象なのです。でも、ゲーム終了と同時に耳に飛び込んできた情報で、他会場の結果を知ってビックリ。あと二試合を残し、勝ち点「4差」のなかに5チームがひしめきあうことになったんだからね。

 あまり例のない大混戦。でも両監督ともに、「残り二試合で勝ち点4の差は大き過ぎる・・我々は、この状況がひっくり返ることを期待できる立場にはいない・・」と冷めた論評です。まあ、この状況で「まだまだ我々にも大いに優勝の可能性がある・・」なんてことを言うのは確かに「ファニー」に聞こえるけれど、ウド・ラテックならば(彼は、1970年代から80年代にかけて、バイエルン・ミュンヘンやボルシア・メンヘングラッドバッハで8回もリーグ優勝を遂げただけではなく、当時のチャンビオンズカップでもヨーロッパの頂点を極めたドイツを代表するプロコーチ)、たぶんこんなことを言ったに違いない。「何を言っているんだいアンタがたは・・優勝するのはオレたちなんだよ・・すべでのデータがそれを裏付けているし、私の広範な経験からも、我々がリーグチャンピオンになるのは自明の帰結なんだ・・」。

 実際に、ウド・ラテックが、ある記者会見でそう言ったことがありました。正確なことは、調べて思い出さなければならないけれど、多分それは、奥寺康彦のブレーメン最後のシーズンだったと思います。残り数試合というタイミングで、誰が見ても「追いつくのは不可能と思える勝ち点差」をブレーメンにつけられていたバイエルン・ミュンヘン。ただ、当時バイエルンの監督だったウド・ラテックは、そんな(普通だったら追いつくのは不可能な)勝ち点の差など意に介さず、とにかく「俺たちがチャンピオンになるんだよ・・それはもう決まったも同然のことなんだ・・」というニュアンスを言い続けたのです。そこには、人々の常識レベルをはるかに超越したカリスマのエネルギーが放散されつづけていた。そして実際に、バイエルンが大逆転でリーグ優勝を果たしてしまうのです。それも、最終試合の残り数分というタイミングで得たPKをブレーメンが外したことで決まったバイエルンのリーグ優勝(ブレーメンの相手はバイエルンではありませんでした・・どこだったか覚えていない!・・奥寺に聞いてください・・彼にとっては、思い出したくもない悔しい記憶だろうけれどネ・・)。いまでもそれは語り草なのです。

 ウド・ラテックは、2000年にも、同様のサイコロジカル・パフォーマンスで奇跡を演出します。誰もが信じて疑わなかった「あるクラブ」の2部落ちを阻止してみせたのです。そのクラブとは、トヨタカップで世界一にも輝いたことがある、世界に勇名を馳せるボルシア・ドルトムント。それは、2000年シーズンのことです。どうしようもなくなったドルトムントのマネージメントは、何度も監督の首をすげ替えたあげくに、ウド・ラテックのウデに頼り切ることにしたのですよ。それも、残り数試合というタイミングだったと覚えています。そのときラテックが、どんどん超越コメントを出しつづけることでメディアをとことん活用し尽くしたか・・。まあ推して知るべしじゃありませんか。

 私が言いたかったことは、指揮官が仕掛ける攻撃的な心理マネージメントのこと。もちろんギド・ブッフヴァルトやイビチャ・オシムさんは、ウド・ラテックとはまったくタイプの違うプロコーチだし、日本人のメンタリティーもドイツ人とはまったく異なるから、同じようなサイコロジカル・パフォーマンスを期待するわけにいかないのは分かっています。またブッフヴァルトさんやオシムさんにしても、我々「外部」には見えないところで効果的な心理マネージメントに励んでいるはずです。にもかかわらず、ウド・ラテックが仕掛けた、すべてのメディアを巻き込んだ一大「心理揺動」パフォーマンスという、絶大な影響力を内包した「社会的な心理ムーブメント」を体感している私は、こうなったら、使えるモノは何でも・・なんて(安易に!?)期待してしまうというわけです。

 ちなみに、当時のブレーメン監督は、現ギリシャ代表監督のオットー・レーハーゲルでした。そのときの彼は、完全に守りに入っていた。ガンガンと攻めのコメントを投げつけるラテックに対し、オットーは、「まだ何試合か残っているし、サッカーだから、結果がどうなるかなんて誰にも分からない・・とにかく、全力を尽くすしかない・・」なんていう守りの姿勢に終始するのですよ。そんな「心理的なストラグル構図」にメディアも完全に乗っかってあおり立てる。そして徐々に、チームを取り囲む雰囲気が変化し、選手たちの心理にも微妙な影響を及ぼしていったというわけです。さて・・。

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 この試合でも、ポンテの決定的な仕事パフォーマンスが目立っていましたね。最初は厳しいマンマークに手こずっていたけれど、慣れてくるにしたがって、トラップのときのボールコントロールの「間合い」やスクリーニングのやり方にも学習の効果が現れていました(彼は、常に複数の相手と対峙していた!)。そして、数少ないチャンスを最高の集中力で狙いつづける(後半のドリブルシュートや、ドリブルからの決定的クロスのシーンは特筆!)。寒くなるにしたがってパフォーマンスがアップしてきた「ロビー」・ポンテ。来年には、日本の夏場でもしっかりとしたパフォーマンスを発揮できるように準備を積んでちょうだいよ。

 鈴木啓太と酒井の守備的ハーフコンビも大車輪の活躍だったし、山田暢久も、先日のゲームで「思い出した」吹っ切れたドリブル勝負を、この試合でも効果的に繰り出していました(失敗しても、それにめげずに何度もトライしていたところが良かった)。そして最後は、トゥーリオで締めたい。私は、彼がこの2年間で素晴らしい発展を遂げたと思っています。やはり優勝争いは、何にも増して効果的な「刺激」だということです。「ポカ」が少なくなった正確なポジショニング・・1対1の強さ・・高い実効レベルの(予測ベースの)カバーリング・・そして何といっても強烈なリーダーシップと強力ヘディング・・。もちろんジーコも、しっかりと考察していると思いますよ。

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 最後になりましたが、遅ればせながら、私も神達彩花ちゃんを助けるための募金活動に、非力ながら協力させていただくことにしました。お父さんは、日本におけるサッカー文化の発展に尽力している方であり、私も以前、あるプロジェクトで間接的に協力していただたことがあります。彩花ちゃんが、なるべく早く、サバイバルの可能性にチャレンジできるようになることを心から願っています。詳しくは「こちら」を参照してください。

 



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