湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2005年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第34節(2005年12月3日、土曜日)
- 残念だったけれど、最後の最後まで全力でやり通したからこそ「次」が見えてくる・・(アルビレックス対レッズ、0-4)
- レビュー
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- 「スタートは、自分たちにできることを100パーセントこなしていくことしか考えていなかった・・でも確かに、リードが広がるにつれて他の会場の結果も気になりだした・・」。記者会見で出てきた、「いつも監督は、周りの状況は気にせずにベストを尽くすのみと言っているが、本当に試合中に他のチームの経過が気にならなかったか・・」という質問に対して、ギド・ブッフヴァルトが、そんなふうに答えていました。
ギドは、先々週のコラムで紹介したウド・ラテックの伝説的な言動も知っているだろうし、彼自身も、1992年に、自身がキャプテンを務めていたVfBシュツットガルトでリーグ優勝を果たしたときのミラクルプロセスを体感していますからね(リーグ最終戦において、最後の最後のタイミングで生まれたシュツットガルトのゴールと、優勝を競り合っていたフランクフルトの失点で大逆転のリーグ優勝が決まった!)、本心では、いくら他力本願だからといっても、最後の最後まで、自らの体感をベースにした「可能性に対する執着心」が減退することはなかったに違いないと確信している湯浅なのですよ。その体感コンテンツこそが、ギド・ブッフヴァルトの「世界レベル」たる所以だからネ。
まあ、とはいっても、ここは日本だから、選手たちが必要以上の心理プレッシャーに苛まれないようにかなり気を遣っていたということなんだろうね。そのことが、「どう考えても、ロジックの可能性は低い・・」とか、「いま我々が置かれている状況を見れば、ベストを尽くすと言う他ない・・」なんていう冷めた(冷静な)発言の背景にあった!? 私は、リーグ展開のもっと以前の段階から、どんどん選手たちに「継続的」な心理プレッシャーを与えつづけて欲しかったんだけれどネ。何せ、「それ」を超越しなければ、本物の勝者のメンタリティーなんて獲得できっこないことは確かな事実だから。プレッシャーに打ち勝って、内容と結果を出すことこそが大事だと思うのですよ。プレッシャーと友達になろう! だからこそ、「それ」に対するイメージ(心理)トレーニングを継続的につづけていかなければならないということなのです。「その」レベルさえ高揚させられていれば(ホンモノの勝者メンタリティーを上げられていれば)、ウド・ラテックのパフォーマンスだって出来たはず。そんなブッフヴァルト監督のパフォーマンスに対してレッズ選手たちは、こう思う。「アッ・・監督さん、やってるゼ・・凄い迫力だな・・さすがに世界のブッフヴァルトだ・・」。逆に他のチームの監督や選手たちにとっては、その「ノイズ」が何度も、何度も繰り返して耳や目に入ってくることで、彼らの心理的な不安定ファクターがどんどん増大していく・・。リーグは、最後は心理戦争ですからネ。
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この試合でのレッズは、本当にハイレベルな「ソリッドサッカー」を魅せてくれました。攻撃でも守備でも、決して「集中力」がとぎれることなく、ボールがないところでの緊張感あふれるクリエイティブプレーを展開した・・なんて、どうしても概念的な表現になってしまうのですが、要は、攻守にわたって、局面での「数的に優位な状況」を演出しつづけたということです。そのために、ボールがないところで一生懸命に走った。だからこそ、高い位置でボールを奪い返せたし、攻撃でも、ボールと人がよく動く組織プレーを善循環に入れられたのですよ。またそんな組織プレーのなかに、タイミング良く、そして効果的に「個の勝負プレー」もしっかりとミックスする。もちろん、ポンテや山田暢久、長谷部誠、そしてアレックスと岡野(永井雄一郎)の両サイドが展開するリスクチャレンジプレーのことです。
たしかに基本的なチカラでは「J」トップクラスのレッズ。山瀬がシーズン前に抜け、アルパイとエメルソンがリーグ途中でチームを去り、ネネやトゥーリオが故障を抱え、田中達也と永井雄一郎が、リーグ展開において決定的な意味があったタイミングで戦線離脱してしまう・・。そんな逆境でも、チームは崩壊することなく、何とか持ちこたえて優勝争いに関わりつづけました。たしかに、”ココゾ!”という、リーグ展開において重要なタイミングで、ふがいない内容で負けてしまったゲームがいくつもありました。そのたびに「諦めムード」が漂ったものじゃありませんか。少なくとも3-4回はあったですかネ。それでも、上位もつまづくという幸運も手伝って「ここまで」きてしまった。あっと・・ここでのテーマは、レッズの基本的なチーム力のことでしたっけネ。
とにかく、そんな逆境に潰されることなく徐々に立ち直っていったプロセスは、彼らが、まだまだ発展するキャパを備えているという事実を如実に示していると思うのですよ。何せ、トゥーリオや坪井、長谷部、鈴木啓太、田中達也、永井雄一郎、横山拓也、細貝萌、エスクデロ等々、優れた個の能力を秘めた若手や(若めの)中堅が揃っていますからね。それに彼らは、攻守にわたる組織プレー感覚も備えている。それこそが、ギド・ブッフヴァルトがリードしつづけるダイナミックで攻撃的なプレッシングサッカーの賜なのです。攻守にわたって、常に自分たちから「仕掛けていく」・・チャンスがあれば、誰でも最前線に絡んでいっていい・・そのためには、全員の「守備意識」を高揚させ、それに対する相互信頼のレベルを深化させなければならない・・等々。もちろん、このサッカーに関わるファクター表現はそれだけじゃないけれど、とにかく、リスクにチャレンジしつづけるというプレー姿勢こそが、美しさと勝負強さが高い次元でバランスしたサッカーを志向する発展のためのリソースだということです。
来シーズンだけれど、まず何といっても田中達也が戻ってくるよね。彼が、心理的なトラウマから解放されてのびのびプレーできることを祈って止みません。それに、優秀な守備のクリエイターであるネネも・・。まあ、外国人の去就については分からないけれど、とにかく、もしギドがレッズに残るのなら、確実に集大成イヤーということになるでしょうし、そこには「大成」する大きな可能性があると思うのです。
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レッズを支えるファンの方々は、リーグの最後の最後まで、自らの参加意識を「最高のカタチで表現」する機会を得ましたよね。今日の私は、そんなレッズファンの方々のマインドの一端を体感させてもらいました。新潟で会った何人かのレッズサポーターの方々と一緒に昼食を取る機会に恵まれたのですよ。そこで私が、「とにかく結果がどうなるか分からないから、いまこの時点を大事にするという意味で、リキを入れて乾杯しておきましょう・・」なんて冗談を言ったのですが、皆さん、そんな私の挑発的な言葉に、微笑みながらも、まさに本気で「ブ〜〜ッ!」ってな具合でした。引きつった微笑みを伴うブーイングは、怖いよ・・。とにかく彼らの参加意識は「ホンモノ」。それも、私もビックリするような様々な知識を、優れたインテリジェンスで処理(プロセス)し、それをぶつけあって盛り上がるのですよ。こっちは完全にタジタジ。でも、それでビビっていては「湯浅」がすたる・・ということで一言。
「とにかく皆さんを見ていると、素晴らしく前向きに、今のこの瞬間をとことん楽しんでいいると感じますよ・・それこそ、サッカーにはそれだけのパワーが備わっていることの証明・・だから私も、ハッピー・・皆さんのハナシを聞いていると、ご自身が、レッズとともにストーリーを描き出せていると思うんですよ・・皆さん一人ひとりがレッズのサッカーについて主張を持ち、他の意見に素直にアグリーしながらも、主張をぶつけ合って楽しんでいる・・とにかくハナシの内容は、まさにフットボールネーションですよ・・本格感ビシバシ・・それって素晴らしいことじゃありませんか・・いや、そんな(ものすごく高いレベルの当事者意識と参加意識で文化イベントにのめり込む)機会なんて、日常にはほとんどないから、皆さんは、ものすごく幸せな人たちだとも言えますよ・・いや、ホント、素晴らしい・・」なんてネ。それに対して、「湯浅さんのコラム・・この頃、甘すぎません?・・たしかにアレックスには厳しいけれど・・」なんていうキツ〜い一言も反ってきたりして。とにかく私にとって、目からウロコのひとときでした。ご一緒させていただいた皆さんには心から感謝いたします。ありがとうございました。
最後になりましたが、アルビレックスについても・・というか新潟についても少し触れます。要は、行きと帰りのタクシーのドライバーの方とお話しした内容なのですが、そこでのハナシを簡単にまとめると、こんな感じです。
いままで新潟にはプロスポーツがなかった・・またアルビレックスが発足した当時は、誰も、ここまで(人々の関心が)大きくなるとは思いもしなかった・・それが今では、新潟の誇りとまで言えるところまで発展した・・我々も、アルビレックスを誇りに思っている・・そこまでチームを強くしてくれた反町さんには感謝している・・だからもっとつづけて欲しいんだけれど・・そんなサッカーに比べて、野球は、どうも我々一般の人々のものじゃないように感じる・・何せ、あんな高齢の権力者たちに牛耳られているんだから・・新潟でも、いまじゃもうサッカーばかり・・子供たちもサッカーしかやっていない・・野球をやっている子供たちがかわいそうに見えてくることもあるほど・・これから10年後にはどうなっているのだろうか・・もうサッカーしかないのかもしれない・・等々。
行きは、前述のレッズサポーターの方々とご一緒させてもらったのですが、そこでタクシーの運転手の方が、キツ〜い一言をかますんですよ。「皆さん、遠くからお疲れ様です・・そんな遠出をしてきた方々には申し訳ないのですが、この試合は、我々が勝たせてもらいますよ・・」だってさ。もちろん車内が笑いにつつまれたわけだけれど、それに対してレッズサポーターの方が、こんな風に切り返すのです。「いや、ホントに頼もしい限りですよ・・何せ大阪のタクシーの方は、ガンバは弱いから、ビシビシやっつけてくださいよ・・なんて言うんですからね・・それに対して新潟はまったく違う・・食事をしたおそば屋さんでもそうだったけれど、新潟の人たちからは、地元チームを心からサポートするという気持ちが伝わってくるんですよ・・」。なかなか深い会話ではありました。反町監督は退任するけれど、これだけの「生活スポーツ文化のバックボーン」が整ってきているのだから、新潟でのスポーツ文化もまた、まったく問題なく発展をつづけるに違いありません。そんなハナシを聞きながら、本当にハッピーだった湯浅でした。
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