湯浅健二の「J」ワンポイント


2005年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第6節(2005年4月16日、土曜日)

 

結果は期待に反していたけれど(私の)学習機会としては大きな収穫があった(ジェフ対アントラーズ、2-4)・・やっと内容と結果が一致したレッズ・・継続こそチカラなり(FC東京対レッズ、0-2)

 

レビュー
 
 この日は、朝から迷いに迷っていました。イビチャ・オシムさんのジェフを観戦するのか、ギド・ブッフヴァルトが率いるレッズの継続的な証人になるのか・・。本当に迷っていたのですが、結局こんな結論に達しました。来週の土曜日はテレビ埼玉の「レッズ・ナビ」に出演するから、どちらにしてもレッズ対セレッソは観戦しなければならない・・先週、素晴らしいゲームでジュビロに勝利したジェフが、今節は、現在リーグトップをいく「あの」アントラーズと対戦するんだぜ・・ということで、国立競技場でのジェフ対アントラーズを観戦することにした次第なのです。

 たしかに、私が支持するジェフは、ストヤノフが退場になったこともあって悔しい敗戦を喫し、逆にレッズはリーグでの初勝利をモノにするという結果になってしまったけれど、私の学習機会としては、大きな収穫があったと思っています。今回のゲーム分析の対象は、前半だけに限らせてもらいますよ。

 「とにかく、素晴らしい意図が背景にある良いサッカーを展開するジェフに勝てたことには大きな意味がある・・」。試合後の記者会見で、アントラーズのトニーニョ・セレーゾ監督がそう語っていました。すかさず私は、「ジェフが展開するサッカーのどこに、トニーニョさんが言う素晴らしい意図があるのですか?」と質問しました。この会見でのトニーニョさんは、まあ勝ったことで機嫌も良かったのだろうけれど、なかなか真摯に、それも深いコンテンツを話してくれましたよ。今まで私が聞いたセレーゾさんの会見では、最高のコンテンツだった・・?!

 ところで私の質問に対する答えをまとめると、こんなことになりますかネ。「仕掛けの起点ができたときに、シュートできるゾーンに常に4人の選手が入り込んでいる・・彼らの組織的な仕掛けのコンテンツには素晴らしいものがある・・ツートップ、二列目(羽生)、両ボランチ(阿部と佐藤)、そして両サイドバックが、どんどんとオーバーラップして攻撃に参加してくる・・とにかくしっかりと動きつづけることで効果的な仕掛けを繰り出せている・・それが素晴らしい・・」。

 まさにその通りだと思いますよ。ここでちょっと、そのことを湯浅的に表現してみます。私がジェフのサッカーを(選手たちの意識・イメージを)、またイビチャ・オシムさんの「ウデ」を高く評価するのは、こんなグラウンド上の具体的な現象を目にしつづけているからです。

 ジェフ選手たちは、グラウンド全面で、攻守にわたって「常に」数的に優位な状況を作り出そうとしている・・要は、ボール絡み・ボールなしの動きの量と質が高いということ・・守備では、とにかく相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)へのチェイス&チェックが忠実&ダイナミック・・ボールホルダーの「自由度」では、たぶんアントラーズ選手たちの方が「50パーセント以下」だったに違いない・・要は、アントラーズのチェックが甘く、それに対してジェフのチェックは忠実でキビシイということ・・もちろんボール絡みゾーンの周りで動く相手選手に対するチェック&マークも、ジェフの方が忠実&効果的・・だからこそ相手にウラを突かれることなく、ある程度の余裕をもって相手からボールを奪い返しつづけられた・・また攻撃でも、しっかりと人とボールが動きつづけている・・ボールがないところでの忠実な動きが特筆・・とにかく、ボールがないところでの動き(パスレシーブのフリーランニング)、パス&ムーブの忠実さレベル等々、チーム組織プレーの「イメージと実効プレーの量と質」では、完全にジェフが凌駕している・・

 それに対しアントラーズ。最初のポジショニングバランスを維持しつづけることがチームコンセプトだと思わざるを得ない変化のない(退屈な)サッカーですよ。要は、リスキーな動きやプレーなどせず、足許への安全パスをつないで全体的に押し上げ、最後の瞬間に一発のタテパスやサイドチェンジパス、はたまた中距離スルーパスなどで「シングル・アクション」の仕掛けを成就させてしまおうという意図がミエミエだということです。才能をベースにした究極の効率&確実サッカー。まさにイタリア的(ACミラン的)?! アハハッ・・

 私は、あれだけの能力を備えたチームなのだから、もっともっとダイナミックなサッカーをやるべきだと、もう何度も書きつづけてきました。リスクチャレンジ豊富なダイナミックサッカー。彼らは互いのポジショニングバランスを崩さないことをイメージの主眼に置いているのだろけれど、それは本末転倒もいいところ。バランス感覚とは、崩れたバランスをいかに効果的に素早く「整理し直すか」という能力のことなのです。サッカーでは、互いのポジショニングバランスや、攻守のバランスや、個人プレーと組織プレーのバランスや、そんなバランスは、主体的に崩していかなければならないのですよ。だからこそ、次の「バランシング作業」が大変になるわけだけれど、それこそが「ホンモノのバランス感覚」とか「ホンモノの守備意識」とか呼ばれるモノの本質なのです。

 でも、試合後の記者会見で、ちょっとした発見がありましたよ。それはトニーニョ・セレーゾさんの発言でした。

 ある方が、「この試合での小笠原の出来についてお聞かせください・・」と質問したのに対し、トニーニョさんが、次のようなネガティブなニュアンスの発言をしたのです。このゲームで2ゴールも入れた小笠原のパフォーマンスに関してですよ・・。

 「彼はあまりコンディションが良くないのかもしれない・・この試合での彼のボールタッチ数は20回くらいだったかな・・でももっと動きまわれば、30回や40回はタッチできる・・それができれば、あの才能なのだから、もっとパフォーマンスをアップさせられるに違いない・・」。

 この発言には、正直ビックリさせられたものです。こちらはてっきり、トニーニョさんが、「あのサッカー」に心から満足していると思っていたわけですからネ。冒頭の、ジェフサッカーに対する称賛だけではなく、小笠原に対するこんな評価も、トニーニョさんは、アントラーズが抱える課題に対してしっかりと焦点を合わせているということの証なのだろうか・・? 

 たしかに彼は、夢のサッカーを展開した1982年スペインW杯ブラジル代表ミッドフィールドの「カゲのバランサー」でしたからネ。あんな素晴らしいサッカーを自ら演出していたトニーニョさんが、勝負強さばかりを全面に押し出す「規制サッカー」を最高だとは思っているはずがない・・?! こちらが認識不足の場合は、素直にアタマを下げます。これで、「BSジャパン」でのトニーニョ・セレーゾさんとの対談が楽しみになってきましたネ。

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 ところで、「アタマを下げる」ということでは、ジェフ・オシム監督の通訳(サッカーコンテンツ・コーディネイター!)として素晴らしいパフォーマンスを魅せつづけている「間瀬秀一さん」にも心からお詫びしなければならないことが出てきてしまいました。

 私が、記者会見の場で、「オシムさんは、8人で攻め、10人で守るトータルサッカー・・という表現をしていますが、そのようなサッカーの場合、まあ、ジェフ選手たちの能力レベルがトップクラスではないということも含めて、一人退場になったことは殊の外厳しかったと思うのだが・・」という質問をしたときのことです。間瀬さんが、「オシムさんは、そんなことは言ったことはありませんよ・・」と言ったのです。その瞬間、「エッ?? ではそれは通訳ミスだったのですか?」なんて失礼な発言が口をついてしまったのですよ。

 会見後、私のところに寄ってきた間瀬さんから、「通訳ミスという発言はおかしい・・もしかしたら私の知らないところでオシムさんが言ったのかもしれないし・・」と抗議されたのです。まさにおっしゃる通り。8人で攻めて10人で守る・・という素晴らしい(この10年間で私が知る最高の!)表現は、私はたしかにオシムさんの言葉として聞いています。でも、間瀬さんを通したものじゃなかったかもしれないし、私がドイツ語で直接オシムさんと話したときに出てきた表現だったのかもしれません。ということで、その場で間瀬さんに、「申し訳なかった・・」と謝罪したわけですが、ただ記者会見の場での発言ですからネ、それで済ませるわけにもいかないということで、このHPコラムにも、湯浅健二からの公式の謝罪として載せることにした次第です。

 最後にもう一度。「間瀬秀一さんには、私の軽率な発言で多大なご迷惑をおかけしたこと、心からお詫びいたします」。

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 さて、FC東京vsレッズ。久しぶりにレッズが、ゲーム内容と結果を合致させられた・・といったゲームでした。

 この試合、テレビ画面ということで限られた観戦アングルのなかで、数日前のコラムで厳しいことを書いたこともあって、私はまず永井雄一郎のプレーに注目することにしました。そして思ったものです。「この試合での永井は、攻守にわたって大きく調子を上向かせている・・数日前のゲームは一体何だったんだ?!・・ちょっと右サイドに張り付きすぎだけれど、それは山田暢久とのタテのポジションチェンジも意図したものかな?・・もちろん、まだまだ運動量を上げられるだろうし、ディフェンスコンテンツも高揚させられるだろう・・とにかく、プレーイメージと実際のプレーコンテンツが徐々に高い次元で一致しはじめ、攻守にわたるプレーの実効レベルも上がっていると感じる・・あれだけの才能なのだから、運動量を上げれば、もっともっとサッカーを楽しめるのに・・」。

 この試合でも、守備的ハーフ(=ボール奪取ゾーンの主体=後方からのゲームメイカー=3列目からの影武者フリーランニングの仕掛け人=等々・・)に入った長谷部が、例によってゲームメイクセンスを魅せつけていましたよ。なかなかの落ち着きです。二列目に入ったら、すぐに自分で仕事を探せなくなっちゃうけれどネ・・。まあ、常に後方からボールをもらうというイメージアングルは難しいものだから、そのポジションに入る選手は、二列目のチャンスメイカーではなく、タテのポジションチェンジの演出家というイメージでゲームに入っていくのがいいということです。もちろんそのタスクにしても、常に全力での汗かきディフェンスからゲームに入っていくという大前提をクリアした場合に限られるけれど・・。

 ちょっと視点を変えて、レッズにおけるゲームメイカーとチャンスメイカー。やはりこれは、長谷部とか山田暢久とか、鈴木啓太とか永井雄一郎とかが「変幻自在」にタスクを交代しながらプレーするのがいいよネ。永井雄一郎は、ビックリするくらいパスも上手いしネ(失礼!)。鈴木啓太はシンプルな組み立てパス・・山田と永井は、ドリブルで突っかけながらの勝負パスや、そのままのドリブル突破・・そして長谷部は、それらのプレータイプを「リンクする(連動・連鎖させる)」役割・・なんてネ。そんな、高い守備意識を絶対的な基盤にした「タスクの入れ替わり」が頻繁になればなるほど、攻撃に変化に、より深い実効がともなってくるということです。右サイドを駆け上がった長谷部へ、中盤でパスを受けた永井雄一郎がスルーバスを通し、そこからのクロスをエメルソンが決めたという先制ゴールの場面は、まさにタテのポジションチェンジが功を奏した場面でした。クリエイティブなタスクの入れ替わり・・それでも次の守備ではポジショニング&人数バランスの崩れることがない・・。そう、ジェフのようにネ。

 



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