湯浅健二の「J」ワンポイント


2005年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第9節(2005年5月1日、土曜日)

 

内容と結果が一致した久々の会心マッチ(レッズ対グランパス、3-0)・・やはりマリノスはチカラがある(ヴェルディ対マリノス、1-1)

 

レビュー
 
 あ〜あ、また相手の術中にはまり込んでしまっている・・。ゲームの立ち上がり、レッズのサッカーを観ながらそんなことを思っていました。

 グランパスは、スリーバックを基調にカッチリと守備ブロックを固め、レッズのツートップ(エメルソンと田中達也)と、二列目センターの永井雄一郎に対するタイトなマンマークを敷く・・また、レッズが仕掛けようとする後方からのサポート(シンプルな組織パスのベースになるバックアッププレー)も、前線選手たちによる粘りのディフェンスで効果的に抑制してしまう・・ゲームプラン通り、レッズ攻撃をまんまとワンパターンのドリブル勝負イメージ「だけ」におとしめてしまうグランパス・・レッズ前線の才能プレイヤーたちは、うまく仕掛けが回らないから、より意固地にドリブル突破を仕掛けていこうとする・・こうなったら、シンプルなパスが回されないことで、レッズの後方からのサポートアクションが減退していくのも道理・・それこそが、グランパス(策士ネルシーニョ!)の思うツボ・・ということで、グランパス守備ブロックは、余裕をもってドリブラーへの集中ディフェンス網をうまく機能させつづける・・もちろんレッズは、詰まり気味の仕掛けを何とか打開しようとはするけれど、シンプルパスプレーを支援する後方からのサポートアクションがタイミング良く機能しないことも含め、どうも実効レベルが高揚していかない・・そんな状況でクライトンがワンチャンスの決定的シュートを放つ・・そこまでは、まさにレッズの負けパターンという展開だった・・

 「たしかに立ち上がりの時間帯はスペースがなかったことで上手くパスが回らなかった・・それでも、チャンスはしっかりと作り出した・・とにかく我々のテーマは、0-0の状況で、少ないチャンスをしっかりとモノにすることだ・・」。記者会見でのギド・ブッフヴァルトの弁です。そう・・その通り。いまのレッズにとっては、スペースのない状態で(相手の強化守備に対して)いかに少ないチャンスをゴールに結び付けるのかが最重要テーマなのですよ。もちろん、先制ゴールをネ。ゴールさえ決められれば、相手の守備ブロックも「開く」だろうし、よりスペースをうまくマネージできるようにもなるでしょう。

 まさに、その先制ゴールを奪うために、とにかく我慢強く、シンプルプレーもしっかりと「ミックス」していかなければいけないのです。この試合のように、ドリブル勝負のごり押しをくり返すようでは、相手守備にうまく抑え込まれてしまうのも道理。後方からのサポートの動きを活性化するシンプルなボールの動き(=攻撃の変化の演出)もしっかりと意識しながらタイミングを見計らい、ココゾ!のドリブル勝負を仕掛けていく・・。そして、作り出したチャンスを、どんなに泥臭くてもいいから、とにかく決める・・身体で押し込んでも決める・・。それこそが、今のレッズが抱える、もっとも重要な課題なのです。

 ごり押しのドリブル勝負でラチがあかなかったレッズ。彼らが奪った先制ゴールが、タテ方向のシンプルなボールの動きによって演出されたことは皮肉としか言いようがありませんでした。右サイドの山田暢久が起点になり、まず永井へのタテパスを出す・・パスを受けた永井が、ちょっとキープし、シンプルなタイミングで山田へバックパス・・そのバックパスがシンプルなタイミングだったからこそ、最終的なパサーになった山田暢久と、フィニッシャーになった田中達也が、『事前に』最終勝負イメージをシンクロさせながらアクションを起こすことができた・・最後は、山田からロビングのタテパスが決定的スペースへ送り込まれ、受けた田中がロビングシュートを決めた・・。このシーンでは、三回もボールが「タテ方向」に「シンプル」に動いたのです。タテ方向のシンプルタイミングのパス・・。それこそが、相手守備ブロックの「壁」を打ち破るためのキーワードになるべきプレーなのかもしれません。

 先制ゴールの3分後には、エメルソンの復活弾が決まります。相手ディフェンダーの視線と意識をクギ付けにした永井雄一郎のドリブルと、ベストタイミングでのエメルソンへのパス。そしてエメルソンが魅せた野性の咆哮。素晴らしい追加ゴールでした。そしてそこからレッズが、本当の意味で解放されていくというわけです。素晴らしくクリエイティブで忠実な堅牢守備ブロックをベースに、人とボールを活発に動かしながら、組織パスプレーと個人勝負プレーがメリハリ良くバランスした高質な仕掛けを繰り出していく。まさにそれは、強いときのレッズそのものでした。

 レッズにとっては、内容と結果が一致したという意味で久々の会心ゲームになりました。トップ三人の調子も上向きだし、バックアップ選手たちによる健全なチーム内緊張感という心理環境(健全なライバル環境)も活性化していると聞きます。なかなか良いじゃありませんか。さてこれから、ヤツらのホンモノの反抗がはじまるのかな・・。

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 さて次は、ヴェルディ対マリノス。なかなか見応えのある勝負マッチになりました。私が読売サッカークラブのコーチをしていた頃、当時の読売対日産は日本サッカーリーグの黄金カードなんて呼ばれていました(あの頃の我々は日産に負けたことはなかった・・)。そんな当時のことを思い出しながら、ちょっとノスタルジックな気分に浸りながら観戦していた湯浅だったのです。

 ゲームですが、その流れには様々な紆余曲折がありましたよ。立ち上がりは不安定だったマリノス守備ブロックでしたが、選手たち自身の調整がうまく機能してことで(?!)徐々に落ち着いていったと感じた・・選手たちの自主性向上をターゲットにする岡田監督の手腕がかいま見える・・また攻撃も、例によってサイドゾーンをうまく活用する効果的な仕掛けが目を引く・・特に、最前線で抜群の動きを披露する坂田には大拍手・・もちろん、最前線でのスペース・メイカーとしてネ・・そして作り出されたスペースを、後方からの押し上げでうまく活用するマリノスといった具合・・

 ・・対するヴェルディも、強力なツートップ(ワシントンと平本)を意識する効果的な仕掛けを展開する・・もちろんワシントンは、様々な意味合いで両刃の剣だけれど、徐々にヴェルディのサッカーに慣れてきたように感じる・・周りも彼のプレータイプに合わせているだろうし、その調整がうまくいきはじめたということか・・

 ・・それでも後半は、完全にマリノスペースになっていく・・まさに大波のようにヴェルディを押し込んでいくマリノス・・たしかにチカラがある・・実際に何本も勝ち越しゴールのチャンスを作り出すマリノス・・それでもヴェルディは押し込まれっぱなしというわけじゃない・・守備ブロックを固めながら、必殺のカウンターを虎視眈々と狙いつづけ、実際に何度か蜂の一刺しを成就させそうになる・・

 そんなエキサイティングな展開のなかで目を引いたのが、マリノス山瀬功治の復帰でした。残り20分というタイミングで大橋と交代した山瀬功治。例によって、攻守にわたる、大きく効果的なプレーで存在感を発揮します。守備の実効レベルが高いから、チームメイトからの信頼も厚いようです。彼が入ってからは、守備的ハーフの上野もより頻繁に前線に飛びだしていくようになりましたしね。創造的なタテのポジションチェンジの演出家といったところ。またボールを持ったときのシンプルプレーと勝負プレーのメリハリも良い。まだまだ本調子ではないのだろうけれど、活き活きとした彼のプレーを観ながら、先シーズンのセカンドステージの立ち上がりでレッズを引っ張っていたときの山瀬の素晴らしいプレーコンテンツに思いを馳せ痛ました。

 



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