湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2006年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第11節(2006年5月3日、水曜日)
- 攻守にわたる最高のダイナミックサッカーを90分やり通したジェフ・・親愛なるオシム様__ I respect you very much !!・・(ジェフ対レッズ、2-0)
- レビュー
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- 完勝・・。ジェフは、攻守わたり、まさに「素晴らしい」という形容がふさわしい高質な積極サッカーを、90分を通してやり抜きました。要は、攻守の基本に忠実に、全員が、多大なエネルギー消費をいとわない「汗かきプレー」を展開しつづけたということです。ボールがないところでのプレーの量と質が勝負を決める・・。
誰もが感動を覚えたに違いないジェフの主体的なリスクチャレンジサッカー。ジェフの選手たちは、誰もが、与えられたタスク「以上」の仕事をやってやるという意気込みでプレーしていたと感じましたよ。だからこそ、感動がある。イビツァ・オシム監督に、心からの拍手をおくっていた湯浅でした。
対するギド・ブッフヴァルト監督は、まあこの内容では仕方ない・・これは、ジェフが勝ち取った勝利だ・・と納得していることでしょう。もちろん後半立ち上がりのポンテの絶好機や、タイムアップ寸前のパワープレーで作り出したチャンスなど、勝負(結果)は、最後の最後までどちらに転ぶか分からなかったけれどネ。サッカーの内容は、「負けたときのロジックベースの納得」のためにあり・・ってなことでしょうかね。それに対して、「内容の伴わない勝利」は、時としてものすごく危険な諸刃の剣になってしまうこともある・・。
まず何といっても、中盤ディフェンスの実効レベルに大きな差があったという事実を見つめなければならないでしょう。そして次に、攻守の素早く忠実な切り替えやシンプルでスピーディーな仕掛け(だからこそ仕掛けイメージがシンクロする・・だからこそ、ボールなしの動きが加速する!)なんていうテーマに入っていくんでしょうね。でもここでは、中盤ディフェンスの実効性というテーマに絞り込みます。
中盤ディフェンスでは、とにかく「守備の起点」というファクターで、両チームに、まさに雲泥の差がありました。ある意味、中盤ディフェンスにこそサッカーの全てが凝縮されているとまで言えちゃうかもしれません。そこでのせめぎ合いによって、ゲーム支配の趨勢が決まってくるだろうし、そこでのボールの奪い返し方と、そのボール奪取を予測した動き出しの早さ(≒攻守の素早く効果的な切り替え!)によって、カウンターや次の組み立ての効果レベルが決まってくるといっても過言じゃないということです。
さて守備の起点。言うまでもなく、チェイス&チェックを基盤にした、相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)に対する「抑え」のこと。その起点がうまく機能するからこそ、その周りで展開される、インターセプト狙い・・協力プレス・・遠いサイドでの忠実なマーキング等々といった、次のボール奪取勝負へ向けた(予測ベースの)守備プレーが決まってくるし、相手の仕掛けプロセスを抑制できるというわけです。
タイトなマンマークを主体に、ボールホルダーへの「抑え(守備の起点の演出)」が抜群に機能しつづけるジェフに対し、鈴木啓太を欠いたこの日のレッズは、うまく守備の起点を定められないことで次のポール奪取勝負メカニズムもうまくコントロールできないといった体たらくでした。
最初は小野伸二と長谷部誠が後方から(守備的ハーフとして)スタートしたけれど、二人とも、守備の起点を演出するための「汗かきチェイス&チェック」に対する意識が完全に足りない。これでは、攻守を素早く切り替え、どんどんと後方から前方スペースへ突っかけてくる(ボールなしの仕掛けフリーランニング!)ジェフ選手たちを「イメージ的に」抑えられるはずがない。とにかく、この日のジェフの仕掛けパワーはレベルを超えていましたからね。また逆に、ボールを失っても、レッズの前への展開があまりにもノロいから、オーバーラップしたジェフ選手たちには十分に戻る時間がある。そしてすぐに正しいポジション(マーキングポジション)に入って守備ブロックのバランスを組織しちゃう。
そんなわけで、小野と長谷部じゃうまく機能しないと、前半の立ち上がり時間帯を過ぎたあたりから、山田暢久が「中盤の底の汗かき」に入りました(それが自主判断だったのかベンチ指示だったのかは不明)。そして少しだけ守備ブロックが安定しはじめる。山田が、うまく(忠実に)相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)をチェックし抑えるから、最終守備ラインも次のボール奪取勝負をイメージできるようになったのです。
山田は、「守備の起点」を演出するだけじゃなく、ボールがないところでのマーキングでも魅せます。最終勝負場面では、常に最後の最後まで相手に付いていくなど、ホンモノの守備意識を披露していたのです。それに対して小野は、「交通整理」よろしく、手で指し示して、「オイ! コイツがそっちへ行くぞ!」だってさ。それも、最終ラインとの間合いが数メートルしかないという状況で、タテへ走り抜けようとする相手を、まったくマークする気もなく行かせてしまう・・。味方のディフェンスが強ければ、それでも何とか対応できるんだろうけれどね。とにかく、最終ラインにしてみたら、「最終勝負シーンなのに、どうして中盤が付いて戻らないんだ・・」とか、「もっとボールホルダーをタイトに抑えろよ!」といった文句を胸に秘めてプレーしていたことでしょう。
小野が中盤の底をやりたい気持ちはよく分かります。守備的ハーフこそが、(もしうまく機能すれば)まさにゲームメイカーてしてグラウンド上に君臨できるからね。ほとんどケースで、前を向いてボールを受けられるそのポジションは、彼がイメージしているに違いない、状況とボールの分配センター(divider)として機能しやすいというわけです。それでも、「そのポジション」をやるためには、最低でもこなさなければならない「忠実な汗かきの」守備ワークがある。それを、彼が十分にこなしていたのかどうか・・。本当に疑問ばかりが残りますよ。
またボールをもっても、単に横にボールを動かすというシーンがほとんどで、彼を起点に、リスクチャレンジのコンビネーションがスタートするなんていう場面も皆無だった。もちろん数本は、素晴らしいスペースパスも飛んだけれどネ。とにかく、彼のプレーの「総合的な効果レベル」については、皆さんもしっかりと検証してみましょう。
シーズン当初は、徐々に調子を上げ、長谷部をタイミングよく前へ送り出すといった「タテのポジションチェンジの演出家」という側面も含め、まさに中盤のコンダクターとして抜群の機能性を魅せてくれた試合もありましたよね。だから期待も高まった。でも、ちょっとでも、攻守にわたる中盤の機能性が減退し、イニシアチブを握れなくなったら、小野の存在がビックリするほど希薄になってしまうのですよ。まあ、フェイエノールトとか、よいときのレッズなど、相手を凌駕してゲームを支配しているときは「分配センター」として鬼神の活躍を魅せるケースもあるけれど、ひとたびチームのペースが落っこちると、とたんに影が薄くなる。さて・・
ここでもう一度繰り返しておくことにします。小野伸二は、非常に能力の高いサッカー選手です。ただし、少なくとも復帰してからのプレーぶりからは、良いときのイメージ(≒良いプレーに対する意志)をあまり感じない。単に上手いだけの、足を止めたボールプレイヤー・・?! 私は彼のポテンシャルの高さを知っているし、彼が聡明なことも知っているつもりです。だからこそ、前節のレポートでも書いたように、彼が「思い違い」などするはずがないと思っているのです。ケガ?!・・完治していないから怖い?!・・。まさか、彼がそんな低次元の言い訳などするはずがありません。とにかく、まず彼は、自分自身の「姿」をしっかりと認知し、学習しなければなりません。
敬愛する小野伸二へ。このままでは、本当にヤバイぜ・・。
この試合のレッズは、最後の最後まで、中盤での守備の起点をうまく演出できなかったことで(まあ、後半の最初の時間帯は、選手交代という刺激が効いたけれど・・)効果的なボール奪取勝負を展開できない・・だから次の攻撃に勢いを乗せることができない・・という悪魔のサイクルを断ち切ることができませんでした。
そんなネガティブなサイクルチェーンを断ち切るための唯一の「戦術的な方策」は、とにかく中盤におけるディフェンスの機能性を上げるしかない(実効性のアップ・・より積極的にボールを奪いにいくプレー姿勢!)・・そのために、ジェフ以上に忠実に、そしてダイナミックにマンマーク要素を前面に押し出すような攻撃的&ダイナミックな守備を展開しなければならなかったと思っている湯浅なのです。でも誰が、そんな「苦しく厳しい仕事イメージ」をチーム全体がシェアするようにドライブし、忠実に、そして全力でこなしていくようにリードしていくの?
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ちょっと「告知」ですが、5月5日のこどもの日、湯浅が、NHKラジオに出演することになりました。番組のタイトルは、「いっぱい話そう! ワールドカップ2006」というのだそうです。時間は、1300時から1600時までの三時間だってサ・・。
番組は「三部構成」になっていて、わたしが出演するのは「第二部と第三部」ですが、第一部も、サッカー世界潮流と題して、「J」での監督経験がある原博実さんと川勝良一さんがゲストだから面白そうだよね。第二部は「開催国ドイツのいま」。ゲストは、わたしと、ドイツ人ジャーナリスト、ハンス・ギュンター=クラウトさん。ドイツ在住の方々に電話インタビューもします。そこから、具体的にワールドカップでの戦い(特にF組での戦い方)というテーマに入っていく。ゲストは、引きつづきの湯浅とクラウトさんに加え、元日本代表の三浦泰年さんも入ってくるっちゅうわけです。
そして最後に「司会者」。言わずと知れた「山本浩さん」が、例によって、ジェネラルコーディネーターとして番組全体を取り仕切ります。また山本さんの相方は、サッカー女子日本代表の主将をつとめた「野田朱美さん」。
山本浩さんの「突っ込み」は厳しいですからね、いまから楽しみです。
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