湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2006年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第1節(2006年3月5日、日曜日)
- マリノスの新たなチャレンジ・・勝負マッチで覚醒し成長したパープルサンガ・・(マリノス対パープルサンガ、4-1)
- レビュー
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- マリノスの岡田武史監督が、ワクワクしながら今シーズンを迎えているらしい。ロジックを超えたサッカーへトライするプロセスに心躍らせて今シーズンを迎えているというのですよ。フムフム・・。このことについては、神奈川新聞で連載がはじまった岡田さん自身のコラムを参照してください。なかなか奥が深い。
まあ、その連載初回の文章を私なりに理解するところでは、戦術という規制と、そこからの解放(≒リスクチャレンジ)という背反するマネージメント要素を、いかに高次元でバランスさせるのかというテーマに全精力を挙げて取り組んでいるということなんでしょうね。何せ、すべてのサッカー人が追い求める理想型は、美しさと勝負強さを兼ね備えたサッカーですからね。だからこそ監督には、究極のバランス感覚が求められるというわけです。岡田監督がやり甲斐を感じ、強くセルフモティベートできているはずだ。
このところ「J」にもクリエイティブな新風が吹き込んできています。例えば、イビチャ・オシムさんが率いるジェフのキャッチフレーズ、「走るサッカー」。もちろんイビチャさんが言う「走ること」には、主体的に考え、積極的にリスクへチャレンジしていく姿勢など(イビチャさんは、リスクへのチャレンジがないところに進歩なしとまで言い切る!)、最終的には自由にプレーせざるを得ないサッカーというボールゲームの性質において重要となってくる全ての進歩的な要素が詰め込まれています。それを「走る」という表現に象徴させているわけです。
また、レッズのギド・ブッフヴァルト監督がトライしつづけている攻撃的なプレッシングサッカー。これにも、チーム全体に共通した「高い守備意識」というコンセプト(絶対的なイメージ基盤としての概念)がその底流にあります。そして、岡田監督が志向する「ロジックを超越したサッカー」。いいね・・、サッカーの進歩につながる前向きで意義深いキャッチフレーズが増えてくることは。まあそれらは、根源的なコノテーション(言外に含蓄される意味)では密接に繋がっているわけですが、とにかく、攻守にわたって、後ろ髪を引かれることなくリスクへチャレンジしていけるというチームに共通するマインドを高揚させるためにこそ「戦術」があるという基本的な発想が大事だということが言いたかった湯浅なのでした。それこそが、ロジック(戦術)を超越したサッカー?!
ちょっと前置きが長くなってしまった。まあとにかく、そんな岡田マリノスのチャレンジという視点でもこのゲームを観ていたから、なかなか面白い発見もあったということです。
この試合のもっとも大きなポイントは、マリノスの「左サイドのコンビネーション」が素晴らしく機能していたということですかね。左サイドバックのドゥトラ、左ボランチのマグロン、そしてツートップの一角を占めるマルケス。仕掛けをリードするタテのトリオってな具合。動きの大きなこの三人が、マリノスの人とボールの動きを司り、最後は、京都パープルサンガの右サイドゾーン(マリノスにとって左サイド)をズタズタに切り裂いていくのです。マルケスが左コーナーまで持ち込んでパープル守備陣を引きつけ、ギリギリのタイミングで、後方からズバッとオーバーラップしてきたドゥトラへバックパスを出す・・そこから、スッと持ち込んだドゥトラが、例によっての正確なクロスをパープルのゴール前へ送る・・もちろんニアポストスペース狙い・・そこへは、これまた「例によって」ベストタイミングで久保が走り込んでいる・・っちゅう具合です。
そんな「タテのトリオ」が中心になったコンビネーションで三点リードをもぎ取ったマリノス。個人のチカラの集積と、それらの組織的なシナジーという視点でチカラの差がある両チームですからね、この時点で(いや、二点目が決まった時点でもう)既に勝負あり。でもこのゲームでは、見所が次々と現出してきます。
後半にはいり、「解放」されたパープルサンガが、素晴らしく積極的なサッカーを展開しはじめたのに対し、マリノスのサッカーがどんどんと縮こまっていってしまうのですよ。ボールがないところでの動きが沈滞し、足許パスのオンパレードになってしまうマリノス。まさに心理的な悪魔のサイクル・・。
そんな悪魔のチェーンを断ち切ったのが、岡田監督の交代策でした。吉田に代えて田中隼磨が、また奥に代わって清水範久が登場し、マリノスのプレーテンポがガラッと好転したのです。ガンガンとドリブルで右サイドを切り裂いていく田中隼磨(彼からの続けざまの二本のクロスが決定的チャンスを演出!)。パスレシーブだけではなく、最前線の決定的スペースへ二列目から飛び出していくことで最前線の「動き」を活性化する清水範久。私は、そんな「変化」にこそ、岡田監督がイメージする「ロジック超越サッカー」の兆しを感じ取っていました。まあ岡田監督は、そんな私の質問をはぐらかしてはいたけれどネ。彼の発言で印象的だったのは、「選手も内容には満足していない・・もっといいプレーができるポテンシャルがある・・相手に走り勝つような(ダイナミック)サッカーを・・」なんてところですかね。
そんなマリノスに対し、ハーフタイムでガラッと解放されたパープルサンガ。ここでは、柱谷監督に登場してもらいましょう。記者会見での彼のコメントは、にじみ出るパーソナリティーも含め、インプレッシブそのものでした。
残念・・完敗だった・・開幕戦だし、特に前半は雰囲気に呑み込まれた・・選手たちは自分たちのプレーがまったく出来なかった・・ディビジョンワンの強い相手と対戦するときには、ちょっとしたミスが致命傷になる・・とにかく選手たちは怖がっていた・・だから安全プレーにばかり逃げ込んでいた・・押し上げなければならないところも様子見になってしまうし、バラバラだった・・だから守備も受け身になってしまった・・自ら実行していくチカラが大事・・自ら判断し、決断して実行していけなければサッカーにならない・・まあ、場数(経験)の違い・・サッカーは心理ゲームだから、メンタル要素が左右する部分が大きい・・だからハーフタイムには、これで死ぬわけじゃない、怖がらないでプレーしろと言った・・等々。
もちろん「3-0」ということで、「行って」もビビりつづけても同じ。そしてパープルの選手たちが覚醒した。いや、本当に素晴らしい積極サッカーを展開しましたよ。流れのなかから何度も決定的チャンスを演出しましたしね(あれで早い時点で1点入っていたら・・なんてネ・・タラレバ、ごめん!)。私は、パープルサンガの選手たちが、一つのゲームのなかで大きく成長したと感じていました。勝負マッチだからこその学習機会・・。
さて、今シーズンの「J」でも多くの学習機会に恵まれそうじゃありませんか。楽しみです。
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