湯浅健二の「J」ワンポイント


2006年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第27節(2006年10月15日、日曜日)

 

レッズが魅せる勝負強さのバックボーンと中盤トライアングルの優れた機能性・・(レッズ対アビスパ、2-1)

 

レビュー
 
 ちょっと「まったり」とした展開になってしまった・・もっと点が取れたと思うし、全体的には良いサッカーとは言えないと思う・・そんな反省材料をベースに、これからもしっかりと優勝へ向けて頑張りたい・・。

 試合後の「かこみ取材」で、鈴木啓太がそんなことを言っていたのが耳に入ってきました。選手もそう感じている。「まったり」とは、味わいがまろやかでコクがある様ってな意味だけれど、サッカーでは、攻守にわたるゲームコンテンツに鋭いエッジ(スパイス)が感じられず、何となく無為に時間が経過してしまうような捉え所のないプレーの繰り返しってな具合に定義できるかな・・。

 余談ですが、鈴木啓太について、前節のリーグ戦や、オシム日本代表インド戦のレポートで、実効ある「守備の起点プレー」に対する賞賛の表現として「マケレレ啓太」なんていう呼び方をしました。でも、試合後の「かこみ取材」を観察しながら、そんな表現は彼に対してちょっと軽すぎる(失礼)かもしれないと思い直させられました。立派な個人事業主という雰囲気を放散する鈴木啓太。これからは、誰かを引き合いに出すのではなく、彼自身の個性的なパフォーマンスに対するレスペクトとして、常に「鈴木啓太」と呼ぶことにしましょう。

 試合は、レッズのチーム力(個のチカラを単純加算した総合力)の方が上という事実が、多くの時間帯で明確に感じられる展開になりました。だからこそ、アビスパが魅せつづけた、攻守わたる「組織としての」頑張りは賞賛に値する。あれほど攻め込まれながら、最終勝負シーンにおいてレッズ選手がフリーになるという場面はほとんどなかったし、レッズ選手がフリーでシュートする場面もほとんどなかった。遅れ気味でも、最後の最後まで諦めずに身体を投げ出すアビスパ選手たち。それだけではなく、自信をもって攻め上がり「追い掛けゴール」まで決めた。ちょっと感心していました。

 なかなかベストチームを組めないにしても、川勝監督は、そんな厳しい環境のなかでも、戦術的なプランや、選手たちに対するメンタル&イメージトレーニング等々、最善の仕事を積み重ねていると思いますよ。

 対するホームのレッズだけれど、この試合でも、山田暢久、長谷部誠、鈴木啓太の「攻守のダイナミック・トライアングル」を維持しました。ウィングチーム・ネバーチェンジ! たしかに「まったり」した時間帯もあったけれど、昨シーズンのように、受け身に足が止まってしまうという「心理的な悪魔のサイクル」に陥るようなシーンはありませんでした。それも、昨シーズンでの悔しい思いから学習したことなんだろうね。

 要は、選手たちが、いま自分たちのサッカーが上手く回っていないと体感「できる」こと、そして、そんなネガティブ状況を、主体的に盛り返して「いける」ことが大事だということです。サッカーのリズムが「まったり」してきたら、誰もが、率先してボールがないところでのアクションを倍増させる・・そのことでチームに刺激を与え、主体的なチャレンジプレーの量と質を改善していく・・等々。それこそが、ホンモノの自己主張の積み重ねというわけです。

 そのポイントも含む心理マネージメントというテーマについてギド・ブッフヴァルト監督に聞いてみました。「アビスパの川勝監督が、油断してはならないとレッズ選手たちが言っているのを聞いて、それこそが実際には油断していることの証だと言っていた・・ブッフヴァルト監督は、(弱いと思われている相手に対する)慢心や油断を防ぐための心理マネージメントをどのようにやっているのか?」。

 それに対してブッフヴァルト監督は、「言葉だけでは十分ではない・・前節のアビスパはアントラーズに勝利したわけだが、そのビデオを選手たちに見せながら、アビスパの充実したプレーについていくつか指摘した・・それはイメージトレーニングだけれど、そんな心理マネージメントを、何度も、何度も、繰り返すことで緊張感が生まれ、効果がグラウンド上のプレーとして現れてくるものだ・・とにかく守備からゲームに入っていくことが重要だと何度も再確認した・・」と、真摯に答えてくれました。

 世界を知っている彼のことだから、油断とか慢心によって、瞬間的にチームのパフォーマンスが10分の1にまで急降下してしまうという恐ろしい事実を深く理解しているということです。そんな準備をしていたからこそ、立ち上がりの10分間は素晴らしいサッカーでアビスパを圧倒できた。でもその10分間で、選手は「やっぱりアビスパは御しやすい」と感じて、慢心方向へマインドが引っ張られていった。その結果が、「まったり」したゲームペースということになった。もちろんそれは、アビスパペースだったということです。不確実性要素が満載されたサッカーは、ホンモノの心理ゲームなのです。

 レッズの強さのバックボーンは、何といっても強力なディフェンスと、それをベースにしたリスクチャレンジにあふれる(組織パスプレーとドリブル勝負がうまくバランスした)危険な仕掛け。そしてもう一つ。膠着した状況を打開できるだけのパワーを秘めたセットプレー。アレックスが、こんなことを言っていました。「いや、別にトゥーリオだけを狙っているわけじゃありませんよ・・他にも、ワシントンもいるし、ネネや堀之内もいますからね・・」。

 レッズのディフェンスについては、主体性という視点が大事だよね。優れた守備意識ともいえる。そして、自ら考え、工夫を積み重ねながら、最高の集中力でボール奪取勝負に対するイメージを描写し、行動しつづける。このテーマについては、先日アップした、ギド・ブッフヴァルト監督との「The 対談」をご参照あれ。

 今日は、このままテレビ埼玉の「レッズナビ」に出演します。ということで今日はここまで・・。

 



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