湯浅健二の「J」ワンポイント


2006年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第31節(2006年11月18日、土曜日)

 

戦術と「積極的な自由」との相克!?・・(フロンターレ対アビスパ、2-1)

 

レビュー
 
 「ゲームへの入り方も、全体的な内容もよかった・・選手は最後までよく戦った・・また交代してグラウンドに立った選手も結果を出した・・最後の最後まで貫きとおした闘う姿勢は素晴らしかった・・選手は、レフェリーの(アンフェアな)判定に対しても、メンタル的によく耐え、最後まで冷静にプレーしていた・・たしかに後半は、フィニッシュへのプロセスで少し複雑になったとは思うが、全体的にはよく集中して戦えていたと思う・・(そんな選手たちを誇りに思う!?)・・」。

 アビスパ福岡、川勝監督の弁でした。そんなコメントを絞り出しながら、その表情からは、これ以上ないという悔しさがにじみ出ていました。(上記コメントの)最後のカッコ内の言葉は、わたしの行間読み補足だったけれど、彼の話し方からは、選手に対するそんなレスペクトを感じました。とにかくアビスパは、勝利に値する、本当に素晴らしい「闘い」を披露したのですよ。そのことに対しては、誰もが共感するに違いありません。まあ、少なくとも引き分けが妥当な線だったということだよね。

 内容が伴っていたにもかかわらず、それが結果に結びつかなかない・・。もちろんサッカーでは日常茶飯事だけれど、そんな「現象」を、これからのギリギリの闘いへ向けた「ポジティブな心理ドライブ」のリソースに出来るかどうかというポイントにおいてこそ、本当の意味での監督のウデが問われのです。

 自身の(プロサッカーコーチとしての)学習機会としても、川勝監督には全力で頑張ってもらいたいと思っていた湯浅です。蛇足だけれど、その思いには情緒的な側面も含まれます。彼は、読売サッカークラブ時代の戦友でもあるからね(私はコーチ、彼は選手)。

 ということで、まず、川勝さんにエールを送りたい湯浅なのですよ。「ケツ!!・・良い仕事をしているじゃないか・・これからも、自分自身が最高レベルで納得できるところまでギリギリのチャレンジをつづけてくれよな!!」。

 そんなアビスパに対して、受け身で消極的なサッカーしか提示できなかったフロンターレ。さて・・

 「立ち上がりから苦しい展開になった・・アビスパの固い守備からのカウンターに悩まされた・・こちらも、後半勝負を意識して、堅い展開をイメージした・・そして(実際に!)後半には、先制ゴールと勝ち越しゴールを奪うことができた・・このゲームについては、日本人だけで勝利できたことにも価値があると思っている・・素晴らしい応援を繰り広げてくれたファンの皆さんに感謝している・・この勝利は、その応援によるプレゼントだったのかもしれない・・」

 フロンターレ関塚監督です。彼も、ゲーム内容が良くなかったことを意識していました。そんな彼のコメントで、一つだけキーポイントをピックアップします。それは、「後半勝負」というクダリ。彼のコメントでは、ひんぱんに登場する表現です。さて・・。

 この日のフロンターレは、主力の「4人」を出場停止で欠いていただけではなく、日本代表に選手を送り出したこともあって、(ゲーム戦術的な)コンビネーションをチーム内でイメージシェアするための調整時間も十分ではなかった(関塚監督の弁)。そんな事情もあって、ポジショニングバランスを重視した我慢のサッカーで、後半に勝負をかけていこうというゲームプランだったということだったらしい。でも結局は、そのゲームプランが、選手を、心理的な悪魔のサイクルに陥れることになってしまう・・。

 ここでのディスカッションテーマは、ポジショニングバランスという戦術的な発想と、現代サッカーにおける(チーム戦術的な)メインターゲットである、攻守にわたって出来る限り多く数的優位な状況を作り出すという発想の「相克」。

 要は、ポジショニングバランスという戦術的なイメージ(ある意味、ポゼッションという発想も同義!)は、限りなくパッシブなリアクションサッカーの元凶にもなり得るということです。そこには、ポジショニングバランスという、一見ハイレベルな発想に「逃げ込み」、結局は、足を止めた(アリバイプレーだらけの)低級なサッカーに終始してしまうという危険性が潜んでいるのですよ。

 後半少しは持ち直したフロンターレだったけれど、結局は、「同じ狭いゾーンをタテ方向に行ったり来たり」しているだけというイメージばかりが残ってしまう。そこには、攻撃の「ダイナミズムと変化」を演出するような縦横無尽のポジションチェンジなど皆無でした。誰もリスクにチャレンジしようとせず、ポジショニングバランスというチーム戦術を「隠れ蓑(かくれみの)」に、そのカゲに逃げ込んで様子見になる・・ってな具合。そこでは、本当に残念なことに、中村憲剛も例外ではなかった。

 中村憲剛に対する(彼が秘める素晴らしい才能に対する)期待が大きいからこそ、特にガッカリさせられていた湯浅だったのです。ボールがないところで仕掛けていかず、「オレはパサーだぞ!」ってなマインドで、止まって、味方からの横パスやバックパスを待つばかり。また、原田拓が入ったことで、最高の自由度を与えられる「トップ下センター」へ上がったにもかかわらず、相変わらずリーダーシップを握れないし、(仲間を心理的にドライブするような)刺激ファクターにもなれない中村憲剛。まあ別な視点からすれば、「ゲーム戦術の犠牲になった才能」ってなことも言えるかもしれない・・。

 とにかく、発展性が感じられない消極的で受け身の(次元の低い)戦術サッカーに終始したフロンターレ。これでは、「何だ・・やっぱり彼らは、外国人プレイヤーの個人能力(個の勝負)に頼るだけか・・」なんていう揶揄から逃れられない!?

 厳しいニュアンスになってしまったけれど、彼らが秘めるキャパシティーからすれば、この試合の何倍もダイナミックで積極的なサッカーができるはずだとの思いから出てきたコメントでした。もちろん、日本人選手だけでもネ・・。残り3試合。フロンターレには、堂々の優勝候補として、戦術をベースにしながらも、たまにはそれを超越していくようなダイナミックサッカーでリーグを最後まで盛り上げるなかで存在感を極限まで高めて欲しいと思っている湯浅でした。

 



[トップページ ] [湯浅健二です。 ] [トピックス(New)]
[Jデータベース ] [ Jワンポイント ] [海外情報 ]