湯浅健二の「J」ワンポイント


2006年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第34節(2006年12月2日、土曜日)

 

おめでとう、レッズ・・おめでとう、ギド・・(レッズ対ガンバ、3-2)

 

レビュー
 
 「この三年間、チームは発展をつづけた・・その背景には、自由な雰囲気があったと思う・・選手は自由を謳歌した・・そんなバックボーンがあったからこそ伸びた・・」

 試合後の記者会見で、ギド・ブッフヴァルト監督が胸を張っていました。自由・・。もちろんそれは、守備(チェイス&チェック、積極マークなど)やボールがないところでの動き(フリーランニング)といった汗かきプレーを、主体的に、そして積極的に実行するという大原則があってはじめて成りたつものです。忠実に、そして全力で義務を果たすからこそ得られるホンモノの自由。それこそが、個人事業主による本当の意味での自己主張ということです。

 選手は、そんなホンモノの自由を、自らの手で掴み取ったということなんだろうね。もちろん、ギド・ブッフヴァルトの「見えざる手」によってリードされながら・・。

 ギドは、ワールドカップやブンデスリーガを制したときの体感や経験から、こう考えていたに違いありません。「結局グラウンド上で闘うのは選手たち自身だ・・とにかく、選手が、共通の目標イメージをもって(ネガティブなエゴではなく)積極的に主張し合うことこそが究極のターゲットなのだ・・オレの本来的な仕事は、その主張のバックボーンとなるコンセプト(チーム戦術)を明確にすること・・そして選手は、そのベースに則って自らの主張をぶつけ合う・・そんな、グラウンド上のディベート体質こそが、次の積極プレーをモティベートし、良いサッカーの絶対的な基盤になっていく・・それこそが闘うマインドの善循環じゃないか・・」。

 とはいっても、たしかに今シーズンは、攻撃的なプレッシングサッカーというチーム戦術コンセプトからすれば、ちょっといただけない試合も多かった。昨シーズンまでは、互いの守備イメージが有機的に連鎖しつづけることで、高い位置での圧倒的なプレッシングをベースに仕掛けていくボール奪取勝負が目立ちに目立っていたのに、今シーズンは、どちらかといえば「後方に控える厚い守備ブロックに支えられた」という印象が残るというゲームも目立っていたのですよ。それが失点の少なさにつながっていたのは確かだけれど、逆に、人数を掛けたダイナミックでアトラクティブな「組織的仕掛け」が目立たなくなったという印象も強かった。前後分断!? フ〜ム・・。

 まあ、そんな変化の背景には、選手タイプによる影響もあったということだよね。ワシントン・・小野伸二・・それに、ポンテ・・など。昨シーズンでは、(エメルソンや田中達也たちによる)最前線からの積極的なチェイス&チェックが、レッズが志向するプレッシングサッカーの根幹を為していた。それがあったからこそ、中盤と最終ラインも押し上げられたということです。ただ今シーズンは・・。

 才能という諸刃の剣!? まあ、そういう側面もあったということなんだろうね。そんな要素があったことで、ギド・ブッフヴァルトにも、バランス感覚という意味で難しい舵取りが求められた!? フムフム。

 だからこそ私は、レッズが本来の姿(アグレッシブなプレー姿勢)を取り戻しはじめたのは、山田暢久・長谷部誠・鈴木啓太で構成する「ダイナミック・トライアングル」が機能しはじめたあたり(第22-23節あたり!?)からだと主張しているのですよ。多分そこでの「復調プロセス」は、選手たちによる自律的なものだったはず。だからこそ、その復調には充実したコアが内包されていた。それもまた、ギド・ブッフヴァルトが演出した自由な雰囲気の効果!? まあ、そのテーマについてはまた別に機会に。

 とにかく、様々な紆余曲折があったにせよ、レッズが、シーズンを通して安定したパフォーマンスでリーグを制したのは確かな事実です。だからこそ、チーム内の問題や課題を克服したという意味も含めて、タイトルを「順当に」勝ち取ったと表現できるわけです。

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 最後に、ガンバとの勝負マッチのポイントだけ簡単にレポートしておきます。

 やはり両チームとも、バランス志向のサッカーで立ち上がりましたね。要は、ボールを奪われた後のディフェンスを考え、注意深く攻撃を繰り出していったということです。

 試合前には、ガンバに選択肢はないし、レッズにしても無様な結果で優勝が転がりこんでくることだけはノーサンキューということで(それに数字的な余裕もあるし)、両チームがガンガン攻め合うかもしれないという予想もあったけれど、結局は、両チームともに様子見からゲームに入っていきました。

 でも、そんなゲーム展開でも、やっぱりガンバの「安定した攻め上がり」の方が目立っていた。マグノ・アウベスと播戸という優秀なツートップをうまく活用した、効果的なタテ方向のボールの動き。ガンバが押し気味に進める(静的な)拮抗状態といった立ち上がりでした。

 ただ前半21分、静寂を引き裂くように、播戸が爆発的にタテへ抜け出していくのですよ。本当に素晴らしくパワフルでスピーディーな突破でした。そして、折り返されたボールを、マグノ・アウベスが、ピンッ!という軽いタッチのダイレクトシュートで先制ゴールを送り込む。そのゴールは、レッズ選手たちに、ガンバに追い付かれるつつあるという事実を叩きつけました。

 もちろん覚醒したレッズは、少しは前へのエネルギーがアップしたけれど、ガンバの守備を打ち破るというところまでいけず、簡単に潰されてしまうのです。タイミングよく仕掛けプロセスに人数を掛けていけないレッズ。さて・・。

 そんなジリ貧の雰囲気のなかで、ロブソン・ポンテの才能が爆発するのですよ。ワシントンからパスを受け、そのままガンバの二人を振り切ってドリブルシュート!! 鳥肌が立つような同点ゴールでした。そして前半44分の、これまたポンテが主役になった、ワシントンの勝ち越しゴール。

 まあ・・ね、ワシントンとポンテという才能は、しっかりと結果を残しているわけです。だからこそギド・ブッフヴァルトは、最前線からのチェイス&チェックが「薄い」にしても、この二人の才能を最大限に活用するために、「前後分断」気味のサッカーをある程度は容認することにしたということなのかもね。

 要は、二つの才能をバックアップする「ダイナミック・トライアングル」というプラグマティック(実際的・実利的)な決断ということです。とにかく、ダイナミック・トライアングルと二つの才能の組み合わせが、ウイニングチーム・ネバー・チェンジという大原則のコアにあったことは確かな事実です。そしてゲームは、「2-1」となったところで実質的な幕が降りたという次第でした。

 



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