湯浅健二の「J」ワンポイント


2006年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第9節(2006年4月22日、土曜日)

 

互いに「スキを突き合った」エキサイティングマッチ・・(ジェフ対ジュビロ、0-0)・・またエスパルス対レッズ(2-1)についても簡潔に

 

レビュー
 
 たしかにサッカーの質が一クラス違うよな・・ジュビロのプレー内容からは、2002年前後に彼らが魅せつづけたドリームサッカーの痕跡さえ感じられない・・それに対してジェフには、たしかに個の能力では見劣りするけれど、それを補って余りある、深く浸透したハイレベルなサッカーイメージがある・・攻守にわたってリスクチャレンジ姿勢を前面に押し出す、吹っ切れた爽快サッカー・・

 ・・ジェフの攻撃では、最終勝負を仕掛けていくシチュエーションとタイミングのイメージがハイレベルにシンクロしていると感じる・・ボールがないところでのアクションの量と質でジュビロを凌駕しつづけるジェフ・・カウンターチャンスでは、あくまでも直線的に、人とボールが織りなす全力の動きがスムーズに連動していく・・とにかく、後方からのボールなしの飛び出しの(後方からのパスレシーブアクションの)勢いがレベルを超えている・・また組み立てでは、素早く広いボールの動きをベースに、相手守備が薄いサイドのスペースを効果的に突いていく・・相手守備にとって危険な「組織プレーベースの変化」・・

 前半の印象は、そんな感じでしたかネ。とにかくジェフがいい。内容がいいだけじゃなく、しっかりとシュートチャンスも作り出している。それに対してジュビロは、誰もボールがないところでアクションを起こそうとしないなど、まさに典型的な「リアクションサッカー」といった体たらくなのです。

 ところが、さて先行きが見えたかな・・なんて思っていたら、後半のジュビロの盛り返しが風雲急を告げちゃうのですよ。それは、ハーフタイムに一体何があったんだろう・・なんていう興味に、アタマ全体が占拠されちゃうほどのイメチェン。

 「前半のジェフがガンガンくることはわかっていたし、実際に押し込まれた・・そこでは、とにかく失点したくなかった(失点しなかったことが大きい)・・後半は、ボランチとサイドがより積極的に上がっていけるようになった・・また中盤でタメが出来るようになったこと(中盤でのしっかりしたポゼッション)も大きい・・」。山本監督の解説です。まあ・・そういうことだけれど、そんな現象になった背景ファクターを、できるだけ正確に把握したいと思うのは私だけじゃないでしょう。まあ・・ネ、本当の内部事情なんて、決して外部の者にゃ分からないけれどネ(それには、様々なコミュニケーションでの、言葉とか話し方のニュアンスや、そこでの表情ニュアンス等々の情緒ファクターに関する体感情報も含まれるわけだからネ・・)。

 ということで生き返った後半のジュビロ。彼らが抱える「個の才能」が十分に機能するような(要は本来の実力に見合った!)サッカーを展開してくれました。「後半はゲームを支配できた・・できれば勝ちたかった・・(チャンスの内容については)互いに、スキを突き合うようだった・・」。またまた山本さんの弁です。

 この「互いに、スキを突き合う・・」という言葉だけれど、このゲームの実質的なコンテンツを表現するうえで、なかなか的を射たモノだと思っていた湯浅でした。要は、両チームともに、相手の守備ブロックを完全に振り回して決定的スペースを活用してしまうようなチャンスメイクは演出できなかったけれど、カウンターや素早いサイドチェンジなどで、(バランスが崩れた)相手守備ブロックの「薄いところ」を突いたチャンスは作り出せていた・・ということでしょうかね。たしかに、両チームともに、繰り返し、「蜂の一刺し」的な決定機は作り出せていましたからネ。

 その点についてイビツァさんは、「両チームに、満足と悔恨が交錯しつづけたゲーム・・両チームにチャンスとピンチがあった・・」なんていう表現をしていました。まあ、後半に限ったシュート数では、ジュビロがジェフの二倍も打っていたから、たしかにそこではジュビロに軍配が上がるのかもしれないけれど、それでも「決定機」という視点では互角だったというこでしょうね。

 ところでイビツァさん。「ジェフは、久しぶりに失点をゼロに抑えられたけれど・・」という質問に対し、「良いサッカーを展開していても失点するゲームがある・・逆に、悪い内容のサッカーなのに失点しないこともある・・」なんて、冷静な皮肉を返していましたよ。

 そりゃそうだ。両チームともに、あれだけの絶対的なゴールチャンスを作り出したんだからね。あの流れを体感したら、それが、戦術的なプレー云々のハナシじゃなく、単にサッカーの神様の気まぐれだって(偶然ファクターの方が勝っていたと)言わざるを得ないでしょ。それが「ゼロに抑えられた・・」という質問ニュアンスだったからネ・・。サッカーは、偶然と必然が交錯するボールゲーム。絶対的なシュートチャンスの演出プロセスでは、もちろん必然ファクターがマジョリティーになるけれど、シュートチャンスを実際のゴールに結びつけられるかどうかについては、偶然ファクターも大きな比重を占めるっちゅうことです。

 そんな質疑の流れのなかで、湯浅が、久しぶりに手を挙げて質問しました。「イビツァさんは、失点ゼロという方向性のサッカーを目指しているわけじゃないですよネ?」。「もちろん、そんなことはない・・でも・・良いサッカーを展開していても失点するゲームがある・・逆に、悪い内容のサッカーなのに失点しないこともある・・」だってさ・・あははっ。とにかく湯浅は、結果に左右されることなく、なるべく忠実に、サッカー内容(コノテーション=言外に含蓄される意味)を評価しているつもりなんですよ。

 リスクチャレンジのないところに進歩や発展はない・・。そんな、イビツァ・オシムさん率いるジェフが魅せつづける、リスクチャレンジマインドにあふれたダイナミックサッカーを(実際には、そのグラウンド上の現象を志向するマインドと、そのマインドを高みで安定させているイビツァさんの心理マネージメントのウデを?!)高く、高く評価している湯浅なのであります。

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 さて、軽く、エスパルス対レッズ戦の感想もアップしておきましょう。結論からすれば、エスパルスが、後半のレッズのハイボール攻撃にも冷静に対処するなど、素晴らしく徹底した戦術サッカーで、勝利のチャンスをしっかりと掴み取った・・っちゅうことになりますかね。

 レッズの内容が悪かったというニュアンスはないと思いますよ。中盤ディフェンスの機能性も、サイドから崩したり中央のワシントンをうまく活用したりといった「仕掛けの変化」も悪くはなかった。前半では、8人プラス1人で堅牢な守備ブロックを形成し、チェイス&チェックからボールがないところでの粘りマーキングまで、とにかく基本に忠実な戦術サッカーを展開するエスパルスに対し、レッズもしっかりと相手ペナルティーエリア内に入り込むようなチャンスを作り出していましたからね(長谷部とアレックスのコンビは切れていた!)。

 そんなポジティブな流れは、一点を追う後半も変わらなかった(何本かの絶対的チャンスがゴールにならなかったのは不運としか言いようがない!)。ただ、最後のパワープレーに入った時間帯での仕掛けでは、もうちょっと「変化のアイデア」が欲しかったよね。エスパルス守備陣は、次にレッズがどのように仕掛けてくるのか、事前に、明確にイメージできていたからネ。そんなときこそ(ヘディングに強い選手が最前線にいるからこそ?!)、もっと積極的にサイドを活用したり、中距離シュートをブチかましたり、ロングシュートにチャレンジしたり・・。まあ、タラレバのハナシだけれど。

 それにしても、エスパルスの守備から攻撃への転換の素早いこと(基本的には、守備ブロックを固め、高い位置でボールを奪い返して素早いカウンターを狙うというイメージ)。本当によくトレーニングされている。それに、マルキーニョスの良いところが存分に発揮されていたし(周りの味方も、彼のサポートを効果的にこなしていた!)、吹っ切れた(危険な)中距離シュートを積極的に打つことでレッズ守備ブロックのイメージを惑わせたりもしていた。

 そんな彼らのプレーを観ながら、ワンチャンスにかける気持ちの強さでは完全にエスパルスに軍配が上がる・・なんて感じていましたよ。そしてそんなタイミングで、マルキーニョスの先制ゴールが決まったというわけです。セットプレーからタテパスが出た瞬間に(三人目として!)スタートを切ったマルキーニョス。味方からのダイレクトパスを受けながら、マークする堀之内を振り切り、最後は、冷静に「ゴールへのパス」を決めた。素晴らしいゴールでした。

 その2分後には、チョ・ジェジンが、ファーポストでクロスボールを受け、これまた堀之内をかわしてゴールを決めた。ということで、この二点ともに、最後の瞬間に対応していたのは堀之内。さて・・。先制ゴール場面は、確実にマークミスだよね(マルキーニョスに一瞬のポールウォッチのスキを突かれて先にスタートされてしまった?!)。また二点目のシーンでも、チョ・ジェジンに、クロスが上げられる瞬間スッとファーポストスペースへ動かれ、間合いを広げられてしまったし、その後の対応も中途半端だった。まあ、良い学習機械だと思ってビデオを見直して「工夫」しましょう。

 脅威と機会は表裏一体。レッズは、この敗戦を、様々な意味での「出直しの機会」と捉えるべきでしょう。これからも対戦相手は守備を固めてくるだろうし、効果的なカウンターも仕掛けてくるでしょう。だからこそ、攻守にわたって統一されたイメージをもっともっと深化させなければならない(イメージシンクロレベルの高揚)。要は、戦術的なイメージトレーニングを効果的に活用する方策を探るということです。上手く編集されたビジュアル素材を駆使したイメージトレーニング(ビジュアル・プレゼンテーション)ほど効果的なモノはありませんからね。

 



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