湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2007年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第11節(2007年5月12日、土曜日)
- 完璧にグランパスのゲーム戦術にはまってしまったマリノス(マリノス対グランパス、0-2)・・ツキに縁のないジェフ(FC東京対ジェフ、4-1)
- レビュー
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- グランパス、フェルフォーセン監督が(選手たちの考えも巧みに採り入れながら!?)うまく組み立て、徹底させたゲーム戦術(相手を分析して特別に組んだチーム戦術・・相手に対処するためのサッカーのやり方)に、マリノスが完璧にはまり込み、心理的な悪魔のサイクルに陥ってしまったというゲームでした。
それにしても、これほど見事にゲーム戦術が機能した試合を観るのは久しぶりかもしれない。そのことは、一点リードされて入った後半のマリノスが、ホームであるにもかかわらず、その後もまったくといっていいほどペースをアップさせられなかったことからも如実に証明されていました。
早野監督は、ハーフタイムに「ポストプレーをしっかりやって、二列目がもっと勇気をもって最前線へ飛び出せ・・後半は相手の倍は走ろう・・」という指示を徹底させようとしたらしいけれど、結局チームは、笛吹けど踊らずだった。まあ、二点リードされてからの最後の15分間は、やっと我々が期待するマリノスのダイナミックサッカーが出てきたけれど、時すでに遅しってな具合でした。
この一ヶ月間の「J」では、フェルフォーセンさんも言っていたように、疑いの余地なく、マリノスがベストチームでした。サッカーの魅力と勝負強さを高い次元でバランスさせた素晴らしいダイナミックサッカー。一人の例外もなく主体的に仕掛けていく守備プレーが有機的に(そして効果的に)連鎖しつづける素晴らしいプレッシング・・そして脇目もふらずに前線スペースへ仕掛けていくアグレッシブな攻撃姿勢・・そこでの、(ボールがないところでの全力フリーランニングをベースにした!)組織パスプレーと、勇気あふれる単独ドリブル勝負のメリハリは、まさにスーパー・・等々。
そんなマリノスのダイナミックサッカーが、この試合では完全に「去勢」されてしまったのですよ。フェルフォーセンさんのゲーム戦術イメージは、こんな感じ・・
・・いまのマリノスに対してスリーバックでやったら、押し込まれてファイブバックにさせられてしまう・・また、ラインを下げたら(受け身で守備的なサッカーにしたら)やられてしまう・・相手の中盤二列目の三人(山瀬兄弟と吉田孝行)をいかに抑えるのかがテーマ・・そのために、フォーバックの前に四人の中盤を並べ、彼らの二列目のダイナミズムを抑制するというイメージにした・・グランパス中盤の四人の距離を縮め、そこで協力プレッシングを掛けることでボールを奪い返して素早く前線へ勝負パスを供給するというイメージ(まさに、そのイメージがピタリとはまったカウンターゴールが2発!)・・そんな守備タクティックがうまく機能したからこそ、攻めでも、後方からのサポートがうまく機能した・・等々。フムフム、なるほど。
そして、まさにそのイメージ通りにゲームが展開していったのですよ。マリノスは、たしかに協力プレッシングでボールを奪い返しはするけれど、その後の攻めでうまくタテへ抜け出していけない。またサイドからの仕掛けもままならない。それもそのはず。グランパスは、ボールを奪い返しても、そこからすぐに人数をかけて前線へ仕掛けていくというのではなく、注意深く押し上げていたからね。すぐにボールを失っても、後方のディフェンス組織はまだしっかりとしているというわけです。
グランパスの守備ブロックは、アルセーヌ・ベンゲルさん当時の「4x4のボックス陣形」に限りなく近かった。その「ボックス」が、マリノスが仕掛けてくるゾーンに合わせて前後左右に移動するのですよ。マリノスがうまくスペースを見つけられないのも道理。また(例えばサイドから)ドリブルで突っ掛けていこうとしても、すぐに「前後でペアになった」グランパス選手に協力プレスを掛けられてしまう。
特に、山瀬幸宏と吉田孝行(田中隼磨とのコンビ)が仕掛けるサイド攻撃は、ほぼ完璧に抑えられていた。「4x4ボックス陣形」の両サイドにいる「前後のペア」が、スペースをコントロールし、協力してチェイス&チェックとプレスを仕掛けるのですよ。ホントにうまく機能していた。
たしかに立ち上がりの10分間くらいは、グランパスが展開する「4x4ボックス陣形」の、最終ラインと中盤ラインの間にあるスペースへ、後方のマリノス選手がどんどんと飛び出していた。だから、仕掛けもうまく機能するという予感があった。でも、徐々にグランパスの「4x4ボックス陣形」がうまく機能しはじめたことで、逆にマリノス選手たちの足が止まり気味になっていったのですよ。そしてマリノスは、どんどん深く、相手のゲーム戦術に「はまり込んで」いった・・。
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それにしてもアマル・オシム監督にはツキがないというイメージが付いてまわる。
何せ、一点をリードされて入った後半立ち上がりにFC東京に奪われた3ゴールは、その全てがまさにオウンゴールみたいなものだったからね(実際に4点目はオウンゴールだったけれど・・)。
前にも、アマル・オシムさんが、レベルを超えてツキに見放されたというゲームを観戦した覚えがある。たしか、ジェフのホームでのエスパルス戦(今シーズン第二節)。前半16分から、あれよあれよという間に、4分間で3ゴールも奪われてしまった。ジェフは、良い内容のゲームを展開していたのに・・。
ツキに恵まれないという印象が強く残るのは、ジェフが、しっかりとした内容のサッカーを展開しているからに他なりません。だからこそ、惜しい(悔しい)負けという印象が強く残るのですよ。とにかくジェフには、そんな試合が多い。
ここで出てくるのが、個の能力という視点。良い内容のディフェンスは展開しているけれど、決定的な場面で信じられないような(集中切れの!?)ミスをして相手にゴールを献上してしまったり(この試合がまさにそうだった!)・・攻撃では、人とボールがよく動くダイナミックな仕掛けを展開できているのに、最後のところでシュートをミスしたり個人勝負でギリギリのところで競り負けてしまったり・・。
チェイス&チェック(守備の起点プレー)から協力プレスやインターセプト、はたまた忠実マーキングまで、全ての守備プレーが、しっかりと有機的に連鎖しつづけているにもかかわらず、肝心な最終勝負で(この試合のように)凡ミスが出てしまったり・・。
攻撃では、ボールがないところでの忠実な動きをベースに、最前線のスペースを素早く広い組織パスで突いていくコンビネーションは素晴らしいのだけれど、いかんせん、最終勝負を決める「個のチカラ」がついてこないから、ギリギリのところで相手に潰されてしまうシーンの方が目立つ。この試合でも、羽生がつづけて二度も決定的シュートチャンスを得るなど、組織コンビネーションを基盤にした良い仕掛けシーンを何度も演出したけれど・・。
ところで(ゴール数的には)快勝を収めたFC東京。足許パスが多かったり、ゴリ押しの個人勝負が目立ったりと、内容的には決して誉められたものじゃなかったけれど、まあ勝ったことが、何らかの心理的な弾みになればいいよね。彼らもまた、このところツキに見放されていたからね。
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