湯浅健二の「J」ワンポイント


2007年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第12節(2007年5月19日、土曜日)

 

それにしてもジェフは、もったいない失点が多すぎやしないだろうか?・・(ジェフ対サンフレッチェ、1-3)

 

レビュー
 
 「ジェフは良いチーム・・運動量が豊富な優れたサッカーを展開している・・その内容は、明らかに今彼らがいる順位以上のものだ・・まあ、それもサッカーということだけれど・・彼らは、もったいない失点を重ねてきた・・それが現在の順位に如実に現れているということだ・・」。サンフレッチェのペトロヴィッチ監督。

 「我々のサッカー内容は、しっかりとした良い部分も多い・・ただ試合を決定するような肝心なところでその良い部分が出てこないことの方が多い・・「J」は実力伯仲のリーグ・・このように簡単に失点してしまってはリカバーするのが困難になる・・チャンスは作り出すけれど、肝心のゴールを奪えない・・我々の場合、結果や順位と自分たちのサッカー内容が正しくリンクしているとは思わない・・変えるべき所を(地道に)変えていけば、おのずと順位は変わっていく・・」。ジェフのアマル・オシム監督。

 まあ、ジェフについては、私も彼らのコメント内容にアグリーです。これまでに何度も書いてきているようにネ。とはいっても、私が観たゲームが(ホームでのエスパルス戦、アウェーでのFC東京戦、そしてこの試合)、ことごとく、偶発ファクターが先行したイージーな失点を短時間に重ねてしまい、結局それをリカバーできなかったという展開だったから、どうもフラストレーションが溜まりに溜まってしまって・・。

 ということで、この試合では、試合を決定づける「個の勝負マインドの差」というポイントを取り上げることにしました。要は、サンフレッチェには、ウェズレイがいる、佐藤寿人がいる、柏木陽介がいる、駒野友一がいる・・ということです。

 もちろんジェフにだって、水野晃樹や山岸智がいたり羽生直剛がいたりするけれど、肝心なところで、個のチカラが存分に発揮できていない(勇気のある、エイヤッの個人勝負を仕掛けていかない)という印象が強いのです。

 要は、ここは個人勝負しかない(!)という場面でも、パスをしてみたりするのですよ。相手を抜き去って決定的スペースへドリブルで勝負していくべきなのに。そして結局、中途半端なタイミングでクロスやパスを送り込んだりするのですよ。ということで、ジェフの得点チャンスは、そのほとんどが「ラストパス(ラストクロス)」からのダイレクトシュートということになります。

 それに対してサンフレッチェの場合は、スムーズにボールを動かす組織的な仕掛けプロセスのなかに、ウェズレイの(身体全体をうまく活用した)粘りのキープからのパワフルシュートや、佐藤寿人の超速ドリブル突破&強引シュート(彼の場合は、抜け出しパスレシーブの動きが素晴らしいからこそ、たまに繰り出すドリブル突破が効果的!)、はたまた柏木陽介のスキルフルなドリブル勝負からのシュートトライなど、うまく、個の勝負という「仕掛けの変化」もミックスできている。要は、組織パスによる最終勝負と個のドリブル勝負をうまくバランスさせられているということです。

 またサイドからの仕掛けにしても、サンフレッチェの両サイド(駒野と服部)の方が、ドリブル突破の方向やテンポ、クロスを送り込むまでのプロセスなどに、より多彩な「変化」があると感じます。

 そして、最後にモノを言う「シュート決定力」の差。サンフレッチェのウェズレイは、この試合でハットトリックを達成したのだけれど、その三点目シーンが象徴的だった。トント〜ンと、佐藤寿人とコンビネーションを決めて抜け出し、ジェフGKと一対一になるウェズレイ。そして最後は、まさに冷血動物といった趣で、クールに「ゴールへのパス」をキッチリと決めてしまうのですよ。

 それに対して、前半に素晴らしいフリーのシュートチャンスを得た巻誠一郎は、狙いすましたシュートを、相手ゴールキーパーがもっとも防ぎやすい「上半身の周辺」に飛ばしてしまった。

 あのシーンでは、確か羽生(!?)が、ベストタイミングとコースの「胸で落とすラストパス」を、巻誠一郎が走り込む眼前スペースへ置くように送り込みました。そのことでまったくフリーで余裕のシュートを打てるという状況だったにもかかわらず、結局、巻誠一郎の狙いすましたシュートは甘いコースに飛んでしまって・・。それは、最終勝負での「個のチカラの差」を象徴していたシーンだと感じたのは私一人ではなかったに違いありません。

 とはいっても、人とボールをしっかりと動かしつづける組織プレーの内容では、確実にジェフに一日以上の長がありました。でも、実質的な勝負所の「量と質」では、明らかにサンフレッチェに軍配が上がる・・。ジェフは、もっと、組織プレーと個人勝負プレーをうまくミックスしていくための「バランス感覚」を磨く必要がありそうです。

 組織プレーの内容を落とさずに、個人勝負の「量と質」を上げる・・。たしかにそれは簡単なことじゃないかもしれない。それでも、人とボールをあれだけスムーズに動かせるのだし、それをベースに上手くスペースも使えているのだから、可能性は大きいと思いますよ。例えば、相手守備ブロックの薄い部分(スペース)でボールを持った選手は、例外なくドリブル勝負を仕掛けていかなければならない・・なんていう暗黙のルールを設定するとかね。

 もちろん、個の勝負を強調することは(チーム戦術イメージのニュアンスに変更を加えることは)、組織プレーの質を高みで維持するという観点からすれば、そのことがリスク要因になる可能性も否定できません。とはいっても、あれだけ組織プレーがカッチリと機能しているジェフのことだから、そこでの個の勝負プレーを徐々に強調していくのは、逆のケースよりは容易かもしれない・・。まあとにかく、そこでは、監督のバランス感覚が問われてくるということです。

 最後に、ペトロヴィッチさんが言った、ジェフはもったいない失点を重ねてきた・・という発言。次の試合のスカウティングをするなかで(ジェフの試合ビデオを分析するなかで)彼が実感したことなんでしょう。たしかに、その通り。

 味方が攻め上がろうとするタイミングでの不用意なミスパスとか、安易なボール奪取アタックとか(それでは一発で置き去りにされてしまう!)、勝負所でボールウォッチャーになってしまうとか、守備の判断が甘いことでカバーリングが遅れてしまうとか、とにかく「もったいない失点」の背景要因は明確です。そのことについては、アマル・オシム監督も十分に承知していることでしょう。

 ということで、守備での有機連鎖イメージの強化と、攻撃での「組織と個のバランスの高揚」が、当面のジェフの課題だと思っている湯浅でした。

 



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