湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2007年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第17節(2007年6月23日、土曜日)
- なかなか興味深いコンテンツが満載でした・・(フロンターレ対ジュビロ、2-3)
- レビュー
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- 「まず相手のキーマンを抑え、それをベースに流れを我々の方に引き寄せながら攻めるというイメージだ」。ジュビロのアジウソン監督が、ほとんどウインクでもしそうな雰囲気で語っていました。前にも書いたけれど、なかなかのパーソナリティー。なかなかの策士(役者)。いいじゃありませんか。
この試合は、そんな役者アジウソンの策略がツボにはまったゲームになりました。まあ、ゲーム戦術のぶつかり合いといった構図だから、具体的な守備イメージから入っていく方が有利なことは確かな事実だよね。
要は、キーパーソンがいるかどうかということ。フロンターレには、中村憲剛とジュニーニョ(また我那覇やマギヌン)がいる。そんなキーパーソンをマンマークで抑えるという具体的なゲーム戦術イメージをもって試合に臨んだジュビロの方が、ゲームの流れを掴みやすかったということです。
守備こそがすべてのスタートライン。具体的な守備タスクをイメージしていたジュビロ選手たちは、立ち上がりから、忠実でクリエイティブな守備プレーをチームのなかでしっかりと「有機的に連鎖させ」つづけるのですよ。だからこそ次の攻めでも、太田吉彰や前田遼一が仕掛けの起点を演出し、それに後方からのサポートが「有機的に」絡みつづけることで全体的なゲームペースを掴みやすかった。
それに対してフロンターレは、素早く間合いを詰めるチェイス&チェック(守備の起点を演出するプロセス)や、どこまでも付いていくボールがないところでの忠実マークといった基本的なディフェンス機能をうまく高揚させられないことで、また、ジュビロのマンマークによってキーパーソンの機能性が抑えられていることで、どうもペースを掴みきれない。
前半については、決定的なチャンスも含めた全体的な流れでは互角とも考えられるゲーム内容に見えたけれど、私は、守備のコンテンツをベースにした実質的なゲームの支配という視点では、ジュビロに軍配が上がると見ていました。微妙なところだけれどね。
そんな流れのなかで後半の立ち上がりにジュビロが勝ち越しゴールと追加ゴール決めて3-1とリードしてしまうのです。特に3点目は見事だった。何が見事だったかって? それは、ファブリッシオが魅せたカウンター攻め上がりとスーパーなサイドチェンジ。それが見事に左サイドの船谷圭祐に合うのです。あれだけ見事に「振られ」たら、フロンターレ守備ブロックもたまらない。何せカウンター状況だからね(守備ブロックが薄い!)。そして最後は船谷からのラストパスを前田遼一にズバッと決められたというわけです。
このゴールでは、ファブリッシオに「0.5ゴール」ぶんのご褒美をあげるべきです。そうでしょ、アジウソンさん。何せこの追加ゴールは、勝利にとってものすごく大事な意味を内包していたからね。ファブリッシオだけれど、彼は、それ以外でも、ボランチとして、中盤での素晴らしい「穴埋め作業」をこなしていた。とにかく、ジュビロ勝利の隠れた立役者は、何といってもファブリッシオだったと思っている湯浅なのです。
さて、3-1とリードされたフロンターレ。そこから、やっとエンジンが掛かってきます。彼ら本来のダイナミックサッカーがよみがえってきたのです。じゃ、どうして最初から普段のダイナミックサッカーが出来なかったのか・・??
そんな私の質問に、フロンターレの若き指揮官は、こんな風に答えてくれました。「そんなに悪い流れだとは思わなかった・・状況を落ち着いて受容するなど、大事にスタートできていた・・たしかに立ち上がりは慎重に過ぎたかもしれないが・・その視点では、ダイナミックなサッカーの流れを自分たち主体でコントロールするというポイントに課題が残る・・とはいっても、全体的な流れでは、我々もしっかりと押し返してチャンスを作れていた・・失点にしても、守備ブロックが崩されたわけではなく、セットプレーからのミスとロングボール一本からの偶発的なものだった(まあ関塚さんは、ジュビロの三点目については言及しなかったけれどネ)・・とはいっても、ジュビロのマンマークが厳しく、太田を中心にサイドから仕掛けられるといった苦しい時間帯があったのも確かなことだった・・」などなど。フムフム・・。
そんな、どちらかといったら「鈍重」とも表現できそうな展開だったから、ジュビロに大量リードを奪われてからのフロンターレが魅せた、フッ切れたダイナミックサッカーが光り輝いたのですよ。そこには、我々がイメージするフロンターレの力強いサッカーがあった。その復活プロセスでのキーポイントは、何といっても、中村憲剛が本来の(!?)ボランチに入ったこと。そこで彼は、攻守にわたって抜群のリーダーシップを発揮しはじめたのです。
そのリーダーシップが爆発したのが後半24分のチャンスメイクシーン。中盤の深いところでボールを持った中村憲剛が、谷口とのワンツーコンビネーションでスペースへ抜け出す。そして、巧みなキープドリブル&ルックアップでマークする相手を翻弄し、次の瞬間、タテへ抜け出すジュニーニョがイメージする決定的スペースへ向け、まさに天才的なタテパスをピタリと決めたのですよ。でも結局は、ジュニーニョがシュートミス。そのジュニーニョの同点ゴールが入っていれば、ものすごくエキサイティングな「憲剛ストーリー」が完結したのに・・。またまたタラレバの湯浅でした。
それにしても中村憲剛は、ボランチとしてのイメージを確立しつつある。ただ、アジアも含む国際レベルで効果を発揮するためには、ボール奪取勝負シーンでの(競り合いでの)強さや駆け引きなど、もっともっと守備での実効レベルを上げなければいけません。でも、彼のボランチとしての攻守にわたる実質的プレーコンテンツからは、代表での、遠藤ヤットとナカナカコンビ、そして鈴木啓太という「中盤カルテット」の共演に対する期待が高まりつづけますよ。そこでの絶対的なキーワードが、優れた守備意識(主体的に考える力・決断力と実行力・強烈な意図と意志の力などなど)にあることは言うまでもありません。
あっと・・フロンターレ対ジュビロ。中村憲剛がボランチの位置へ下がったこともあって本来のダイナミズムを取り戻したフロンターレだったけれど、結局その流れをキープできたのは15分くらいでしたかね。ゲーム終盤の10分間は、ジュビロが展開する、忠実なディフェンスを基盤にしたステディーなサッカーが、再び勢いを盛り返したのです。ということでこの試合は、ジュビロの「作戦勝ち」ということでした。
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