湯浅健二の「J」ワンポイント


2007年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第18節(2007年6月30日、土曜日)

 

第18節・・まさにチーム一丸のジェフ(横浜FC対ジェフ、0-1)・・組織プレーが本物になりつつあるレッズ(ジュビロ対レッズ、0-2)

 

レビュー
 
 「二つの強くないチーム同士の対戦だった・・ということで、あまり良いゲームではなかった・・そのなかでも運よくジェフが勝つことができた・・いまの我々のチーム状態では良いゲームはできない・・」。

 記者会見でのアマル・オシム監督は、そんなネガティブコメントからスタートしました。ちょっと違和感があったから、カウンター気味に、こんな質問をしてみることにしました。「アマルさんは、ネガティブなコメントばかりしているけれど、リードしているにもかかわらず後半はペースアップできたことなど、内容的にはポジティブな部分も多かったと思う・・最初のネガティブなコメントは本心だったのでしょうか?」。

 「あなたのポジティブな評価は嬉しいが、私のコメントは本心だった・・とにかくこの試合でのジェフは良い出来ではなかったと思う・・まあ、たしかに良い流れの時間帯もあったけれど・・山岸の先制ゴールの後、何度か追加ゴールを奪えるチャンスも作り出したし・・とにかく、全員が全力で闘って勝ったことはポジティブだった・・まあ、試合の内容だけを考えるならば、負けたけれど、前節のゲーム(1-2で負けたアルビレックス戦)の方が良かった・・」。フムフム・・。

 ストヤノフのことは残念だけれど(もう修復は不可能なんですよネ?)、その出来事の後、ジェフは3勝1敗。それも、しっかりと全力で最後まで攻撃的サッカーをやり通しての成果でした。チームの「モラル」は決して地に落ちたわけではありません。この試合でも、私の最初のメモは、「モラル・・OK!」というものでした。もちろん「それ」は、守備プレーの内容や、攻撃でのボールがないところでのプレー内容に如実に現れてきます。

 選手個々のチカラを単純総計したチーム総合力では限界があるけれど、持てる実力を限界まで発揮しつづけているジェフには相変わらずシンパシーを感じます。まあ・・ね・・。ジェフには何人もの代表選手がいるんだゼ・・なんて指摘されたら返す言葉がなくなってしまうけれど、それでも彼らが代表チームの縁の下の力持ちタイプ(汗かきタイプ)のグループであることも確かな事実だからね。

 ジェフが展開する積極サッカーにおけるキーワードは、何といっても「守備意識」という表現に集約されるよね。忠実な(全力の)チェイス&チェックで、素早く「守備の起点」を作り出し、周りのマーキングや協力プレスアクション、はたまたインターセプト狙いアクションなどが有機的に連鎖しつづけるのです。そして、高い位置でボールを奪い返してからは、鋭い組織的な仕掛けを繰り出していく。そこでは、二列目、三列目の飛び出しもまた有機的に連鎖しつづけていました。たしかに絶頂期と比較すれば、ボールなしのアクションの「勢い」にちょっと陰り傾向は見えるけれど、それでも、まだまだパワーにあふれていると感じるのです。

 この試合では、たしかにシュートの総数では互角だったけれど、ゴールチャンスの量と質では、完全にジェフが凌駕していた。それも組織プレーばかりじゃなく、工藤や水野、はたまた山岸が、ドリブル勝負から「も」チャンスを作り出すのだからね。なかなかの迫力でした。

 ということで山岸智。この試合では、彼のプレーが急速に発展ベクトルに乗りはじめたことも目立っていました。羽生からのヒールパスを受け、工藤とのワンツーで抜け出して自ら決めた見事な決勝ゴールがあったから言うのではありません。そうではなく、最近のプレー内容を観察したうえでの評価と考えてください。

 守備での汗かきプレーに勢いを乗せられるようになっただけではなく(ホントに守備での実効レベルが上がっている)、攻撃でも、しっかりとリスクチャレンジができるようなっている。以前だったら、ためらって安全パスに「逃げた」ようなシーンでも、いまでは、積極的に自ら仕掛けていくようにマインドが高揚しているのです。そんなプレー姿勢が、決勝ゴールにつながったということですね。

 もう一つアマル・オシム監督の采配について。後半の最後の時間帯では、横浜FCに攻め込まれる状況に陥りました。そこでは、かなり危ない場面も作られた。それは、ジェフ守備ブロックが消極的に下がり気味になったことと、横浜FCの「前掛かりエネルギー」が大きく高揚したことの相乗現象だと捉えることができると思います。

 そんな危ない状況でアマル・オシム監督が動くのですよ。動きの落ちた楽山孝志とフレッシュな伊藤淳嗣を交代させ、そして伊藤を、攻め上がる横浜のキーマンとして機能していた根占真伍にピタリとマンマークさせたのです。私も、横浜FCの攻め上がりパワーの大きな部分を、根占が展開する効果的な中盤守備とゲームメイクセンスが支えていたと思っていました。まさにピタリの対応。そして、横浜FCの攻め上がりパワーが徐々に減退していくのです。なかなかの采配だと思っていました。

 チームの逆境を、全員が協力し合うチームスピリットで乗り切ろうとするジェフ千葉。今のところは、チームのモラル(あるいは、心理的・物理的な状態という意味のチームのフォーム)はまだまだ高いレベルにあると思います。これから、ジェフ千葉というチームがどのように変化していくのか・・。一人のサッカーコーチとして興味の尽きないところではあります。

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 さて次は、テレビ観戦したジュビロ対レッズ戦。

 このゲームについては、レッズが余裕をもって勝ち切ったという表現が適当でしょう。何せ、レッズが二点リードするまでの(ジュビロの田中誠が退場になるまでの)前半立ち上がり30分間のサッカー内容を比較すれば、チーム総合力で、あきらかにレッズに一日以上の長があることは一目瞭然でしたからね。

 それは、ここ数試合で(A3大会の後から)レッズのサッカーが大きく発展した(復調した!?)からに他なりません。要は、人とボールがよく動く組織サッカーが高揚しつづけているということです。それについては、前節のエスパルス戦でもレッズが誇示していました。組織プレーの高揚が、着実に選手たちの自信と確信レベルを高揚させているということです。

 もちろんその絶対的なバックボーンは、高い守備意識(それをベースにした実効ある汗かきディフェンス!)に支えられたコンパクト守備。守備意識に対する相互信頼があるからこそ、誰でもリスクにチャレンジしていけるということです。だからこそ、レッズの攻めに絡んでくる選手の数も増えた。もちろんその意味は、受け身のプレー姿勢で次のディフェンスに備えるための要員ではなく、あくまでも、決定的スペースを狙う「二人目、三人目、四人目の飛び出し要員」という意味合いです。だから、堀之内といった「見慣れない顔」が最前線に進出してくるシーンが増えるのも道理。いい傾向です。ホルガー・オジェック監督の「チーム戦術的なイメージ作り」がやっと実を結びはじめたということでしょう。

 この試合でも、鈴木啓太と長谷部誠のボランチコンビが、攻守にわたって素晴らしい機能性を魅せつづけました。すでに日本を代表するボランチとして勇名を馳せている鈴木啓太については言うまでもないけれど、この試合では、長谷部誠も目立ちに目立っていた。絶頂期のプレー内容に近づいていると思います。とにかく、攻守にわたって仕事を探しつづける(動きつづける)プレー姿勢は「超」がつくほどのレベルにあると思いますよ。この二人(啓太と長谷部)の間にある「互いに使い・使われるメカニズム」に対する「あうんの呼吸」は見所満点でした。

 次に「ワシントン」というテーマ。ビックリするくらいよく動くようになっている・・また守備でも実効あるプレーを展開しはじめている・・。これも、攻守にわたるチームの組織プレーがうまく機能しはじめたことの効果の一環なんでしょう。

 組織プレーの機能性アップ効果の一環と書いたのは、彼もまた、レッズの変化をしっかりと体感していると思うからです。チームのなかでは、守備意識と(攻撃での)ボールがないところでの動きがメインストリーム(主流)になっている・・だからこそ、自分に回ってくるチャンスの量と質も大きな高まりをみせている・・ここで、その流れに乗らなければ、様々な意味で「置き去り」にされてしまうかもしれない・・ホルガー・オジェック監督は、悪いプレーをしたら断固としてメンバーから外すだけの強い意志をもっているからな・・。

 最後に、ある現象を見ていて思い出したサッカーの原則について一言。

 その原則とは、タテの(攻守の)人数やポジショニングの「バランス・マネージメント」によって、次の守備の実効レベルが決まってしまうということ。要は、後半、一人足りないにもかかわらずジュビロが攻め上がりつづけたゲーム展開で、何度となくレッズが、カウンターから決定的なチャンスを作り出したという現象のことです。

 たしかに後半のジュビロは吹っ切れた攻め上がりを魅せつづけました。でも「それ」はバランス感覚を欠いていた。何せ、行ってはいけない選手までも最前線へ上がりっぱなしになっていたからね。でも次のディフェンスに戻ってこない。ということで、人数をかけて攻めるのはいいけれど、「その後」が機能しないから、レッズに、カウンターで何度も決定的チャンスを作り出されてしまったのですよ。レッズに決定的な追加ゴールを決められなかったのは、ホントに奇跡に近かった。

 ここで言いたかったことは、攻守にわたって、常に数的に優位な状況を作りつづけるという発想こそが、サッカーのチーム戦術と呼ばれているものの根源的なスタートラインだということです。だからこそ動きの量と質が問われる。上がりっぱなしで攻撃に人数をかければ、もちろん仕掛けのパワーはアップするけれど、そこから「次の守備」に戻らなかったら、もちろん守備ブロックは「ザル」になってしまうということです。後半のジュビロには、その「バランス」を司るリーダーがいなかったということですかネ。

 もちろんジュビロは、一人足りない状況で2点差を追い掛けなければならなかったわけで、そこでの「タテのバランス」は、通常よりも、もちろん「前掛かり状態」にはなるけれど、それでもネ・・というわけです。そこでは、攻撃的になり「過ぎて」も、守備的になり「過ぎ」てもいけない。様々な意味を内包する「バランス感覚」という能力は、非常に重要な意味をもっているのです。

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 さて私は、来週の木曜日(7月5日)から「アジアカップ」へ出かけます。まず、バンコクで開幕の二試合を観戦し(タイ、オーストラリア、イラク、オマーン)、7月9日の早朝にハノイへ飛んで「日本対カタール」を観戦するという立ち上がりスケジュール。

 そこでは、昨年のドイツワールドカップのように、「日記」的に毎日コラムをアップしようかななどと思っています。さて、どうなることやら・・。

 最後に、7月11日に、本当に久しぶりの書き下ろしを出版することになりました。その情報については、「こちら」を参照してください。それでは、次はバンコクから・・。

 



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