湯浅健二の「J」ワンポイント


2007年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第24節(2007年9月2日、日曜日)

 

レイソルとマリノスの「それぞれの継続性」・・(レイソル対マリノス、1-0)

 

レビュー
 
 「例えば、中澤をトップに上げ、大島との高さのツートップにするとか・・」

 「それは荒唐無稽だな・・まあ、サッカーの見方には色々あるわけですから・・いま我々が作っているのは、そう簡単に変化させられるような(サッカーの方向性を柔軟に変化させられるような)モノではないと考えている・・」

 これは、試合後の記者会見での、私と、マリノス早野監督とのやりとりです。私の質問には前段がありました。「たしかにマリノスが全体的には押し込んでいたけれど、そんなゲームの流れとは裏腹に、マリノスが効果的なチャンスを作り出せていたかといったら、ノーだと思う・・レイソルの守備ブロックは、余裕をもってマリノスの攻めを受け止められていた・・そこで質問だが、レイソルの守備ブロックがまったく予想もしないような、彼らがビックリするような変化を演出することで活路を見いだそうと考えなかったか・・例えば・・」といったところです。

 早野監督のコメントが意図していたところは、よく分かります。我々は器用ではない・・とにかく今は、このサッカーの方向性をもっともっと確固たるものにすることの方が急務なのだ・・(たまにうまくいかないコトがあったといって)大きくサッカーの方向性の舵を切るなどということは、逆にネガティブな結果を招いてしまうだろう・・とにかく今は、我々が目指しているサッカーへ向けて、脇目を振らずに邁進するのみであり、戦術的な対処療法などという器用なことにはトライすべきじゃない・・。

 早野監督は、こんなことも言っていた。「自滅的なゲームだった・・相手に引かれたことで、その状況をうまく打開していけなかった・・そこから我々の課題が浮かび上がってくる・・とにかく結果を真摯に受け止めなければならない・・今の我々のチカラはまだまだということを再認識することではじめて、どんな状況になっても、相手を攻め倒すことが出来るようになる・・」。

 相手を攻め倒す・・ネ〜、なかなか良い表現じゃありませんか。今度から使わせてもらおう。とにかく早野監督の確信が込められたコメントからは、(シーズン開始前は)ネガティブな論調のオンパレードだったマリノスをここまで引っ張り上げた早野監督のグッドパーソナリティーを感じます。継続こそチカラなり・・。

 さて、レイソル。この試合における核心のポイントは、何といっても、レイソルが展開したクリエイティブでダイナミック、そして極限まで忠実なディフェンスにありました。高い守備意識・・忠実なマインド・・だからこそ、それぞれの守備プレーが有機的に連鎖しつづける・・。

 「リーグ中断あけから、マリノスがよいチームへ成長していったと感じる・・強いマリノス・・だから今日の中心テーマは、いかにマリノスを抑えるかということだった・・また、我々が志向しつづけている高い位置からプレスが、マリノスにどこまで通用するのかを体感したいということもあった・・そんななかで奪った立ち上がりのラッキーゴール・・その後は攻め込まれ、守備ラインも下がってしまった・・またボールを奪い返す位置が低く、中継の選手がうまくボールをキープ展開できないことで、うまくカウンターに結びつけられなかった・・それが今後のテーマになる・・とはいっても、マリノスに目立ったチャンスを作らせなかったことも確かな事実・・その意味では、ある程度は満足している・・」

 レイソル石崎監督のコメントだけれど、たしかにレイソルの守備ブロックは、マリノスに押し込まれたことで、ちょっと下がり気味になってしまう傾向にはありました。それでも、要所では、本当に素晴らしい協力プレスの輪を築けていた。マリノスのボールがちょっとでも停滞気味になった次の瞬間には、複数のレイソル選手たちがプレスの輪で取り囲んでしまうのですよ。また、ボールがないところでのマリノス選手の動きも、本当に的確に、そして忠実に、最後の最後までマークしつづけていた。本当に彼らはよくトレーニングされていると感じます。

 そんなレイソルの協力プレスディフェンスに対し、マリノスの組織プレーはどうも停滞傾向から抜け出せない。要は、ボールがないところの動きの量と質が十分ではなかったということです。もちろんその背景に、レイソルの忠実ディフェンスが効果を発揮していた(彼らの守備に、マリノスの仕掛けが抑え込まれていた)という側面もあったけれどね。ということで、結局は、マルケスや山瀬功治のドリブル勝負や、小宮山のドリブル突破&クロスくらいしか(要は、個の勝負プレーでしか)チャンスらしいチャンスを作り出せなかったマリノスでした。

 たしかに、山瀬幸宏が入ってからは、彼のボールがないところでの動きと、ボールを持ってからの積極的な個人勝負という「変化」によって、ちょっとマリノスの組織的な仕掛けが好転する(危険なものへと高揚する)兆しはみせたけれど、結局はレイソルの「クリエイティブな忠実さ」を打ち破るところまではいけなかったという結果になりました。

 そんなゲーム展開に、私も、時間の経過とともに、視点をレイソルの守備コンテンツに絞り込んでいったものです。そして舌鼓を打っていた。本当に彼らの守備意識と実行力は大したものだ。そんなレイソルの徹底プレーに、石崎監督の確かなウデが見えてくる。

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 しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。本当に久しぶりの、ビジネスマンをターゲットにした(ちょっと自信の)書き下ろし。それについては「こちら」を参照してください。

 



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