湯浅健二の「J」ワンポイント


2007年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第27節(2007年9月29日&30日)

 

今節は3試合をまとめて短くコメントします(ガンバ対トリニータ、レッズ対アルビレックス、ジェフ対FC東京)

 

レビュー
 
 所用が重なったことで、スタジアム観戦が叶わなかった今節。テレビ観戦で、ポイントだけ3試合をレポートすることにしました。まずガンバ対トリニータから。

 本当にガンバはよく勝った。それも、最後の最後でバレーの「個」が爆発してたぐり寄せた勝ち点3。優れた個の才能たちに、攻守にわたる組織プレーにも精進させるというコンセプトを標榜するガンバだけれど、やはりギリギリの勝負となったら「個のチカラ」がモノを言うという事実を再認識させられたという意味でも興味深いゲーム展開だったと思います。

 後半は守備ブロックをより固めて(より人をタイトにマークするマン・オリエンテッド守備)カウンターを狙うトリニータ。ガンバは、全体的なイニシアチブは握っているけれど、トリニータ守備ブロックのウラにあるスペースをうまく攻略できない。

 要は、ボールは支配しているけれど、つなぎパスばかりで、「仕掛けの流れ」がスタートするようなリスクチャレンジパスを繰り出せていないということです。それは、とりもなおさず「パスを呼び込む」タイミングのよい人の動き(=パスレシーブのフリーランニング)が出てこないということ。もちろん、単純な「二人目」のフリーランニングだけではなく、ポンポンポ〜ンというダイレクトパスをイメージした、二人目、三人目のフリーランニングも含みます。そんな「複合コンビネーション」こそがガンバの真骨頂なのに・・。

 後半25分くらいでしたかね、右サイドの加地へのスルーパスが決まってウラスペースを攻略できたのは。それが、後半では最初の(そして最後の!?)ウラを突いたコンビネーションでした。前半では、立ち上がりに、播戸が決定的スペースへ抜け出したシーンはあったけれどネ(山口からの決定的ロングパスが決まった!)。

 ウラスペースの攻略ですが、それは、ある程度フリーでボールを持つプレイヤーの演出ということと同義です。もちろん「ウラ」とは、最終ラインの後方スペースだけではなく、それぞれのディフェンダーの「背後」というニュアンスも含まれます。そしてそこに至るプロセスには二種類ある。組織パスプレーと突破ドリブル。

 後半のガンバは、天才ドリブラー家長を投入したけれど、結局は彼も、トリニータの効果的マンマークを「乗り越えられず」に大きなゲームの流れに呑み込まれてしまいます。相手の強烈なマンマークをパワーとスピードでブチ破ったり、ディフェンダーのチェックエネルギーを逆手に取って「かわし」たり出来なければ才能を活かすことなんてできない。やっぱり、人とボールを動かす組織プレーの流れにうまく乗らなければ「良いカタチ」で個人勝負を仕掛けていけないということです。だからこそ「組織と個のバランス」というキーワードが大事になってくるのですよ。

 そしてこの試合を決めたのは、バレーの「個のチカラ」。目の覚めるような(狩猟民族のスピリチュアルエネルギーが込められた!?)中距離シュートでした。そのシーンを見ながら、つくづく思ったものです。ホント・・サッカーって(表面的には)シンプルなボールゲームだよな・・。

 それにしても、トリニータのシャムスカ監督は、本当に良い仕事をしています。そのことは、勇気と責任感をもった忠実な(全力の)ディフェンス姿勢だけではなく、ボールを奪い返した後の、これまた勇気と責任感をもったサポートの押し上げなどに如実に現れています。選手たちの「意志」を高揚させられる良い心理マネージャー。シャムスカ監督には、そんな称号がふさわしい!? 意志さえあれば、おのずと道は開けてくるのです。

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 さて次も、「本当に」よく勝ったレッズ。ただしレッズの場合は、アルビレックス守備ブロックにキモを抑えられるのではなく、リスクにもチャレンジするなかでしっかりと決定的チャンスを演出しつづけていたけれどネ・・。

 とはいっても、実質的な勝負の流れには、このまま引き分けでゲームオーバーになるという雰囲気がただよっていました。皆さんも見られた通り、たしかにアルビレックス守備ブロックは、レッズの攻めを抑え込むというのではなく、それに対して粘り強く必死に「対応」するという受け身のプレー内容だったけれど、それでも、最後の瞬間まで決して気を抜かず、自分が取らなければならないマーキングポジションへ忠実に入ったり、パスやシュートコースを消したりしていた。それはそれで、観る者に感銘を与えるに十分な粘りプレーでした。

 ところで、レッズのエマージェンシー攻撃(何としてもゴールを奪いにいくというパワープレー)。基本的にはセットプレーがメインだけれど、この試合では、ワシントンの強さを活用するという(共有)イメージも際立っていた。

 レッズ選手たちもそのことを明確に意識して仕掛けていたということです。だから、ピンポイントではなく、フワッとしたクロスポールをワシントンへ送り込んでいた。ワシントンは、そのうちの何本かのクロスボールを、相手を身体で押さ込みながらコントロールしちゃうんだから大したもんだ。もちろん周りの味方は、ワシントンの強烈なポストプレーからのこぼれ球を狙って後方から飛び込んでくるというわけです(もちろんワシントンからの意図あるパスも含めてね!)。

 大柄な身体という武器を存分に使い切るスキル(技巧)イメージ。本当に巧妙です。何度もありましたよ、ロングフィードの浮き球やタテパスをしっかりとコントロールし、相手マークを背負った状態でボールを動かしながら最後はシュートまで行ってしまうという強引なプレー。前述したように、そんな状況でもアルビレックスのディフェンダーは、最後の最後まで(身体を密着させながら)粘り強くマークしつづけていたけれど、そんな粘りパワーの相手を引きずりながらも、しっかりとシュートまでいっちゃうんだからね。まあこれだったら、(組織コンビネーションにとっては!)最前線のフタになることがあっても許される。いや、ホントに頼もしいよ。特にアジアチャンピオンズリーグではネ。

 それにしても、最終勝負シーンでチーム全員が共通のイメージを描写できることの重要性を、これほど強烈に再認識させられたゲームも珍しかった。何せ、まさにワシントンを活用したその仕掛けプロセスが、ポンテの決勝ゴール生み出したんだからネ。

 あっと・・。エマージェンシー攻撃といったら、もちろんトゥーリオを忘れるわけにはいかない。この試合でも、ゲームの流れのなかで何度も相手ゴール前まで顔を見せていたトゥーリオだったけれど、最後の10-15分間は、まさにフォーワードとしてプレーしていた。まあ、いつものことだけれど、このことで、後方からのロングフィードに、二つのターゲットが出来るというわけです。そしてそのことがアルビレックス守備ブロックの物理的&心理的プレッシャーになっていた。

 そんなポイントも、レッズの勝負強さを支える重要なバックボーンだということです。勝負強さ。そう、これからは、Jが大詰めを迎えるだけではなく、アジアチャンピオンズリーグもあるからね。

 それにしても、全北との準々決勝アウェー戦は激しかった。それでもレッズ選手たちは、決してビビることなく、冷静にその「殴り合い」を制した。彼らは、心理・精神的にもどんどんと脱皮をつづけています。頼もしい限りじゃありませんか。

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 さて、ジェフ対FC東京、このゲームも、変化に富んだエキサイティングサッカーになりました。所用があってスタジアムへ馳せ参じることが叶わなかったわけですが、そのことが残念で仕方なかった。何せ、これまであまりにも「もったいない勝ち点ロス」がつづいていたジェフが、やっと(サッカー内容に見合った)結果を残しはじめたからね。

 皆さんもご存じのように、私はジェフのサッカー内容を(選手たちの意志と意識の高さを!?)相応に評価してきました。たしかに、意志と意識のレベルが減退した時期もあったけれど、彼らは、そのネガティブサイクルをしっかりと乗り越えた。アマル監督の心理マネージャーとしてのウデ、そして選手たちのインテリジェンス(意志と意識・・セルフモティベーション能力)に対して惜しみない拍手をおくります。

 この試合では、60分あたりまでは、完全にジェフのペースでした。守備の実効レベルで、ジェフが完全にFC東京を凌駕していたのです。それが、60分までにジェフが「3-0」という大量リードを奪う結果につながりました。まさに順当なリード。

 ボール奪取イメージが素晴らしく有機的に連鎖しつづける組織的なディフェンス。そして、ボールを奪い返してからの素晴らしく「勢い」の乗った攻め。要は、ボールがないところでのサポートの動きの量と質が、決定的にFC東京を上回っていたということです。

 速攻から展開のプロセスに入ったら、どんどん後方からスペース飛び出していくジェフ選手たち。変なカタチでボールを奪い返されたら、すぐにでも全力で戻らなければならないのに・・。そんなところにも、高い意志と意識に支えられたジェフの「イメージ連鎖の伝統」を感じていた筆者です。

 また、攻撃から守備への切り替えの早さも抜群。それも、アリバイなしの全力ディフェンス参加だからね。見事です。

 たしかに後半の立ち上がりでは、FC東京も少しはペースアップしてきた。もちろん守備での効果レベルが上がり、攻撃でも吹っ切れた勝負プレーが出てきたという意味だけれど、それでもジェフは押し込まれつづけることなく、しっかりと押し返していくのです。そして三点目まで奪ってしまう。でも、そこから・・。

 ここでアマル・オシム監督が動きます。攻守にわたって素晴らしい動きを魅せつづけていたフォワードの新居辰基に代えて、ディフェンスの池田昇平を送り込んだのです。それを見てハタと思い悩んだ。「エッ? もう守りに入るのかい?」

 そしてそこからゲームの流れが明らかにFC東京へと傾きはじめたのですよ。手始めがルーカスの惜しいシュート。また今野泰幸の活動性も明らかに高揚しはじめる。そしてFC東京が、一点、また一点と詰め寄っていくことになります。観ている方にとってはエキサイティングそのものといったゲーム展開ではあるけれど・・。

 たしかに、「3-2」と詰め寄られてからのジェフは、少しは勢いを取り戻した。でも、明らかに60分までの勢いとは、量的にも質的にも別物でした。だから最後は、FC東京の抜群の勢いをギリギリのところでかわして逃げ切ったという表現にならざるを得ない。

 アマル・オシム監督には、あの選手交代について聞いてみたいね。ディフェンダーを増やした場合(実際の意図は違うところにあったのかもしれないけれど・・)、たしかに守備ブロックは安定するだろうけれど、そのことで、選手たちの危機意識は薄れるのが普通だからネ。そうそう・・サッカーチームは生き物だからネ。

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 しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。本当に久しぶりの、ビジネスマンもターゲットにした(ちょっと自信の)書き下ろし。いま三刷り(2万部)ですが、この本については「こちら」を参照してください。

 尚、本屋さんやオンライン書店での購入ですが、本の補充(営業)が十分ではなかったようで、購入されたい皆さんにご迷惑をおかけしていたと聞きます。これからは、アスキーの営業がしっかりと補充するということでした。

 



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