湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2007年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第29節(2007年10月20日、土曜日)
- なかなか見所豊富なダイナミックマッチでした・・(ジェフ対レッズ、2-4)
- レビュー
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- 「まあ、全体的には良いゲームが出来たと思うよ・・たしかに、まだまだ不用意なミスも多いけれどね・・」
記者会見の後、フクアリ玄関ホールでアマル・オシム監督と立ち話をしました。もちろんドイツ語。全体的なサッカー内容では納得できる部分もあるというアマル監督のハナシだったけれど、そこで、(私が)このゲームについてピックアップしようと思っているテーマについて質問してみました。
「たしかに組織プレーの内容では互角の戦いだったと思う・・まあ、部分的にはジェフの方が優れている部分もあった言えないこともないけれどネ・・例えば、守備での協力プレスの忠実さとか、攻撃では、何といっても、スペースへの飛び出しの量と質とかね・・要は、飛び出していく人数と、その勢いやアイデアでジェフの方が優っている時間帯があったということだよね・・その視点でも、本当にジェフはよくトレーニングされたチームだと思うよ・・それでも、全体的なチャンスの量と質では、明らかにレッズに軍配が上がることも確かな事実だよな・・組織プレーで互角の場合、やっぱり最後は個人のチカラがモノを言うっちゅうことだけれど・・それについてどう思う?」
「もちろん、そうさ・・レッズには、ワシントンやポンテ、田中達也や長谷部といった優れた選手が多いからな・・個のチカラじゃ、ウチは太刀打ちできないよ・・でも、その差を、組織プレーで十分に補えたことには胸を張れるけれどね・・」
「ところで・・後半から登場したレイナウドだけれど、ジェフでは久しぶりの本格的な個の才能と言ってもいいのではないだろうか?・・とはいっても、彼の日本デビュー当時のブレーを観たとき、なんでこんな中途半端な選手を取ってきたんだヨ、なんて思ったモノだけれどね・・個人的なチカラはありそうだけれど、走らないし守備もやらないなど、組織プレーじゃお荷物そのものだったからな・・それが、今日のプレーは、まさにビックリ仰天のイメチェンじゃないか・・彼のパフォーマンスアップについては、まさに監督さんの優れたウデが発揮されたとしか言いようがないと思うけれど?」
そんな私の質問に、ちょっとだけ微笑んだアマル監督は、「そう・・レイナウドは急激に良くなってきている・・これからは、彼が攻撃のアクセントとして機能することになると思うよ・・もちろんそれにしても、彼が、我々の攻守にわたる組織プレーにフィット出来てきたからに他ならないけれどネ・・」とウインクする。フムフム、アマル・オシム監督も良い仕事をしている。
ここで私がピックアップしたかったテーマの骨子は、いかに個の才能に組織プレーをやらせるのか・・というものです。要は、実効あるディフェンスと、攻撃でのボールがないところでのクリエイティブな汗かきプレーなどなど。それが出来てはじめて(もちろん優れた個の才能を擁していることが全てのスタートラインではあるけれど・・)ビッグチームになるための大前提をクリアしたということにになるわけです。
へネス・ヴァイスヴァイラーにしても、リヌス・ミケルスにしても、ヴァレリー・ロバノフスキーにしても(この三人に関しては、個人的に教えを請うたことがあります)、最近では、アレックス・ファーガソンやアルセーヌ・ベンゲル、またモウリーニョにしても(これらのビッグコーチについては、ポータルサイトやウィキペディアで検索してください)、彼らが取り組んでいた根源的なテーマは、天才を発掘し、彼らに攻守にわたる組織プレーをやらせるというものだったのですよ。まあ、ちょっと表現を大雑把に「くくり」過ぎたかもしれないけれどネ・・。
ということで、レッズ。才能連中が、優れた守備意識をベースに、しっかりと組織プレーにも精を出していると思います。中盤のダイナミック・クインテットは言うに及ばず、ポンテにしても、ワシントンにしても・・。そんな汗かきの組織プレーこそが、彼らの勝負強さの絶対的なバックボーンになっているということです。
だから、素晴らしいタテのポジションチェンジも出てくる。その典型だったのが先制ゴールのシーン。長谷部誠が、ポールに絡みながら、三列目から最前線へと上がっていく・・その勢いは止まらず、最前線までも追い越して決定的スペースへと飛び出し、そこへ田中達也からスルーパスが通される・・そして最後は、落ち着き払ったグラウンダークロスをニアポストスペースへ送り込み、それを、走り込んできたワシントンが、チョン!と引っかけてゴールへ流し込んだ・・。誰もが「エッ!? ゴール??」と、いぶかしく感じるほどスムーズなゴール。とにかく、見事!の一言でした。
そんな難しいコンビネーションを、ひょうひょうと決めてしまうレッズ。またワシントンがヘッドで決めた追加ゴールシーンも特筆だった。これまた、人とボールがよく動くコンビネーションから抜け出したポンテが右サイドでまったくフリーになり、余裕を持ってファーサイドのワシントンに、ピタリとクロスボールを合わせたシーン。蹴られたボールは、相手GKやディフェンダーが全く触れないような芸術的な曲線を描き、ワシントンのアタマにピタリと合った。美しいピンポイントクロス。ポンテの個の才能が光り輝いた。それは、自らが積極的に汗をかいて機能させた組織コンビネーションだったからこその効果的な個の勝負プレーだった。
ことほど左様に、60分くらいまでのレッズは素晴らしく内容のあるサッカーを展開しました。でもその後は、前述したように、吹っ切れたジェフがガンガンと盛り返してきたというわけです。
そこでジェフが魅せた攻守にわたる組織プレーはダイナミックそのものでした。その現象を表現するのは微妙だね。それまでのジェフの攻撃は、たしかにレッズを押し込むシーンはあったものの、実際には、余裕を持ってレッズ守備ブロックに受け止められていたからチャンスの質もそんなにハイレベルじゃなかったのですよ。でも、最後の30分間にジェフが魅せた攻撃には、まさに本物の勢いが乗っていた。だからレッズ守備ブロックが「振り回された」というシーンも多かった。
そんな危険な流れの中核にいたのが、後半から入ったレイナウドだったというわけです。今後のジェフの発展に期待がふくらみます。
最後に、ちょっと視点を変えて、来週水曜日に埼玉スタジアムで行われるアジアチャンピオンズリーグ準決勝第二戦に思いを馳せましょう。私は、レッズにとってこのジェフ戦が、そのギリギリの勝負マッチに臨むにあたっての「良い学習機会」になったかもしれないと思っているのですよ。
ガンガンと攻めてくるに違いない城南。このジェフ戦では、最後の30分間、レッズ守備ブロックが振り回されたシーンもあったと書いたけれど、それでも最後は、しっかりと立て直してジェフのダイナミックな攻撃を「はね返し」、逆にゲームのイニシアチブを取り返したからね。そんなポジティブなプロセスの体感を「反芻」しておくことは、城南との勝負マッチに臨むにあたって、非常に重要になってくると思うわけです。
まあ、物理的にも心理・精神的にも充実した今のレッズだったら、どんな苦境に立たされても、主体的にゲームペースを「逆流」させられるだろうけれど、そのためにも、「J」の試合だけではなく、アジアチャンピオンズリーグでの、シドニーや全北、そして城南とのアウェーゲームでの成功体感(培った自信という心理エネルギー)を、いつでも呼び覚ませるように、今からイメージトレーニングに励んでおくべきだと思うわけです。とにかく水曜日が待ち遠しい。
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しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。
基本的には、サッカー経験のない(それでもちょっとは興味のある)ビジネスマン・ビジネスウーマンの方々をターゲットにした、本当に久しぶりの(ちょっと自信の)書き下ろし。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というコンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影しているスポーツは他にはないと再認識していた次第。サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。
いま三刷り(2万部)ですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。
蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞、東京新聞の(また様々な雑誌の)書評で取り上げられました。またNHKラジオでも、「著者に聞く」という番組に出演させてもらいました。その番組は、インターネットでも聞けます。そのアドレスは「こちら」。また、スポナビの宇都宮徹壱さんが、この本についてインタビューしてくれました。その記事は「こちら」です。
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