湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2007年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第30節(2007年10月27日、土曜日)
- 素晴らしいディフェンスで、ガンバの「ペースアップの芽」を摘んだエスパルス・・(エスパルス対ガンバ、3-1)
- レビュー
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- テレビ観戦したエスパルス対ガンバ戦を簡単にレポートします。それにしてもエスパルスは効果的な「試合運び」で勝利をモノにした・・。
「前半は守り倒し、後半でワンチャンスをモノにして辛勝するエスパルス・・そんな内容の記事を書かれていたこともあったし、相手がガンバということもあったから、選手たちはかなり気合いが入っていたと思いますよ」
ゲーム直後のテレビインタビューで長谷川健太監督がそんなコメントをしていた。まあ、そういう面もあっただろうね。その気合い(意図と意志のパワー)だけれど、それがもっとも実効あるカタチで現出していたのは、何といっても積極的な(そして忠実な)ディフェンスでした。
それは、ガンバの爆発的な攻撃力をうまく機能させないという意味で十分に機能していた。もちろん、決して受け身で消極的な(要は下がって守備ブロックを固めるというタイプの)ものではなく、出来る限り高い位置でボールを奪い返すという強い意志をベースにしたクリエイティブで積極的なディフェンスです。
その中心として機能していたのは、言わずと知れた、伊東輝悦と青山直晃で構成する「タテのセンターコンビ」。守備の起点を演出したり、インターセプトを狙ったり、ボールがないところで忠実でハードなマークをつづけたり(特に青山のバレーに対するチェックは特筆だった!)。そんな彼らがコアになった守備ブロックだからこそ、全体のディフェンスが有機的に連鎖するのも道理。仲間の一人ひとりが主体的にボール奪取イメージを描写し、それがうまくリンクしつづける。なかなかのものでした。
そんな積極的で攻撃的なディフェンスが基盤になっていたからこそ、エスパルスは、前半の立ち上がりから危険な仕掛けを繰り出していけた。矢島卓郎が、抜群のスピードとパワーを駆使してタテのウラスペースへ飛び出していく(もちろん、彼の特長を把握している仲間は、その走りにピタリと合うタテパスを送り込む)。両サイドハーフの藤本淳吾と兵働昭弘、そして両サイドバックの市川大祐と児玉新が、タテのポジションチェンジを駆使してサイドスペースを攻略する。そして、フェルナンジーニョが、組織パスプレーの流れのなかに、威力のあるキープ&勝負ドリブルという「変化」を注入しつづける。組織プレーにミックスされる塩と胡椒のアクセント。なかなかのものでした。
ところで「個人プレーという塩胡椒」。ガンバには優れた個の才能が揃っているわけだけれど、そんな彼らが、人とボールを活発に動かしつづける組織プレーでもハイレベルな共同作業を魅せていることが、ガンバのサッカーに対する高い評価のベースになっていることは言うまでもありません。
そこで、エスパルス。彼らの場合は、どちらかといったら「組織プレイヤー」が主体のチームだと言ってもいいと思います。逆に、だからこそ、フェルナンジーニョの個人勝負プレーが、より効果的に機能する(組織プレーのアクセント=変化=として効果を発揮する)のだと思うのです。もちろん、この試合でのフェルナンジーニョは、相手がガンバということで、意地の(やり過ぎの)単独ドリブル勝負を仕掛けていき過ぎたけれどね。
ちょっと、「組織プレーと個人プレーの優れたバランス」というキーワードの深層に潜むコノテーション(言外に含蓄される意味)に思いを馳せてしまった湯浅だったのです。要は、シュートを打つという攻撃の目的を達成するために効果を発揮できる個人プレーとは何か・・というテーマのことです。ちょっと蛇足でした。
とにかく、エスパルスが主導権を握るカタチでゲームが立ち上がったのですよ。でも、そんな展開のなかで、唐突に、ガンバが決定機を演出してしまうのです。前半4分。左サイドでボールをキープしたマグノ・アウベスが決定的なクロスを送り込んだのです。そこでは、左サイドバックの橋本が繰り出したオーバーラップにエスパルス守備が引きつけられたことも大きかった。それでマグノは完全にフリーになり、余裕をもってエスパルスゴール前へ正確なクロスボールを送り込めたからね。
そのとき、エスパルスゴール前ではバレーが待ち構えていた。エスパルス守備が、二人のディフェンダーの間にフリーで入り込まれてしまうなど、一瞬のマークミスを犯してしまったのです。そこへ、マグノからの正確なクロスがピタリと合わされたという次第。まさに120パーセントの決定機。でもバレーのヘディングは、無情にも左へ外れていってしまった。そして逆にエスパルスが、前半13分に先制ゴールを奪ってしまうのですよ。そこからエスパルスの守備ブロックが、よりソリッドに機能しはじめたことは言うまでもありません。
そして後半、ガンバ西野監督は、家長と安田の二人を送り込みます。その交代が功を奏し、後半立ち上がりから大攻勢を仕掛けていくガンバ。一度ならず、二度三度と決定的チャンスを作り出す。でも、そんな逆境のなかで、エスパルスが追加ゴールを叩き込んでしまうのですよ。兵働昭弘からのスルーパスを受けて相手GKと一対一になったフェルナンジーニョが、スパッと「ゴールへのパス」を決めたのです。
こんな効果的な「試合運び」は、そう頻繁に目に出来るモノじゃない。もちろん意図して出来るわけがないから、そこに偶然ファクターが絡んでいたのは確かなことだけれど、それでも、前半から魅せつづけた、積極ディフェンスを基盤にしたハイレベルな組織オフェンスは、そのゴールの「必然ニュアンス」を強化するバックボーンとして十分ではないかと思った次第。
この試合でのエスパルスは、たしかにガンバの「爆発」を抑えきれなくなった時間帯もあったけれど、全体としては、ガンバ本来の(常に最後には爆発する!)組織と個が抜群のレベルでバランスしつづけるスーパーサッカーを「潜在」させてしまったという視点で、素晴らしいゲーム運び(素晴らしい組織ディフェンス)を魅せつづけたと言えるでしょうね。
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しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。
基本的には、サッカー経験のない(それでもちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマンの方々をターゲットにした、久しぶりの(ちょっと自信の)書き下ろし。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影しているスポーツは他にはないと再認識していた次第。サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。
いま三刷り(2万部)ですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。
蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞、東京新聞の(また様々な雑誌の)書評で取り上げられました。またNHKラジオでも、「著者に聞く」という番組に出演させてもらいました。その番組は、インターネットでも聞けます。そのアドレスは「こちら」。また、スポナビの宇都宮徹壱さんが、この本についてインタビューしてくれました。その記事は「こちら」です。
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