湯浅健二の「J」ワンポイント


2007年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第30節(2007年10月28日、日曜日)

 

両方ゲームともに、いろいろな注目ポイントがありました・・(FC東京対フロンターレ、0-7)&(レッズ対グランパス、0-0)

 

レビュー
 
 今日はダブルヘッダー観戦。味の素スタジアムから埼玉スタジアムへは約45分で到着しました。この秋晴れですからね、それに渋滞もなかったし、本当に快適なライディングを心から楽しみましたよ。愛車の調子も絶好調ですからね(現在の走行距離は約65,000キロ)。

 蛇足だけれど、先週も、急に思い立って富士山の五合目までツーリングに行ってきましたよ(午後一にスタートし、夕方には帰宅!)。さすがに富士山の五合目は凍えるほど寒かったけれど、帰りに、河口湖畔にある本格的な「ほうとう」を食べさせてくれる(地元でもよく知られた)レストランで芯まで温まりました。

 さて、ということでFC東京対フロンターレ。ホントに強いね、フロンターレは。ACLという「負担」から解放されたこともあるんだろうね。ここ数試合、彼ら本来の攻撃サッカーが炸裂している感があります。

 何が強さのバックボーンなのか・・埼玉スタジアムへ向かう首都高を走りながら考えた。まあ彼らの場合は、組織プレーのなかに、絶妙のタイミングで個の才能が絡む攻撃に強さの秘密あり・・ということだろうね。要は、ジュニーニョ、マギヌンという素晴らしい個の才能をうまく活かせているということです。それに、このところ鄭大世も抜群に発展しているしね。

 鄭大世は、ゴリ押しの個人勝負を仕掛けていくことで無駄にボールを失うというシーンが少なくなってきていると思いますよ。相手マーカーをしっかりと身体でブロックしてボールをコントロールし、確実にパスをつないで次へ動く。シンプルなパス(パス&ムーブ)を積み重ねることで、より有利なカタチでドリブル勝負を仕掛けていけるというわけです。

 そのことは、ジュニーニョやマギヌンにしても同じ。もちろん中村憲剛に言わせれば、「もっと早めにシンプルパスを回してスペースへ走れよ!」っちゅうことになるんだろうけれどネ。まあ、以前から比べれば、彼らのプレーイメージにも、より深く組織プレーマインドが浸透してきているということです。

 それでも、この結果で五位にまで順位を上げたフロンターレの失点が、上位チームのなかではダントツに多いことも確かな事実。もちろんゴール数も多いわけだけれど、優勝するためには、やはり攻撃力に見合ったディフェンスも整備しなければいけません。

 その視点で、このところのフロンターレでは、相手のキーマンのプレーを(キーになる相手の攻撃の流れ)抑制するという守りのゲーム戦術が冴えてきていると思います。

 ナビスコカップ準決勝でのマリノス戦でも、サイド攻撃だけではなく中盤のキーマンをしっかりと抑制するクレバーなゲーム戦術を機能させることで勝ち抜いた。そしてこの試合でも、FC東京の攻撃のキーマンである、ルーカスを、河村崇大がピタリとマンマークするというゲーム戦術でFC東京の攻めを「分断」していました。要は、河村崇大が、前気味のストッパーとして抜群の機能性を魅せ、攻め上がるFC東京のチャンスの芽を上手く摘み取っていたということです。

 そしてフロンターレは、例によって(カウンター気味の状況から)素早い攻撃を仕掛けていく。ゲームの立ち上がりから、FC東京が繰り出す、人数をかけた組織的な攻めをうまく阻止し、間髪を入れずに「タテ」へ仕掛けていくフロンターレ。そのスムーズな守りから攻めへの切り替えは、まさに「あうんの呼吸」でした。

 この試合では、中村憲剛がより前のポジションでプレーしたのですが、そのこともタテへのスムーズな仕掛けの原動力になっていましたよ。憲剛の、華麗な「牛若丸ボールコントロール」から放たれるタテパスの小気味よいこと。ジュニーニョにしてもマギヌンにしても、はたまた鄭大世にしても、彼を信頼しているからこその素早いスペースへの動き出しを魅せつづけていました。

 ゲームの立ち上がり、攻め上がるFC東京を尻目に、マギヌンやジュニーニョがシュートチャンスを得るのです。でも先制ゴールを決めたのは、FC東京にとっては伏兵とも言える鄭大世。先制ゴールは、パンチ力のある左足シュート。地をはうようなキャノンシュートが、FC東京ゴールの左隅に吸い込まれていきました。

 そして、再び鄭大世に、二点目となる「粘りのスライディングシュート」を決められ、箕輪に三点目を叩き込まれた(前半40分)直後の前半42分には、鄭大世にハットトリックを完遂されてしまうのです。

 もうその後は、攻め上がるFC東京の前への勢いを逆手に取ったフロンターレのカウンターが冴えわたるばかり。その中心は、言わずと知れたジュニーニョ。5点目のゴールでは、谷口からパスを受け、左サイドをズタズタに切り裂いて送り込んだグラウンダークロスをマギヌンが決め、コーナーキックからの寺田のヘディングゴールをはさんで、最後は、ジュニーニョ自身が抜群のスピードでマーカーをブッちぎって「7点目」をゲットするのです。

 しっかりとした組織プレーに裏打ちされた個の才能プレーの輝き・・。ナビスコカップ決勝でのガンバ戦は、そんなポイントにも注目です。
 フロンターレのジュニーニョとマギヌンvsガンバのマグノ・アウベスとバレー。フロンターレの鄭大世vsガンバの二川孝広。フロンターレの牛若丸vsガンバの遠藤ヤット。それに両サイドの攻防。まあいい勝負だね。だから私は、守備的ハーフの出来が大きく結果を左右すると思っています。その視点では、ガンバの方がちょっと有利かな。何せ彼らには、そのポジションに明神智和と橋本英郎という「職人」がいるからね。そのポジションこそが、守備ブロックの絶対的バックボーンなのですよ。さて・・

--------------

 さて次はレッズ対グランパス。

 「オマエは、こんなハードなゲームがつづいた場合のフィジカル的な疲労の大きさや深さを分かっているだろう・・」

 記者会見の直後、壇上から降りてくるホルガー・オジェック監督に歩み寄りました。「ボクはイランへは行けないけれど、とにかく頑張ってくれよ・・」と言うつもりだった。それが、私が何かを言う前に、彼の口から冒頭の言葉が飛び出したというわけです。「もちろん・・よく分かっているつもりだよ」と返事をし、最後は「とにかくイランでは頑張ってくれよ・・日本中が期待しているから・・」と、ガッチリと握手を交わした次第。

 たしかに、ホルガー・オジェック監督が言うように、この試合でのレッズは、かなり疲れていた。ソンナムとの激闘・・。

 そのソンナムとの激烈なドラマだけれど、実は(コラムには書かなかったけれど)、ソンナムが逆転ゴールを決めたとき、私「も」心が折れそうになっていました。この「心が折れそう・・」という言葉は、試合後に長谷部選手が述べていたとか。素晴らしい表現だから、私も流用させてもらうことにしました。そんな長谷部誠だったけれど、折れそうになった心を必死に立て直し、セットプレーから同点ゴールを叩き込むのですよ。そしてチームは、PK戦も見事に勝ち抜いて決勝へ駒を進めた。心から敬服します。そこでチーム全員がシェアした「心理・精神的な体感」は、何ものにも代えがたいほど貴重な自信リソースになったことでしょう。

 ただ彼らには、その代償として、深い蓄積疲労「も」もたらされました。

 このグランパス戦では、その蓄積疲労からの影響が如実に現れていたと思います。たしかに表面的な疲労感は回復するだろうけれど、身体の深いところでは、鉛のオモリが身体の芯に押し込まれるような「重たい感覚」が残るものなのです。例えばそれは、疲労の元凶である「乳酸」を分解する生理的な作用(要は、疲労の回復力)の効率が落ちるとか、生理学的にはそういったことだけれど、それが、レッズ選手たちから軽快な動きを奪っていったと思うのです。

 「それでもチームは最後の最後まで闘った・・限界まで走り、チャレンジを繰り返した・・たしかに最後の瞬間での集中が足りずにゴールを奪うことは叶わなかったけれど、選手たちのプレー姿勢は賞賛に値する・・」と、ホルガー・オジェック監督が、確信のパワーを放散していた。

 さて、この試合での戦術的な注目ポイント。それは、何といっても、グランパスが展開した素晴らしいディフェンスでしょう。力強い組織ディフェンス・・。個々のプレーが有機的に連鎖し、効果的なボール奪取勝負として結晶する。

 何せ、レッズのシュートをたったの4本に抑え込んだのですからね。レッズの動きが重たかったとはいえ、それはそれで大したものでした。とにかく、局面でフリーになるレッズ選手はほとんど出てこなかったし、シュートにしても、フリーで打てる場面など、後半の田中達也の抜け出しシーンを除いて、全くといっていいほど演出できなかった。

 そして徐々に、堅牢なディフェンス故に、グランパスの攻めにも勢いが乗っていくのです。後半には、横パスをもらったヨンセンのシュートや、大きなサイドチェンジパスからのフリーシュートなど、グランパスにも何度か決定的チャンスが訪れました。

 対するレッズの攻め。たしかに前半では、左サイドを全力で駆け抜ける平川へのスルーパスが決まったり(そこからの決定的な折り返しは味方に合わず!)、長谷部やポンテが有利なシュートポジションへ抜け出すようなシーンもあったけれど、結局は、分厚いグランパスの守備網にはね返されてしまうばかりでした(阿部の中距離シュートくらいが可能性を感じさせた)。何度あったでしょうかね、普通だったら少なくともシュートまでは行ける状況で、グランパス守備網に引っかかってはね返されてしまったシーンが。

 組織プレーがうまく機能しなかったのは(組織が機能しなければ、「個」も効果的な勝負シーンを得られない!)、ボールがないところでのサポートの動きが十分ではなかったことが原因です。選手は、そのことをよく分かっていたに違いありません。彼らにしても、人とボールをしっかりと動かすような組織的な仕掛けプロセスをイメージしているはずですからね。だから、自分たちが志向するイメージを体現できないことで、彼らのなかにも、フラストレーションが蓄積されていったはず。それでも、最後まで諦めずに仕掛けつづけた姿勢は、たしかに立派でした。

 ソンナムとの激闘ドラマから得たギリギリの勝負体感(折れそうになった心を立て直せたことによる自信の高揚!?)・・深い疲労感を抱えながらも、それを乗り越えて最後まで戦い通すだけの強い意志の重要性に対する体感(意志さえあれば、おのずと道が見えてくる!)・・強い守備ブロックをベースに、我慢に我慢を重ねることで培われた勝負強さの成功体感・・などなど。

 セパハンとの決勝では、それらの貴重な体感が活かされるに違いありません。今から楽しみです。

=============

 しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。

 基本的には、サッカー経験のない(それでもちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマンの方々をターゲットにした、久しぶりの(ちょっと自信の)書き下ろし。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影しているスポーツは他にはないと再認識していた次第。サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま三刷り(2万部)ですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞、東京新聞の(また様々な雑誌の)書評で取り上げられました。またNHKラジオでも、「著者に聞く」という番組に出演させてもらいました。その番組は、インターネットでも聞けます。そのアドレスは「こちら」。また、スポナビの宇都宮徹壱さんが、この本についてインタビューしてくれました。その記事は「こちら」です。

 



[トップページ ] [湯浅健二です。 ] [トピックス(New)]
[Jデータベース ] [ Jワンポイント ] [海外情報 ]