湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2007年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第31節(2007年11月10日、土曜日)
- 攻撃(イメージ)の変化・・シンプル_イズ_ベスト・・(ガンバ対ジェフ、2-0)
- レビュー
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- 「You・・・・Sometimes,Long-Ball!!」
「そうだよ・・ショートばかりじゃ、古河の思うツボにはまってしまうぜ・・ロングパスを使えば、ヤツらはビックリして守備ブロックを開くだろ・・そうしたらオマエ等のショート・コンビネーションだって、もっと効果的に仕掛けていけるじゃないか・・いいんだよ、アバウトな放り込みだって!・・とにかく、何らかの変化が必要なんだ・・」
忘れもしない・・。それは、1984年天皇杯ファイナルでのこと。読売サッカークラブが、元旦の天皇杯決勝で、古河電工と当たったのですよ。そのハーフタイムに、監督だったドイツ人プロコーチ、ルディー・グーテンドルフとコーチだった私が、選手たちに対して、そんな言葉を投げかけたのです。
最初の英語がグーテンドルフ。そして次の日本語が、彼の言葉を通訳する振りをして語っている私です。
そして案の定、我々の仕掛けに変化が出てきたことで、古河ディフェンスブロックの対応も、徐々に「緩く」なっていった(ボール奪取勝負を仕掛けるために集中するツボを絞り込めなくなっていった!)。そして終わってみれば、我々が「2-0」の完勝を収めていたというわけです。
ところで、当時の古河電工チームのディフェンスリーダーは、誰あろう「あの」岡田武史でした。
試合前のこと。国立競技場のグラウンドの状態を確かめている私のところへ彼(岡田武史)がスススッと寄ってきました。そして小声で、こんなことを言うのですよ。「湯浅さん・・こりゃ、このゲームはおれ達のものだよね・・こんな悪いグラウンド状態じゃ、読売さんだって簡単にゃパスをつなげないだろうからね・・自分たちのイメージ通りのサッカーができなくなったら、特に読売さんの場合は問題になるよね・・」
たしかに彼が言うとおりでした。ホントに痛いところを突かれた。プライドの高いチームリーダーのジョージ与那城やカリオカ(ラモス瑠偉)は、勝負(結果)を意識したアバウトなサッカーなど眼中になく、あくまでも、緩急とりまぜた緻密なパスコンビネーションを標榜していたのです。
岡田武史の言葉に、彼を凝視しながら、「余計なこと言うんじゃネ〜よ・・テメ〜は、自分のことを心配してりゃいいんだよ・・」などと、心のなかで毒づいたものでした。そして、「鋭いことを言うじゃないの・・そうさ・・だからおれ達も、ちゃんと対応を考えているんだよ・・」なんて強がりを言ったものでした。
そしてゲームは(もちろん前半だけのハナシだけれど)、まさに岡田武史がイメージするそのままの展開になっていったというわけです。
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またまた「前段」が長くなってしまった。ということで、このガンバ対ジェフ戦でのレポートテーマも、チーム戦術的な「変化の演出」ということになります。あははっ・・
前半のガンバは、ジェフのゲーム戦術に翻弄されていました。まあ、数日前(11月7日)の天皇杯で、山形を相手に展開した死闘(PK戦までもつれ込んだ)からの疲労もあったんだろうね。とにかく、ガンバが標榜する、人とボールがクリエイティブに動きつづける(だからこそ個人の才能が存分に活かされる!)組織サッカーを体現するための大前提となるボールがないところでの動きが鈍重だったのです。
ボールがないところでの効果的プレーをしっかりと積み重ねていくためには、強い「意志」が大前提になります。だからこそ、その意志のレベルを、常に高い次元に維持するための監督の心理マネージメント能力が問われるというわけです。前半のゲーム内容からは、試合開始前の心理マネージメントの欠陥が明確に見て取れました。
対するジェフは、何人かの主力がケガや出場停止で不在ということで、また数日前にトリニータと対戦した天皇杯四回戦で、集中を欠いた内容で(ボールウォッチャーになったことで背後の敵をフリーにしてしまったり、マークすべき相手にスペースへ走り込まれてしまったり等々)ちょっと無様な完敗を喫したこともあって(!?)、立ち上がりから非常に集中したプレーを展開していました。特にディフェンスが素晴らしかった。それだけではなく、忠実&ダイナミックでクリエイティブな守備をベースに、徐々に攻撃にも勢いを乗せていった(サイドチェンジへの意思統一=イメージシンクロ=が秀逸!)。
特に、ボールを奪い返してからの落ち着いたパス展開(人とボールのスムーズでダイナミックな動き)からは、彼らの成長ベクトルが正しい方向へ進んでいると感じられたものです。特に工藤浩平が伸びていると思いました。攻守にわたってしっかりと(組織的な)仕事を探せているし、勇気と責任感をもった単独勝負プレーでも存在感を発揮できていた。フムフム・・
そんなゲーム展開の前半だったけれど、後半がはじまった次の瞬間から、ガラッと異なった様相を呈していくのですよ。ガンバが、ロングボールを多用しはじめたのです。もちろん単純な放り込みではなく、ジェフ守備ブロックの背後に広がる「決定的スペース」の攻略を明確にイメージした、強烈な意図が込められた「ロング・ラストパス」。
そのロングパスシーンと、そのシーンが内包する「意味」などを列挙すると、こんな感じになりますかね。
・・後半がはじまって数秒後、山口智からマグノ・アウベスへ超ロングラストパスが通される・・後半1分には、中盤でボールを持った遠藤ヤットが、左サイドのスペースへ抜け出すマグノ・アウベスへ、サイドチェンジ気味の「ラスト・ロングパス」を送り込む・・通っていれば決定的カタチ・・
・・つづく1分53秒、またまた山口智からの超ロング・ラストパスが、決定的スペースへ抜け出すバレーに通る・・4分53秒には、中盤で自らボールを奪い返したバレーが、競り合うジェフ選手を二人とも「なぎ倒し」てボールをキープし、マグノへのスルーパスを通してしまう・・まあ、ロングパスじゃなかったけれど、最初の決定的カタチ・・マグノは、GKまで外してフリーシュートを放ったけれど、信じられないことにサイドネットへ外してしまった・・
・・8分13秒には、二川孝広からマグノ・アウベスへのタテパスを、マグノが「チョ〜ン」とダイレクトで決定的スペースへ浮き球パスを送り、それが、走り込んでいたバレーの動きにピタリと合う・・二つめの決定的チャンス!!・・
・・その後も、遠藤ヤットを中心に「超ロング一発スルーパス」を狙いつづけるガンバ・・もちろん、「受ける仲間の動き」と連鎖しない場合もある・・それでも彼らの飽くことのないチャレンジはつづく・・そして、そのトライ&エラーが徐々に具体的な成果に結びついていく!!・・素晴らしいイメージシンクロ・・
・・12分36秒には、山口から、爆発ダッシュで左サイドスペースへ上がる安田理大へ、ピタリのロングスルーパスが通る・・そして極めつけが、後半16分のバレーの追加ゴールシーン・・中盤でボールをワンタッチコントロールした遠藤が、そのままジェフ最終ラインの背後に広がる決定的スペースへ超ロング・ラストタテパス・・瞬間的に、遠藤とバレーのイメージが完璧にシンクロした・・これも、何度かのトライ&エラーの賜物!!・・などなど・・。そして勝負の行方が決まった。
ガンバが後半の立ち上がりから魅せた「仕掛けイメージの変化」だけれど、もちろんそれは、ハーフタイムでの西野監督による「意思統一マネージメント」の賜物だったに違いありません。冒頭の、読売サッカークラブ時代のオハナシのようにね。
西野監督の采配は、先日のナビスコ決勝での「フォーバックからスリーバック」への変更も含め、なかなか冴えている。
様々な要因で、チームがイメージするサッカーが機能しない場合、とにかく原点に戻るのが肝心。ボールを持ったら、まず、相手ゴールのもっとも近いゾーンでのスペース活用をイメージする・・パスを出す方も、受ける方も・・。それこそが原点だからね。シンプル・イズ・ベスト・・なのです。
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しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。
基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(ウーマン)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。
いま四刷り(2万数千部)ですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。
蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞、東京新聞の(また様々な雑誌の)書評で取り上げられました。またNHKラジオでも、「著者に聞く」という番組に出演させてもらいました。その番組は、インターネットでも聞けます。また、スポナビの宇都宮徹壱さんが、この本についてインタビューしてくれました。その記事は「こちら」です。
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