湯浅健二の「J」ワンポイント


2007年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第31節(2007年11月11日、日曜日)

 

息を呑む極限テンションの勝負ドラマになった・・(フロンターレ対レッズ、1-1)

 

レビュー
 
 面目ありませんが、わたし「も」、最後の最後まで、息を呑んで最高のテンション(緊張感)が張り巡らされた極限ドラマの行方を見つめるばかりでした。そして、感動していた。両チームともに、本当に素晴らしい闘いを披露してくれました。

 たしかに、ミスパスやコントロールミスなどの攻撃側の安易なミスもありました。ただ、ボールポゼッションがレッズへ行ったりフロンターレに来たりする「攻守の入れ替わり」の多くは、しっかりとした意志がバックボーンの「意図ある」ディフェンスによるものでした。要は、両チームともに、素晴らしい集中力を最後まで途切らせなかったということです。だからこそ、息を呑んで見つめるしかなかった。

 この試合に臨むフロンターレは、二人の絶対的な主力を欠いていました。出場停止の中村憲剛と、トレーニングでケガを負ったマギヌン。攻守のメインアクターが二人揃って出場できなかったのですよ。

 そんな状況だから、もちろんレッズのホルガー・オジェック監督は、「油断大敵!」と選手たちの気を引き締めに掛かったことでしょう。でも、その二人が、フロンターレにとってあまりにも重要な存在だから、レッズ選手の緊張感を高揚させるにも限界があったことは想像に難くない。また、数日前にイランのイスファハンで行われた「ACL」のハードマッチによる(深い、物理的&精神的な)蓄積疲労もあったことだろうしね。

 案の定、ゲームの立ち上がりからフロンターレが主導権を握り、前半10分には、養父が先制ゴールまで決めてしまうのです。そんな「フロンターレの流れ」は、唐突なPKでレッズが同点に追いつくまでつづきました(PKシーンで長谷部誠が魅せた、エイヤッ!のドリブル突破&クロスボールは見事の一言!)。

 とにかく、フロンターレの守備が素晴らしかった。例外なく、本当に例外なく全員が、主体的に、チェイス&チェックという汗かきの「寄せ」アクション(=守備の起点プレー)から、チャンスを見計らった協力プレス、インターセプト狙い、ボールがないところで動くレッズ選手のマーキングといった守備プレーをスムーズに連携させていく。まさに、ボール奪取という守備の目的を極限まで強烈にイメージしたアクションが有機的に連鎖しつづけるといった具合。

 もちろんそのバックグラウンドには、絶対的な主力を欠いているということだけではなく(悪いゲーム内容は、やっぱりヤツらじゃダメだというネガティブ評価に直結≒プロとしての意地!)、また相手がレッズだという、レベルを超えたモティベーションもあったことでしょう。

 そんなフロンターレに対して、最初はタジタジだった(例によって様子見からスタートした!?)レッズも、徐々にペースを上げていく。最後尾のトゥーリオ、守備的ハーフコンビの鈴木啓太と長谷部誠が、押し上げエネルギー源として上手く機能しはじめたのです。もちろん両サイドも、臨機応変に仕掛けの流れに絡んでいく。

 ワシントンが同点PKを決めてからは、「やっぱり、個の才能レベルの差が徐々にゲーム展開を左右しはじめてきたな・・」なんて思ったものです。攻守にわたる組織プレーの内容が互角になったら、やはり個の才能がゲームの流れを大きく左右するのですよ。

 特に、後半の立ち上がりの時間帯には、「このままレッズが試合にイニシアチブを牛耳っていくことになるかもしれない・・」などと感じられるようなゲーム展開になっていったものです。でも実際には・・

 そうです。再びフロンターレが、チーム一丸となったディフェンスからペースを盛り返していったのですよ。本当に立派な「意志の強さ」でした。

 まあ、そんな拮抗した流れになった背景要因の一つには、レッズ前戦のワシントンと永井雄一郎が、ボールがないところでほとんど守備をやらない(ほとんどチェイス&チェックをやらない!)ということもありました。

 前戦からのチェイス&チェックがないから、中盤の選手たちは、高い位置でのボール奪取勝負を狙えないというわけです。もちろんポンテは違う。しっかりと追い掛けるし、効果的なプレッシャーも掛けつづけていた。でも彼だけでは如何ともし難い。何せフロンターレは、チェイス&チェックを仕掛けられる(ボールを持つ味方が追い詰められる)ことで詰まったら、味方の最終ラインへバックパスを出しておけば、再び余裕をもって組み立て直すことができるからね。

 そんなレッズ攻撃陣に対して、フロンターレ最前線のジュニーニョとチョン・テセは、かなりの頻度で、チェイス&チェックなど汗かきディフェンスも展開していました。だからフロンターレの中盤は、レッズの組み立てプロセスに対して十分なプレッシャーを掛けつづけられたというわけです。

 そんなこんなで、全体的には互角の展開にはなったけれど、それは、「フロンターレの全員が参加する組織ディフェンスvsレッズが展開した個の才能ベースの仕掛け」なんていう構図が描けるかもしれないね。フムフム・・

 また、このゲームでは、互いにスリーバックだったということで、両サイドの攻防も見所満載でした。黒津勝vs阿部勇樹。森勇介vs平川忠亮。また黒津が交代してからは、森勇介vs阿部勇樹(細貝萌)&井川佑輔vs平川忠亮。

 まあ、両サイドともに「ディフェンス側が優位」ということで互角だったけれど。それでも何度かは、ドリブルで抜け出してチャンスを作り出すシーンもありました。特に、フロンターレの先制ゴールが決まった直後に、左サイドの黒津勝が、見事なフェイントから阿部勇樹をブッちぎって上げたラストクロスが決定的だった。チョン・テセがダイレクトで放ったシュートが都築の正面に飛んだから事なきを得たけれど・・。

 最後に、水曜日のACLについてもちょっとだけ。

 「このゲームで選手たちは最高のモラルを呈示した・・それは水曜日の勝負マッチの貴重な心理ベースでもある・・」

 ホルガー・オジェック監督が、そんなことを言っていた。また、連戦による疲労については、「科学的なスタディーでも証明されているとおり、このように若く、最高レベルの能力を備えたアスリートたちだから、しっかりとした『リ・ジェネレート(再生トレーニング)』によって、48時間以内にかなり回復できるものだ・・」と言います。まさに、おっしゃる通りだけれど、やはり、アクティブな再生トレーニングの内容をしっかりと吟味しなければならないよね。もちろん、クレバーに編集されたビデオを駆使した、戦術的なイメージトレーニングも含めてネ。

 セパハンとのACL決勝第二戦。何人かの選手にとっては、一生に一度の経験になるでしょう。まさに、極限の「意志の強さ」が試される勝負マッチ。多分そこでは、城南一和との勝負マッチで勝ち取ったギリギリの「起死回生体感」なんかも、大いに活きてくるに違いありません。

 たしか長谷部誠が、「2-2」の同点されたときの心境を、『心が折れそうになった』と表現したっけね。それでもレッズの強者たちは、最後まで闘い抜いて勝ち切った。セパハンとの極限マッチでも、同じように「心が折れそうになる」ことが起きるかもしれない。そのときのためにも、アクティブな再生トレーニングとともに、しっかりとイメージトレーニングも積み重ねましょう。

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 しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(ウーマン)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま四刷り(2万数千部)ですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞、東京新聞の(また様々な雑誌の)書評で取り上げられました。またNHKラジオでも、「著者に聞く」という番組に出演させてもらいました。その番組は、インターネットでも聞けます。また、スポナビの宇都宮徹壱さんが、この本についてインタビューしてくれました。その記事は「こちら」です。

 



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