湯浅健二の「J」ワンポイント


2007年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第33節(2007年11月24日、土曜日)

 

それにしても、毎年毎年、最後の最後までドラマが盛り上がるじゃありませんか・・(レッズ対アントラーズ、0-1)

 

レビュー
 
 さてこれで、来週も、両チーム(アントラーズとレッズ)ファンの期待というスピリチュアルエネルギーの高揚や、社会的な注目度の高まりという(社会文化的な!?)心地よい現象を体感できる以外にも、様々な戦術的ポイントでシミュレーションしたり、その仮説をシコシコ分析したりするなど、血湧き肉躍る知的な楽しみを味わい尽くせる。

 最終節(鹿島のホームゲーム)でのアントラーズの相手はエスパルス。今節の結果で、エスパルスがリーグ三位になる目はなくなりました(来シーズンのアジアチャンピオンズリーグ出場権を逃した!)。ということで、最終戦のモティベーションレベルは大きく減退する!? いやいや、彼らにしても、目の前でアントラーズのオリヴェイラ監督が胴上されるのを見たいはずがないし、エスパルス監督は、あの「闘将」長谷川健太氏だからね。チームの実力は折り紙付きだし、社会的な注目度が高いこともあって、彼らも、変なサッカーは展開できないと気を引き締めてくるに違いありません。

 対するレッズの相手は、既に何週間も前から「J2」への降格が決まっている横浜FC(横浜のホームゲーム)。誰の目にも、レッズにとって与(くみ)しやすい相手だと見えるに違いありません。ところがどっこい。そこは、偶然と必然が深〜いところで交錯するホンモノの心理ゲーム。前述したように、社会的な注目度が極限まで高まることも含め、実際のゲームでは、ホントに何が起きるか分からない。

 もちろん横浜にしても、目の前でホルガー・オジェック監督の胴上げを見たいはずないし、プロとしての意地もあるでしょう。プロ選手としてのアイデンティティー(誇り)がモノを言う。いやが上にもモティベーションが高まろうというモノじゃありませんか。

 それにしても横浜FCにとっては、(経済的に)願ってもない成り行きになった。横浜のマネージメントは、「どうせ最終節は消化試合になる・・」とタカをくくっていただろうからね。それが、急に「億単位の臨時収入」が見込めるゴールデンカードが降って湧いたという次第なのですよ。これで、来シーズン(J2)の強化費が潤沢になった!?

 ところで、アントラーズとレッズについては、こんな見方ができないこともない。

 まずアントラーズ。この勝利で、8連勝という素晴らしい成果を挙げた彼らだけれど、最終節は、ちょっと様相が異なったモノになるという視点が成立するかもしれない。

 要は、これまでは(勝負強いレッズから勝ち点で大きく引き離されていたこともあって!)ダメ元という心理で吹っ切れたサッカーを展開できていたけれど、(来シーズンのアジアチャンピオンズリーグ出場権は確保したことで)次の最終節では、リーグ優勝をものすごく具体的に意識しなければならなくなったということです。脇目も振らず追いかけるという状況は、比較的「楽」だった。それが最終節では、イコールコンディションでの勝負マッチに臨むことになる。さて・・

 そんな事情はレッズも同じ。彼らにしても、勝つしかないところまで追い詰められたわけだからね(最終節は、両チームとも、相手が勝つという前提でプレーしなければならない!!)。

 とはいっても、レッズにとっては、今日の結果によって勝つしかないところまで追い込まれたことは、逆に「ポジティブな状況」だと捉えられないこともない。これまでの勝ち点の大量リードは、様々な意味での「ネガティブな余裕」を生み出したかもしれないからね。今シーズンの彼らは、繰り返し「逆境」をはね返してきた。追い込まれれば、追い込まれるほど勝負強さを発揮するレッズ。少なくとも、最終節では持てるチカラを十二分に発揮するに違いありません。さて・・

---------------

 最後に、この拮抗したハイテンション(緊張感が張りつめた)ゲームについてのショートコメント。

 ゲーム全体を通して、アントラーズが素晴らしく「ソリッド」なサッカーを展開したことは確かな事実でしたよね。特にディフェンスが素晴らしかった。(最前線プレイヤーも例外ではなく)フィールド全体にわたる忠実なチェイス&チェック。そして、その周りでのボールがないところでの守備アクション(特に最終ラインの中央ゾーン選手の力強いプレー)。それらが、まさに有機的に連鎖しつづけていたのですよ。また、局面の競り合いでは無類の強さを発揮する(またボールがないところでも忠実にアクションする)小笠原を中心にした中盤ディフェンスが、スムーズに機能しつづけていたことも大きかった。

 アントラーズがゲーム立ち上がりから攻撃的(積極的)だったという印象が残っているでしょうが、それは、とりもなおさず、彼らのディフェンスが「攻撃的」なものだったからに他ならないのですよ。やはり、全てのスタートラインは守備にあり・・なのです。

 そのことについてオリヴェイラ監督に聞いてみた。「シーズン当初から取り組んできたサッカー・・とか、いまのサッカーが間違っていないことを証明した・・といった表現がありました・・そのサッカーの内容を、もう少し具体的に、できればいくつかのキーワードをつかって表現してくれませんか?・・例えば、(この試合で魅せたような)積極的にボールを奪いにいく組織的なディフェンスとか、ポゼッション(そこからの急激なテンポアップ)とか・・」

 それに対してオリヴェイラ監督は、にこやかに、「我々のサッカーは、いくつかのキーワードで片付けられるようなものではない・・そこには、緻密な作業がある・・様々なスタッフによる多くの有意義なバックアップ作業もある・・要は、地道な努力(チームワーク)を積み重ねているということだ・・そのことについては、日々のトレーニングを観察すれば見えてくる・・たしかに鹿島は遠いけれど、我々のスタッフに聞けば、鹿島のトレーニング場への効率的な来訪の仕方を教えてもらえるはず・・」などと切り替えされてしまった。フムフム・・

 対するレッズは、例によっての質実剛健なディフェンスをベースに、徐々にペースアップしていきました。たしかに前半の立ち上がりはアントラーズが押し気味ではあったけれど、決して彼らに、決定的なカタチでスペースを使われた(守備ブロックがウラを取られて崩された)というわけではありません。前半のマルキーニョスのシュート場面と、後半の野沢による決勝ゴールシーンは除いてネ。

 たしかに、決定的なシュートチャンスの量と質という視点では(トゥーリオの前半での右足とゲーム終盤でのヘディングシュート、後半に飛び出したワシントンの2本の右足ダイレクトシュートとヘディングシュート、これまた後半の永井雄一郎の切り返しからの左足シュートや長谷部誠のシュートなど)完全にレッズが凌駕したけれど、それも、新井場が退場になってからのことだから・・。

 とにかくアントラーズは、アジアのトップレベルの闘いでも抜群の勝負強さを見せつけたレッズから白星をもぎ取ったんだからね。それも、一人足りない状況で。彼らのココゾの勝負強さは万雷の拍手の価値がありますよ。来シーズンのアジアチャンピオンズリーグでのアントラーズの活躍が楽しみになってきました。

 それにしても、年間を通したリーグにしては、毎年毎年、最後の最後までドラマが盛り上がる。ホントに良いことじゃありませんか。まあ、冷徹な勝負師マインドが「まだまだ」だからという捉え方もあるだろうけれどネ・・。

=============

 しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(ウーマン)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま四刷り(2万数千部)ですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞、東京新聞の(また様々な雑誌の)書評で取り上げられました。NHKラジオでも、「著者に聞く」という番組に出演させてもらいました。また、スポナビの宇都宮徹壱さんが、この本についてインタビューしてくれました(その記事は「こちら」)。またサボティスタ情報ですが、最近、「こんな」元気の出る書評がインターネットメディアに載せられました。

 



[トップページ ] [湯浅健二です。 ] [トピックス(New)]
[Jデータベース ] [ Jワンポイント ] [海外情報 ]