湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2007年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第34節(2007年12月1日、土曜日)
- 歴史的な大逆転ドラマが完結した・・それと、追伸・・(横浜FC対レッズ、1-0)
- レビュー
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- たしかにホルガー・オジェック監督は「グッドルーザー」だな・・。
記者会見場。アウェーのホルガー・オジェック監督が、最初にプレスコンファレンスに臨みました。ただ、彼がイスに座った次の瞬間、いくつかの台をつなぎ合わせて作った「演壇のつなぎ目の溝」にホルガーが座るイスの「後ろ足」がはまり込んでしまい、後方にひっくり返りそうになったのですよ(背中側へひっくり返る直前に、かろうじて踏みとどまった!)。それでも笑みを絶やさず、「このアクシデントは、まさに我々のいまの状況を象徴しているよね・・」とジョークを飛ばすホルガー。
そして、「いま選手たちには、たしかに、これ以上の落胆はないけれど、それでも、シーズン全体を通してみれば、それ自体は素晴らしいもの(成果)だったと祝福してきたところだ」と、つづけるのです。そして会見の最後は、「最後に、素晴らしい連勝を積み重ねて大逆転のリーグ優勝を勝ち取ったアントラーズを褒め称えたい」と締めくくった。フムフム・・。
また、試合後の選手たちだけではなく、レッズサポーターの態度も立派でした。しっかりとした足取りでサポーターへ挨拶にいく選手たち。その彼らを、暖かい拍手で迎える赤に染まったスタンド。そのときサポーターは、心の深層では、呆然と「厳しい現実」と向き合っていたにもかかわらず、選手の労をねぎらっていたのです。レッズサポーターは、素晴らしいと思いました。
ちょっとキレイごとに聞こえるかもしれないけれど、何らかのネガティブエネルギー(思い通りにならなかった不満など!?)を、他にぶつけるのではなく、しっかりと自分のなかで処理できる。素晴らしいことです。その意味で、レッズに関わっている人々の多くが「グッドルーザー」だと言えそうです。とにかく、良いことから学べるモノは少ないからね。その意味でも、大変貴重な経験だったという捉え方もできる。これでまた一つ引き出しが増えた・・!?
また私は、自分たちの意図を、強い意志をもってしっかりとやり通した横浜FCにも、心からの拍手をおくっていました。
横浜のジュリオレアル監督も、「タイミングとしては遅きに失したけれど、ここ数試合は良いゲームをつづけられた・・天皇杯に向けて、よい弾みになる・・我々の良さをうまく表現できた前半も含め、この試合では、自分たちの持っているものを全て表現できたと思う」と胸を張っていた。まさに、そういうことでした。
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試合だけれど、全体の流れを時系列で表現しながら、それぞれの現象に分析を加えていくと、こんな感じになりますかネ。
・・立ち上がりは、予想したとおり横浜FCがガンガンと押し上げてきた・・そんな攻撃エネルギーをしっかりと受け止めながら、じっくりと押し返していくレッズ・・私にとっては、両チームの「本来的な実力差」が見えてくるかどうかが最初のテーマだったけれど、徐々に「それ」が明確に見えはじめたことでちょっと安心・・そのようにイニシアチブを奪い返すプロセスこそが、充実した闘う意志の証明だから・・
・・ただ、そんな流れのなかで、横浜が唐突に先制ゴールを奪ってしまう・・カズからの狙いすました「トラバース気味のラストパス」に、根占が飛び込んだゴール・・カズの、豊富な「勝負所の経験」を凝縮したような目の覚めるトラバースクロス(ゴールラインに平行で、最後にはゴールから逃げていくような、GKとディフェンダーの間のスペースを抜けていくグラウンダーのクロスボール!)・・そして、そのラストパスを信じて疑わず、全力で決定的スペースへ抜け出した根占の、脇目もふらない全力フリーランニング・・素晴らしいコンビネーションだった・・
・・そして、その先制ゴールを境に(横浜が守備を固めはじめたこともあって)徐々にレッズのサッカーから吹っ切れたプレー姿勢が減退していくことになる・・要は、攻守にわたって、ボールがないところでの動きの量と質が減退していったということ・・だから、うまくスペースを突いていけずに、ゴリ押しの(そして単発の)個人勝負を繰り出していくようになってしまう・・そんな現象を見ながら、選手のなかに、完全に回復させるのが難しい「深い疲労」が蓄積していることを感じていた・・
・・ホルガー・オジェック監督が、こんなことを言っていた・・『最後の一ヶ月の負荷は本当に大きかった・・たしかに私は、それを乗り越えられると言ったけれど、実際には、肉体的にも、精神的にも、十分に回復するところまで行き着けなかった・・セパハン戦あたりから、チーム内に、集中力の減退が感じられはじめた・・そしてそのことが、リーグでも最後まで尾を引いてしまった』・・
・・疲れ切った状態でプレーせざるを得ないという状態がつづいたことで、足が止まった受け身のサッカーが「日常」になってしまった!?・・しっかりと守るなかで前の三人で何とか点を取って勝利するというゲームの流れに対するイメージが定着してしまった!?・・チーム全体が「動的にアクションしつづける」攻撃的なプレッシングサッカーに対する感覚が鈍ってしまった!?・・これまで何とか結果を出せていたことで、そのサッカーが、蓄積疲労とも闘わなければならなかったことで、彼らのプレーイメージのスタンダード(標準)として定着してしまった!?・・さて・・
・・ただこのゲームでは、何度かの「決定的ピンチ」という刺激をブチかまされたことで(例えば前半34分の絶対的ピンチや、後半9分にカタタウが繰り出した絶対的なドリブルシュートなどによって)その直後には覚醒した時間帯もあった・・そこでは、チーム全体が動きはじめ、何度も後方から最前線のスペースへ抜け出すようなタテのポジションチェンジからチャンスを作り出した・・とはいっても結局は、その吹っ切れた感覚とアクションを持続させることは叶わなかった・・
・・中盤のダイナミズムが機能しなくなっていったのは何故??・・やはり基本的に彼らは組織プレイヤーだから、周りの仲間のボールがないところでのアクションが必要・・一人では打開できないし、自分が引っ張ることで周りを鼓舞することも叶わない・・また、ポンテがガチガチにマークされたこともあった(アントラーズ戦では、青木剛がマンマーク・・横浜のジュリオレアル監督も参考にした!?)・・
・・特にここ一ヶ月くらいは、前線の選手が「最前線のフタ」になってしまうケースが目立つようになった・・組織コンビネーションに積極的に参加する姿勢がが大事なのに、最前線で「待つ」ばかり・・それでは、後方からの抜け出しフリーランニングなど、タテのポジションチェンジが機能しないのも道理・・
・・とにかく、攻撃でのスペースへの動きや、守備での「次のパスレシーバー」に対する詰めなどといった「小さなことに対する強い意志」が減退していったことが残念で仕方ない・・それが足りないから、相手を恐怖(後ろ向きの消極的なプレー姿勢)に陥れてしまえるだけのパワーを発揮できない・・
・・そしてゲームが、横浜FCの思うつぼにはまり込んでいく・・ゲーム終盤・・たしかに何度か惜しいチャンスも作り出したけれど、そこに、逆転できるだけのエネルギーが感じられなかったのも確かな事実だった・・
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それにしてもレッズは、最後の5試合で「3敗2引き分け」ですからね。それに対してアントラーズは、抜群の勝負強さを発揮した9連勝。歴史的な大逆転のリーグ優勝は、まさに「勝ち取った」という表現がふさわしい。
まあ、そんなところでしょうか。とにかく、人生(サッカー)はつづくのです。
さて、これからレッズは、アジアを代表して「クラブワールドカップ」に臨んでいかなければなりません。気持ちを切り替え、以前の吹っ切れたサッカーイメージを「再構築」して欲しいものです。ホルガー・オジェック監督の「心理マネージャー」としてのウデに期待しましょう。
ボールがないところで後方がどんどんとタテへ抜け出していけば、有機的なイメージ連鎖として、最前線も、ボールを動かしたり、自らも前後左右に動きはじめるはず。味方の動き出しを待っていては、本当に何もはじまらない。もちろん私は、「何かをはじめよう」と、主体的な汗かきアクションをつづける(味方に刺激を与えようとチャレンジしつづける)選手がいることも十分に知っているつもりです。にもかかわらず、敢えて言うのですよ。積極的な意志を前面に押し出して欲しい・・とね。そんなプレー姿勢さえあれば、おのずと「正しいベクトル」が見えてくるはずです。
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追伸:
ところで、試合前のことです。所用で元町へ出かけたのですが、そこで単車を止めていたとき、ある男性に声を掛けられたのですよ。上品なご夫婦。「湯浅さん・・テレビを観ていますよ・・」「エッ??」「テレ玉のレッズナビですよ」「あ〜・・どうも有り難うございます」「これからも楽しみにしていますから」「ありがとうございます。これからスタジアムですね」「そうです」「お互い、とことん楽しみましょうね」「そうですね」と、微笑んで別れました。
そのご夫妻からは、とことん爽やかなマインドをいただきました。レッズは、本当に素敵な人たちに支えられているんだな・・。そんなこともあって、試合が終わった瞬間、急に、そのご夫妻のことが脳裏に浮かんだものでした。がっかりしているだろうな〜・・。
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しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。
基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(ウーマン)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。
いま四刷り(2万数千部)ですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。
蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞、東京新聞の(また様々な雑誌の)書評で取り上げられました。NHKラジオでも、「著者に聞く」という番組に出演させてもらいました。また、スポナビの宇都宮徹壱さんが、この本についてインタビューしてくれました(その記事は「こちら」)。またサボティスタ情報ですが、最近、「こんな」元気の出る書評がインターネットメディアに載せられました。
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