湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2007年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第5節(2007年4月7日、土曜日)
- 流れは完璧にフロンターレのモノだったけれど(ガンバvsフロンターレ、2-2)・・少しずつ上向きのレッズ(レッズ対ジュビロ、2-1)
- レビュー
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- テレビのカメラワークには不満が残ったけれど(寄せと引きが中途半端だから、見たいところがちょうど隠れてしまうケースが多すぎる・・カメラマンはサッカーを知らない!?)、ゲーム自体は、見所が豊富なエキサイティングマッチになりました。でもホント、ボールがないところでの迫真のせめぎ合い(スペースをめぐる勝負)が見られないのではフラストレーションが溜まるのも道理だよね。
さて、ゲーム。そこには、色々とピックアップポイントがありました。まず何といっても、一点を追いかけるガンバが落ち込んだ後半の拙攻。
足許パスばかりで人とボールが動かない・・だから、最終勝負の動きが単純に過ぎる・・だから、フロンターレ守備陣も簡単に対応できてしまう・・それ以上に、ガンバが、そんな悪い流れを主体的に変えることができなかったという事実は重い・・等々。もちろんそれには、フロンターレ守備陣が魅せつづけた「創造的&想像的」なディフェンスがあったわけだけれど・・。
そんな悪い流れのときは、とにかく最前線のラインと後方のラインが「入れ替わって」しまうくらいの勢いでポジションをチェンジしつづけることが有効なのです。いくら前線に人数がいても、動き(走り)に変化がなければ、常にフロンターレ守備陣の「目の前」で単純なコンビネーションを仕掛けるということになってしまう。そんな低級のコンビネーションなんて、簡単に読めてしまうから、守備側にとっては怖くない。これじゃ、フロンターレ守備陣の背後にある決定的スペースを突いていくことなんて無理だよな・・。
そんな動きのない「ゲームの流れ」から何とか脱却しなければならないガンバは、ポジションチェンジだけではなく、もっと単純なタイミングでにロングボールやアーリークロスを放り込んだり、ロングシュートにチャレンジしたりなど、仕掛けに変化をつけなければならなかったのです。
それがあってはじめて、フロンターレ守備陣が、より積極的に対処しなければならないという危機感を持つようになるわけです。でも結局は・・。まあ、ガンバがセットプレーから同点にできたことは、あのゲームの流れからすれば、本当にラッキーだったと思います。
美しく、そして勝負強いサッカーを展開できる総合力ではトップクラスのガンバ。そんな彼らが落ち込んだ(擬似の!?)心理的な悪魔のサイクル。私にとってこの試合は、とても興味深い学習機会でした。
次のポイントは、フロンターレのカウンター(または、カウンター気味の素早いタテへの仕掛け)。本当に素晴らしかったですよ。前半も、中村憲剛から何本も目の覚めるような一発スルーパスが出たし、後半には、ジュニーニョとマギヌンが絡んだ(後方からの中村憲剛のバックアップも含めた!)素晴らしく危険なカウンターが何本も決まりかけたしね。ジュニーニョやマギヌンのチャンスが決まっていれば、これぞ「フロンターレのツボ」といったゲーム展開になったはずです。あっと・・またまた「タラレバ」のハナシをしちゃった。失礼・・。
そのカウンターだけれど、もちろんそれは、有機的な(速攻)イメージ連鎖の集合体。中村憲剛がボールを持ったら、すかさず、ジュニーニョやマギヌンが、ズバッという勢いで、ガンバ最終ラインのウラに広がる決定的スペースへ向けて爆発スタートを切る。そんな「連鎖アクション」は、マギヌンとジュニーニョのコンビでも同じ。また、たまには両サイドが起点になったカウンターコンビネーションもある。
フロンターレが魅せつづける素早いタテの仕掛けには、チーム全体に深く浸透している『仕掛けの流れに対する明確なイメージバックボーン』があると感じます。だからこそ、仕掛けプレー(選手のイメージとアクション・・意図と意志)が有機的に連鎖する。素晴らしい。
攻守にわたる組織プレーと個人プレーの高い次元のバランス。とにかく、優れた個人の能力が、(例外のない)高い守備意識をベースに、組織的にもうまく機能しつづける両チームの闘いは、見応え十分でした。
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さてレッズ対ジュビロ。
結果はレッズの辛勝だったけれど、「両チームともに勝つチャンスがあった・・レッズが勝ったのは鼻の差だった・・」というホルガー・オジェック監督の言葉どおり、非常に微妙なゲーム内容ではありました。
そんなホルガー・オジェック監督に対し、ジュビロのアジウソン監督は、記者会見場から、「良いゲームをやったって、勝たなきゃ何もならない・・」と、笑顔を振りまきながら立ち去っていきました。内容に対しては、かなりの自負を持っていたということなんだろうね。そのことについては、私も100%アグリーでしたよ。ジュビロは、本当に良いサッカーを魅せた。
ところでアジウソン監督。会見での受け答えはダイナミックそのものでした。なかなか優れた(面白い!?)パーソナリティーを持ち合わせたプロコーチじゃありませんか。この試合でのジュビロは、攻守にわたって、本当に立派なサッカーを披露してくれたわけだけれど、それって、アジウソン監督のダイナミックなパーソナリティーが乗り移ったということなのかもしれないね。選手のプレーは、監督を映す鏡だ・・なんていう名言を、歴史に残る名コーチが言ったっけね。
さてレッズ。私は、前節のトリニータ戦と同じように、全体として、ポジティブな印象を持ちました。たしかにジュビロもいいサッカーをやったけれど、レッズも、しっかりと戦っていた。
たしかに攻めについては、前後が分断しちゃうシーンも多かったよね。ワシントン、ポンテ、永井、そして小野伸二が仕掛け、他の選手たちは、そのバックアップに回るってな具合。これでは、人とボールをしっかりと動かすようなハイレベルな組織プレーは望めない。でも、時間が経つにつれて、(まあ、ワシントンは除き)徐々に縦横無尽のポジションチェンジが出てきたし、両サイドバックのオーバーラップも活性化していきました。
ポンテと小野がタイミングよくポジションを入れ替えたり、永井が、オーバーラップする阿部のバックアップに回ったり、そんなポジションチェンジで空いた前方のスペースへ長谷部が飛び出していったり・・等々。特に後半は、変化に富んだ人とボールの動きを魅せてくれました。
仕掛けの内容にしても、たしかにドリブルは多いけれど、それをリンクするような効果的な組織パスプレーも(もちろんボールがないところでの走りも含めて)うまく機能するようになっていきました。リーグが立ち上がった頃から比べれば、かなり良くなっているという印象なのです。
また個々の守備意識も、かなり上向いている。
永井雄一郎が、ボールがないところで走り上がる相手ディフェンダーをマークして最終ラインまで戻るなんていうシーンがあったし(競り合いの実効レベルも高かった)、小野伸二にしても、たしかに足が遅いからマーキングで振り切られるシーンはあったとはいえ、カバーリングやボール奪取勝負の実効レベルは格段に向上しました。そして、たまには激しいタックルを魅せたり、スマートなインターセプトを成功させたりする。またポンテにしても、やらなければならないところでサボることは、もうほとんどなくなりました。
少しずつ良くなっているレッズですが、そこで、この2-3試合でホルガー・オジェック監督が試しているフォーバックについて、ちょっと触れておきましょう。
本物のフォーバックは、両サイドバックがしっかりとオーバーラップすることを前提としたものです。二人のサイドバック(ウイングバック)を数えないことで「スリーバック」と呼ぶことを考えれば、本物のフォーバックは、本来的にはツーバックということになるわけです。だからこそ、中盤選手との確実なポジションチェンジ(相互カバーリング)をうまく機能させなければならないのです。もちろん中盤選手には、高い守備意識が求められる。その視点でフォーバックは、より難しい最終ラインのやり方と言えるかもしれません。
ということで、最初の頃、守備に不安があった両サイドバック(山田と阿部)は、決定的な場面以外、うまくオーバーラップできませんでした。それが、永井や小野、鈴木啓太や長谷部との相互信頼が高まりをみせるにしたがって、前述したように、徐々にタテのポジションチェンジも確実に機能するようになったというわけです。まあ、とはいっても、まだまだ絶対量は少ないけれどね。
さてフォーバック。それについては、こんなポジティブな視点もあります。攻めているときに、余分な(無駄な)選手が残ってしまうという現象を防ぐことができる・・。何せ、ツーバックだからね。
ただ逆に、中途半端な状況でボールを奪われてカウンターを喰らった場合、人数やポジション的なバランスが崩れやすくなってしまうのも確かな事実。この試合でも、同人数のジュビロに(ある時などは、5対4と、数的に不利な状態で)カウンターを仕掛けられたシーンがありました。そんなとき、スリーバックだと、より安全というわけです。さて・・。
フォーバックについては、相手がスリートップ(ワントップに、上がり気味の両サイドハーフ!)のときは有効だという考え方もあるし、それ以外にも、個人&グループ戦術的な背景ファクターによってフォーバックが選択されることもあります。だから、一概にはプラス&マイナスを論じることはできない。誤解を恐れずに言ってしまえば、チームの守備意識が高くなれば、スリーバックでもフォーバックでも、まったく問題なくこなせるようになるということです。
レッズのフォーバックでは、鈴木啓太が、たまにはフォアストッパー役にもなるような「前気味リベロ」的なイメージでプレーします。フォーバックの場合、そんな、バランサーとかコーディネイターとか呼ばれる存在が決定的に重要な意味を持ってくるのです。とにかく最終ラインの機能性は、中盤とのコンビネーション如何で決まってくるということです。
たぶんホルガー・オジェック監督は、ケースバイケースで「スリー」と「フォー」を使い分けるんだろうね。なかなか興味深いテーマです。
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