湯浅健二の「J」ワンポイント


2007年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第7節(2007年4月21日、土曜日)

 

両チームが攻め合ったからこそのエキサイティングマッチ・・でも、まず5秒間のドラマから・・(レッズ対フロンターレ、1-2)

 

レビュー
 
 前半33分。センターライン付近まで押し上げているレッズ最終ラインの堀之内が、右サイドでフリーになっている山田暢久へサイドチェンジ気味のパスを回す。ピタリとボールをトラップしてルックアップする山田暢久。その瞬間、中央ゾーンにいた長谷部が「爆発」した。ズバッと、右サイド前方のスペースへ向けてフリーランニングをスタートしたのである。

 同時に、右サイドの最前線にいたポンテも、同じスペースへ戻り気味に入ってくる。そこへ、山田暢久からパスが出されたのだ。そのボールは、最前線のワシントンにも真っすぐ向かっていく。山田暢久のパスは、長谷部、ポンテ、そしてワシントンの三人が受けられるのだ。さて・・。

 そこが勝負の瞬間だった。長谷部とポンテは、瞬間的に、そのパスのコースと強さから、山田暢久が、ワシントンのポストプレーをイメージした「クサビの足許パス」を送り込んだことを理解し、すぐに別の仕掛けイメージを脳裏に描写するのである。ワシントンのポストプレーを活用するコンビネーション。それである。長谷部は、タテの決定的スペースへ走り抜け、ポンテは、ワシントンから「落とし」を受けられるバックアップポジションへ向かう。

 その状況でワシントンが選択したのは、長谷部がイメージするタテの決定的スペースだった。見事なダイレクトパス。山田暢久からの、ズバッというタテパスを、モノの見事に、自分の背後に位置する決定的スペースへ「流し込んだ」のである。長谷部の全力ダッシュにピタリとシンクロする、素晴らしいタイミングとコースのパスだった。

 ワシントンからの、まさに完璧というダイレクトパス。長谷部は、まったくスピードを緩めることなくボールへ迫っていく。まったくフリー。だから、中央ゾーンの状況を余裕をもって確認することが出来る。そう、彼は、中央にいるポンテが、少し「タメて」いることを、しっかりと視認していたのだ。

 そして長谷部は、ワシントンからのタテパスを、これまたダイレクトで、ポンテの眼前スペースへと折り返すのである。

 それは、完璧なチャンスメイク・コンビネーションだった。山田暢久からワシントンへ送り込まれた、強烈な仕掛けの足許パス。そこから、ダイレクト「3発」で、ポンテが決定的シュートを放った。わずかに右に外れてしまったけれど、これぞ「世界」という、目の覚めるようなコンビネーション。堅牢なフロンターレ守備ブロックが、これほど振り回され、ウラを取られたシーンは見たことがなかった・・。

 ・・ってな具合に、このコラムは「5秒間のドラマ」風に書き出してみました。とにかく「そのチャンスメイク」は見事の一言だったのですよ。また、長谷部が、前線のすべての味方を「追い越して」決定的スペースで仕事をするという、優れた(組織)サッカーを象徴するシーンでもあったからね。とにかく印象的でした。

 そのチャンスメイクに象徴されるように、前半は、完全にレッズがゲームを掌握しました。そのことについては両監督ともに認めるところ。ただ後半になると、俄然フロンターレが実力を発揮しはじめるのです。まあ、自信を取り戻したということなのかもしれないね。

 ハーフタイムで、フロンターレの関塚監督が、しっかりと起点を作ってボールを動かしていこうという指示をしたということだけれど、まさにフロンターレは、そんなサッカーをやりはじめた。もちろん、その絶対的なベースは中盤での守備だけれど、それが、より効果的に機能しはじめたということです。だからこそ、次の攻めに、ボールがないところでの動きを基盤にした活力が出てきたというわけです。

 前半は比較的やられていたけれど、それは、多分に心理的なバックグラウンドによる現象だったんでしょう。いまのフロンターレは、個も組織も、確実にリーグトップの実力を備えているからね。そのことは、先日のガンバとの試合でも、この試合でのゴールシーンでも如実に証明した通りです。

 それにしても素晴らしくエキサイティングな勝負マッチだった。攻撃でも守備でも、両チームともに全力で秘術を尽くしたという後味の良さ。互いに、攻守にわたって積極的に仕掛け合ったからこそのエキサイティングマッチ・・というか、互いに自分たちのサッカーをやろうという主体的で攻撃的な姿勢でプレーしていたからこそのエキサイティングマッチ・・っていうことだね。

 もちろん、ある程度の対処的なゲーム戦術(チーム内の合意事項)はあったんだろうけれど、それも「個人的・局面的」なものに限られていたはず。決して、守備を固めるなどといった、大きな流れ(選手のイメージ構築の自由度)を制限するものではなかったと思っています。

 レッズでは、何といっても、ポンテと長谷部の「中央ゾーンの前後コンビ」の活躍が目立ちに目立っていた。攻守にわたり、汗かきもまったくいとわないといった積極的なプレー姿勢に共感していました。

 ポンテは、(ドイツ一部プロリーグ)ブンデスリーガ、レーバークーゼンでの絶好調プレーを彷彿させる。わたしも実際に、スタジアム(レーバークーゼン・バイアレーナ)で何度も彼のプレーを観ているから、そのイメージが重なって嬉しくなりました。また長谷部も好調時のフォームにもどりつつある。このセンターコンビは、ホントにいいね。

 前にも書いたけれど、チームの調子が上向いてきた大きなキッカケは長谷部の復帰だったからね。彼の、労を惜しまない(汗かきも含む)実効あるディフェンス(何度も、彼のインターセプトから危険な仕掛けがはじまった!)。そして攻撃でも、ボールなしの動きが目立つなど、組織プレーに徹するチームプレーを披露しつづける。だからこそ、たまに繰り出すドリブル勝負が効果的なのです。

 この試合では、中村憲剛やジュニーニョ、マギヌンといったクリエイティブ&スピードリーダーたちは、(全体的には)そんなに大きく目立つことはできなかった。要は、彼らを封じるレッズの守備イメージがうまく機能していたということです。もちろん、後半に中村憲剛が展開した「仕掛けの起点プレー」とか、マギヌンやジュニーニョの才能が見事に結実したゴールもあったわけだから、抑え切ったという表現は使えないけれどね・・。

 それにしても、フロンターレの二点目を演出したジュニーニョのプレーは見事だった。それは、レッズ守備の視線と意識を釘付けにする「タメ」から、一瞬のスキを突くような小さなモーションで送り込んだ「トラバース・クロス」。カーブを描き、レッズGKと最終ラインの間を、ゴールラインにほぼ平行に抜けていくクロスボールのことです。

 自分の背後にいるマギヌンをイメージしていた長谷部にしても、自分を「回り込むように」背後のスペースへと見事な軌跡を描いて飛んでいく「トラバース・クロス」には手も足も出なかった。長谷部にとって(また彼の背後にポジショニングしていた阿部にとっても)、良い学習機会だったということです。彼らは、ビデオでしっかりと確認し、確実に脳内のイメージバンクに登録しておかなければいけません。

 あっと、フロンターレの先制ゴール場面もなかなか興味深かった。黒津がドリブル突破して送り込んだグラウンダークロス・・それが、ファーポストゾーンにポジショニングしていた堀之内へ正面から向かっていく・・ただ、堀之内がクリアしようとした最後の瞬間に、我那覇の「足先」が出てきて最初にボールに触り、ボールはそのままコロコロとゴールの中へ・・。そこでは、黒津のグラウンダークロスが、堀之内の眼前スペースへ向かってきたというのがミソ。そして最後の瞬間に、眼前を「黒い影(この試合でのフロンターレのユニフォームは白だったから、白い影かな・・)」がスッとよぎった・・というわけです。

 最後に、この試合でも、小野伸二と永井雄一郎についてコメントしておくことにします。何せ彼らは、プログレッシブな(進歩・向上の)ベクトルに乗っているからね。とはいっても、やっぱり、肝心なところで足を止めて様子見になってしまうというシーンがまだまだ目立つのですよ。

 自分がボールを失ったり、自分の近くで相手にボールを奪い返されたら、意地でも全力で追い掛けなければダメだよね。まず自分がチェイス&チェックを仕掛けるという忠実なプレー姿勢でね。ただ彼らの場合、やるときはやるけれど、逆に、フッと「気が抜ける」といったシーンも目立つのですよ。特に疲労がたまってくる後半になったら、急速に気抜けシーンが増えてくるのです。

 もちろん、ポンテにしても長谷部にしても気抜けシーンはあるけれど、頻度的には許容範囲。それに対して小野と永井の場合は・・。出来るのに(忠実に)やらないというのが、もっとも悪い姿勢だし、それこそが、チームの中での信頼関係を崩壊させる元凶なのですよ。

 



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