湯浅健二の「J」ワンポイント


2007年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第7節(2007年4月22日、日曜日)

 

マリノスのプレッシングサッカーがツボにはまった・・(マリノス対トリニータ、5-0)

 

レビュー
 
 プレッシングサッカーを標榜するマリノスが完勝を収めたこの試合。マリノスは、全員が高い守備意識を発揮し、素晴らしい組織ディフェンスを前面に押し出した(高い位置での)ボール奪取から、間髪を入れない鋭い仕掛けを繰り出していきました。人とボールがよく動く仕掛け。観ていて爽快そのものじゃありませんか。早野監督は、良い仕事をしています。

 「普段と比べて、かなりレベルの低いサッカーになってしまった・・ビルドアップのときのパスミスが多すぎた・・守備でもしっかりとスペースを埋められなかった(カバーリングなどのディフェンスプレーがうまく有機的に連鎖しなかった!?)・・4ゲーム勝ちがないということで選手に焦りがあったのかもしれない・・」等々。トリニータのシャムスカ監督が冷静に敗因を分析していました。まあ・・そういうことだね。

 限られた個の能力を最大限に発揮させる、攻守にわたる素晴らしくダイナミックな組織プレー。まあ、それがトリニータのコンセプトですかね。もちろんスリーバックをベースにした活発なサイド攻撃とか、ボールを奪ってからのスピーディーな仕掛け(選手の仕掛けイメージがしっかりとシンクロしているからこそのスピードアップ!)とか、細かなキーワードはたくさんあるだろうけれどね。

 私は、トリニータのサッカー(・・彼らが取り組んでいる、高いレベルのサッカーを志向するプレー姿勢)を高く評価しています。だから、この試合の内容には、ちょっと落胆させられてしまった。まあこの試合の内容については、マリノスのプレッシングサッカーが素晴らしかったというのが、正しくフェアな解釈でしょうね。

 前節のジュビロ戦でマリノスが展開したサッカーは、ディフェンスの動きが連動せずに単発のプレッシングになってしまうなど、まさに鈍重そのものでした。疲労!? まあそういう要素もあったんだろうけれど、この試合では、それから物理的&心理・精神的なリカバーに一週間を充てられたことがポジティブに作用したということなんだろうね。

 またそこには、ジュビロ戦での悔しさをぶつけたとか、内容が素晴らしかったレイソル戦やアルディージャ戦の良いイメージを復活させられたという側面もあったのかもしれない。とにかくこの試合では、チェイス&チェック、協力プレスへの忠実な寄り、次のパスへのアタック狙い、その周りでの忠実なマーキング等々、それらすべての守備プレーが、まさに有機的に連鎖しつづけていました。だから完勝。

 ところで、早野監督が志向し、徐々にその機能性が高揚しはじめているマリノスのプレッシングサッカー。このゲームでも素晴らしい機能性を発揮したからこそ、これからそれが、どのような展開をみせていくのか興味をそそられます。

 これから暑くなるし、周りのチームも対策を練ってくるでしょう。もちろん、相手がチカラのあるチームだったら、素早く広い人とボールの動きだけではなく、局面での個人プレーでマリノスのプレッシングを簡単にかわしてしまうなんていうケースも出てくるはずです。

 プレッシングは、一人でも動きの流れについていけなかったら、その機能性は地に落ちてしまいます。一人がチェイス&チェックで仕掛けていても、周りの味方の守備プレーが連動しなければ、効果的な協力プレスなど夢のまた夢だということです。そしてそのことで、チームの「モラル」も地に落ちていく。

 気候が暑くなったら、集中も途切れがちになるでしょう。つまり「一人でも・・」というケースが増えてくることでチームのモラルが減退し、結局は足が止まった「擬似の心理的な悪魔のサイクル」にはまり込んでしまう危険性が増大するということです。

 また相手がうまく、プレスの輪を簡単にかわされるようなネガティブ現象がつづけば、敗北感が充満することでチームのモラルも奈落の底へ・・ってなことになってしまう。

 ここで言いたかったことは、積極的な(ダイナミックな)プレッシングサッカーを発展ベクトル上で維持するためには、失敗したり無駄な汗かきプレーがつづいたとしても、それでモラルを減退させることなく、全力のディフェンスを有機的に「連鎖」させつづけなければならないということです。そこには、ミスによる落胆や敗北感など、連鎖のチェーンを断裂させてしまうようなネガティブな心理要素が満載ですからね。そのためには、強烈な意図と意志がバックボーンになければならないのです。

 だからこそ、選手のモラルが減退することなく、逆にそれを高揚させるような、心理マネージャーとしての監督のウデが問われるのですよ。

 イビツァ・オシムさんは、ジェフで、その連鎖チェーンを強固につなぎ止めただけではなく、そのチェーンのサイズを拡大してみせた。それも、毎年、個の才能を失っていたにもかかわらず。だからこそ、高く評価されたというわけです。その視点では、トリニータのシャムスカさんも同様に優れたウデの持ち主ということです。

 



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