湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2007年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第9節(2007年5月3日、木曜日)
- レッズの「ダイナミック・ボランチ・トリオ」(レッズ対ジェフ、1-1)・・マリノスのプレッシングサッカーは本物だ(マリノス対フロンターレ、2-1)
- レビュー
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- まあ、しょうがない・・サッカーだからこんなこともあるさ・・今日は、サッカーの神様が微笑まなかったということだな・・なんてネ。
この試合では、何といっても、後半にあれだけの絶対的チャンスを作り出しながら(少なくとも5本)、結局は勝ち越しゴールを奪えずにホームで引き分けてしまったレッズというのが最大のポイントでしょう。だから、レッズを主体にした導入文からスタートした次第。
ホルガー・オジェック監督も、「我々は、最後の最後までチャレンジした。それだけは確かな事実だけれど、それでも幸運に恵まれなかった・・」とまとめていました。まあ・・そういうことだね。その現象に戦術的な(必然的な)意味づけをやり過ぎたら、確実に「外す」からね。とにかくこのゲームについては、(レッズが)ツキに見放されたという表現が、もっとも適当だと思いますよ。
もちろんビデオで確認したら、ほんの小さなところでの「結果としての」ネガティブプレー(!?)が目に付くかもしれないよね。例えば、走り込まなければいけないのに一瞬ボールウォッチャーになったとか、クロスをもっと早めに上げなければならなかったとか、クロスのねらい所がズレていたとか、味方のシュート場面でGKへ詰めていかなかったとか・・。もちろんそれらの「小さなところ」は改善テーマです。何度も、何度も繰り返しビデオを見ることで、イメージトレーニングを積まなければなりません。とはいっても、大きなゲームの流れからしたら・・。
レッズの視点ばかりで書いたらジェフに失礼になる。一人足りなくなった彼らもまた、最後の最後まで主体的に闘い抜くという立派なプレー姿勢でした。とはいっても、レッズにチャンスを作り出されたシーンでは(例えば、右サイドで阿部勇樹が完全フリーでGKと一対一になったシーンとか)、ちょっと受け身に集中力を切らせてしまった場面もあった。それもまた、ビデオを活用した学習教材です。
この試合のレッズについてだけれど、戦術的には、フォーバックの前に三人のボランチを置くというゲーム戦術イメージでした。
要は、守備意識が高い(チェイス&チェックや汗かきマーク、またボール奪取勝負など、実際のディフェンス力でも群を抜く!)鈴木啓太、長谷部誠、阿部勇樹を、ボランチトリオとして配置したのですよ。そして、まさにその三人が、攻守にわたって素晴らしい機能性を魅せつづける。
守備では、右サイドの山田暢久やトゥーリオが上がっても(左サイドの坪井とセンターの堀之内はほとんど上がらない!)、次の守備でまったくポジショニング&人数バランスが崩れない。また三人のうちの一人は、常に「前気味ストッパー」として機能するから、フォーバックにとってもっとも脅威となるジェフ二列目の「抜け出し」は、ことごとくマークされる。そんな、複合的なカバーリング網が素晴らしい機能性を魅せつづけるのです。彼らの組織ディフェンスは、まさに縦横無尽&自由自在でした。
そのように(中盤の)守備が機能していることで、最終ラインも安定する。それに、必要とあれば、前線からポンテや永井雄一郎も戻ってくるからね。レッズの攻守にわたる組織プレー(組織コンビネーション)はなかなか良い流れになってきていると思いますよ。それもこれも、守備が安定してきているから。ディフェンスこそが全てのスタートラインなのです。
ということで、守備がダイナミックに安定していることで、次の攻撃に勢いが乗っていくのも道理。特に、人数をかけた組織コンビネーションがいい流れ。ワシントンが出場しなかった前節でうまく機能した協力プレーからの好影響(組織プレーイメージの発展!)があるのかもしれないね。
とにかく、前述した「ダイナミック・ボランチ・トリオ」から常に一人か二人が仕掛けの流れに乗って上がっていくのですよ。まあ基本的には長谷部誠が前線へ絡んでいくシーンが多かったけれど、たまには鈴木啓太や阿部勇樹も、まさに「シャドー仕掛け人」ってな具合に前線に顔を見せる。レッズの先制ゴールを演出したのも、(前節の決勝ゴール同様に)鈴木啓太だったからね。
私は、この「ダイナミック・ボランチ・トリオ」が気に入りました(ここでは意図的にボランチという表現を使います・・以前のコラムを追い掛けている方々ならば、その意味が分かるはず・・)。リーグ優勝を果たした昨シーズンの大詰めでは、山田暢久、長谷部誠、鈴木啓太で構成する三角形を「ダイナミック・トライアングル」と命名したのだけれど、この時点では、「ダイナミック・ボランチ・トリオ」が、これからのレッズの高揚を支える原動力になるに違いないと思っています。
勝負ではツキに見放されたけれど、内容的には、まさに「ウイニングチーム」と呼んでも差し支えないこのゲームでのレッズ。ホルガー・オジェック監督が、「ウイニングチーム・ネバー・チェンジ」というサッカーの大原則を踏襲するかどうかに注目しましょう。もちろん彼のことだから、また別の「ウイニングチーム」を演出してしまうかもしれないけれどネ。
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この(レッズに関する)コラムは埼玉スタジアムで書いています。時間が押してきたので、これから日産スタジアムへ向かいます。ということで、後で「マリノス対フロンターレ戦」のレポートも書き添える予定。では・・
・・さて、ということでマリノス対フロンターレ。とにかく、マリノスのプレッシングサッカーが完勝を収めたという試合でした。
「立ち上がりのペースが上がっていたから、後が心配にならなかったかって? まったくそんなことはなかったですね〜。もっともっと走ってもいいとまで思っていましたよ。ペース配分は、我々ベンチの仕事であって、選手には関係ない。選手には、ペース配分なんて考えずに、とにかく走ることを要求しつづけている」。早野監督の自信の弁でした。
マリノスについては、第7節、5-0という大勝を収めたホームでのトリニータ戦をレポートしたばかり。そのコラムの立ち上がりは、この試合にもピタリと当てはまるから、そのまま引用しちゃおう・・。
プレッシングサッカーを標榜するマリノスが完勝を収めたこの試合。マリノスは、全員が高い守備意識を発揮し、素晴らしい組織ディフェンスを前面に押し出した(高い位置での)ボール奪取から、間髪を入れない鋭い仕掛けを繰り出していきました。人とボールがよく動く仕掛け。観ていて爽快そのものじゃありませんか。早野監督は、良い仕事をしています。
ということで、マリノスのプレッシングサッカーは二試合目。だから今回は、もう少し深掘りすることにしましょう。世代交代というテーマと、それを引っ張りつづける山瀬兄弟・・。
今シーズンに入る前、何人かの年棒の高い有名選手がチームを去りました。そして世代交代が本格化する。シーズンの立ち上がりは不安定だったけれど、若手が主役としてチームを引っ張れるようになったことで、全てがうまく回りはじめたということなんだろうね。
世代交代をうまく善循環に乗せるためには、具体的に志向するチーム戦術的なイメージが必要です。そんな大義が、プレッシングサッカーだった。そして今、その志向するサッカーがうまく善循環に乗りはじめた。若いこともあって、勢いは、何倍にも増幅しつづけているということなんでしょう。
そんな若手の絶対的リーダーが、山瀬功治。この試合でも、攻守にわたって鬼神の活躍でした。そんな彼のプレーの絶対的なベースは、言わずと知れた「本物の守備意識」。チェイス&チェックは言わずもがな。ボール周りでの協力プレスやマーキング、インターセプトや相手トラップの瞬間をイメージしたアタックを狙う等々、とにかく素晴らしい実効レベルでした。
そんなリーダーのプレー姿勢が、チームメイトたちへのポジティブな刺激にならないはずがない。とにかく、今のマリノスが忠実に繰り出しつづけるチェイス&チェック(=守備の起点を演出するディフェンスプレー)の勢いは、多分リーグでも最高クラスだろうね。だからこそ、次、その次のボール奪取勝負プレーがものすごく効果的に回りつづけるというわけです。
そして最後に、前回(トリニータ戦)と同じ話題に入っていくことになります。これから暑くなってくるし、相手も対策を練ってくる・・というテーマ。
要は、そこに、「一人でも、プレスの流れに乗らなかったら、機能性が地に落ちてしまう・・」という厳しい現実があるということです。ここからは、前回のトリニータ戦の内容を、またそのまま引用してしまおう。ご容赦アレ・・。
プレッシングは、一人でも動きの流れについていけなかったら、その機能性は地に落ちてしまいます。一人がチェイス&チェックで仕掛けていても、周りの味方の守備プレーが連動しなければ、効果的な協力プレスなど夢のまた夢だということです。そしてそのことで、チームの「モラル」も地に落ちていく。
気候が暑くなったら、集中も途切れがちになるでしょう。つまり「一人でも・・」というケースが増えてくることでチームのモラルが減退し、結局は足が止まった「擬似の心理的な悪魔のサイクル」にはまり込んでしまう危険性が増大するということです。
また相手がうまく、プレスの輪を簡単にかわされるようなネガティブ現象がつづけば、敗北感が充満することでチームのモラルも奈落の底へ・・ってなことになってしまう。
ここで言いたかったことは、積極的な(ダイナミックな)プレッシングサッカーを発展ベクトル上で維持するためには、失敗したり無駄な汗かきプレーがつづいたとしても、それでモラルを減退させることなく、全力のディフェンスを有機的に「連鎖」させつづけなければならないということです。そこには、ミスによる落胆や敗北感など、連鎖のチェーンを断裂させてしまうようなネガティブな心理要素が満載ですからね。そのためには、強烈な意図と意志がバックボーンになければならないのです。
だからこそ、選手のモラルが減退することなく、逆にそれを高揚させるような、心理マネージャーとしての監督のウデが問われるのですよ。
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