湯浅健二の「J」ワンポイント


2008年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第12節(2008年5月10日、土曜日)

 

またまた長いコラムになってしまった・・(フロンターレ対レッズ、0-1)

 

レビュー
 
 えっ!? フロンターレが、レッズの4倍もシュートを打ったって!?

 そうか・・そういえば、シュート数を比較することでゲーム内容が把握できるという考え方には限界があるということだったよな・・まあ、どちらがより多く攻めたかという「傾向」については、ある程度は把握できるだろうけれど・・そのことについては、ギド・ブッフヴァルトとも何度も話し合ったっけ・・やはりシュートは、量ではなく質で評価すべきだってネ・・。

 そうなんですよ、この試合では、レッズのシュート数が「3本」だったのに対し、フロンターレが4倍の「12本」も打ちまくったという統計(公式記録)が出ているのです。まあ、その半分の「6本」は、レッズがPKで挙げた決勝ゴールの後に打たれたものだったわけだけれど(攻めるしかないフロンターレだから、無理な状況でも強引にシュートを放ちつづけた・・!?)。

 私は、ゲームの実質的な内容として、ゴールが入る前までの「6本」対「3本」が妥当な線だったと思っているのです。フロンターレが放った12本のシュートにしても、そのなかで、レッズ守備ブロックを振り回して(要は、決定的スペースを攻略して)作り出した決定的ゴールチャンスというのは一つか二つに過ぎなかったからね。

 素晴らしくハイレベルなサッカーが展開されたという事実以外の全体的な「構図」は、何といっても、互いに牽制し合う「守備のぶつかり合い」というものでした。換言すれば「どちらが先に仕掛けていくのか・・」という心理戦。ここでいう「仕掛け」とは、もちろんプレス守備の勢いを上げていくことです。守備こそが全てのスタートライン・・その内容によって、次の攻撃(その内容)が決まってくるといっても過言じゃない。

 もちろんフロンターレも、持てるチカラを存分に発揮し、立派なサッカーを展開しました。彼らの場合は、中盤のダイナミック・トライアングルというのが「キーワード・フォア・サクセス」。もちろん、菊地光将、中村憲剛、谷口博之の三人で構成する中盤トリオのことです。菊地が下がり気味。谷口が上がり気味。そして「牛若丸」が、自由自在に中盤をコーディネイトする(中盤のまとめ役・進行役)っちゅう具合です。

 このところの4試合では、このダイナミック・トライアングルは素晴らしい機能性を魅せつづけていました。それが、驚愕の「4ゲーム連続の逆転勝利」という成果の絶対的バックボーンだったわけです。ただこの試合では、PKでの決勝ゴールが入るまでは、互いに様子見という重苦しい展開がつづいた。そのことで、タテのポジションチェンジや、勝負所での「トライアングル全員」の押し上げといった勝負のチャレンジを仕掛けていく頻度は、明らかに減退傾向(慎重なプレー傾向)にあった。

 まあ、逆転勝利した4試合では、先に(早い時間帯で)ゴールを入れられたわけで、そのことによって、プレーの(仕掛けの)積極性が自然にアップしていったという事情があったことも事実。そこでは、トライアングルの「ダイナミズム(活力・迫力・力強さ)」は、失点という刺激によって格段に高まっていったというわけです。ただこのレッズ戦では、互いに慎重にプレーした時間が長かったこともあって、失点の後でも、なかなかダイナミズムが上がっていかなかった!? フムフム・・。

 「高畠監督は、大橋と黒津を投入することで、もっと攻撃の動きを活性化しようとしたと思う・・ただ結局は、どうも最後まで動きが出てこなかったと思う・・それは、レッズの守備が強かったからということなんだろうか・・」

 そんな私の質問に対して、高畠監督が、あくまでも真摯に答えてくれます。「ボールを動かしながらサイドからという意図があった・・ただ、ゴール前に人数をかけてブロックを作られると、崩していくのは難しい・・まあグラウンドのせいもあったのかもしれないが(グラウンドがスリッピーだった!?)・・とはいっても選手は、最後までゴールを奪いにチャレンジしつづけてくれた・・」

 そうです・・、この試合において目立ったテーマは、何といっても、決勝ゴールを奪ってからのレッズの守備にあったと思うのですよ。

 「ゴールを奪ってからの全員のディフェンス姿勢が素晴らしかったよな・・譲り合ったり、アリバイプレーに陥ったりせず、汗かきも含めて、自分からボールを奪いにいっていた・・例外なく全員が、積極的に(守備での)仕事を探しつづけていた・・それが、いまのレッズの好調を支えていると思うんだよ・・」

 公式記者会見の後、等々力スタジアムのエントランスホールで、ゲルト・エンゲルス監督と短く立ち話をしました。そこで、そんな問いかけをしたわけだけれど、ゲルト・エンゲルス監督が、短く「そう・・そういうことだと思うよ・・」と答えてくれた。

 優れた守備意識を絶対的な基盤とした、有機的なプレー連鎖の集合体としてのクリエイティブディフェンス・・。見応え十分でした。

 堤俊輔の粘り強いマーキングと、最後の瞬間での身体を投げ出した必殺タックル・・阿部勇気の、勝負所を「読んだ」寄せと力強いボール奪取(飛び出してくる相手にスルーパスが通ることを予測し、そこへ急行して危機を未然に防いだスーパーカバーリング&アタック!)・・堀之内のリーダーシップと実効カバーリングやマーキング・・などなど。

 もちろん、そんな最終ラインの効果的ディフェンスが機能しつづけたのも、中盤の汗かきディフェンスがあったからこそ。トゥーリオについては後述するとして、とにかく細貝萌の献身的でダイナミックな守備プレーは特筆ものでした。

 右サイドで相手ボールホルダーにプレスを掛けていたかと思ったら、ボールの方向を察知しながら動きつづけ、数秒後には、逆の左サイドでボールを持った中村憲剛に必殺のタックルを仕掛けたりする。すごいネ、ホント。まさに疲れを知らない「献身ダイナミズム」といったところじゃありませんか。

 この試合では、トゥーリオと細貝萌が守備的ハーフのコンビを組んだけれど(前節のスタメンは山田暢久とトゥーリオのコンビ)それが殊の外うまく機能しつづけたのですよ。守備においても、攻撃においても。

 要は、トゥーリオの「プレーイメージ」に、成功体感を積み重ねたことで、確固たるフレームが形作られはじめたということです。フレームといっても、決してステレオタイプ(型にはまった画一的イメージ)というわけじゃありませんよ。あくまでも柔軟なフレームワークのことです。

 基本的なポジションは、あくまでも最終ラインの「前」。要は「前気味リベロ」というイメージです。そこで、汗かきのチェイス&チェックを仕掛けていくことで守備の起点になったり、味方の「起点プレー」をベースに必殺のボール奪取勝負を仕掛けていったり(彼のボール奪取テクニックは本当に素晴らしい・・また、パスコースを読んだタックルも素晴らしく、何度も相手のパスをカットしていた!)。

 そして攻撃となったら、決してゲームメイカー的に中盤ゾーンへしゃしゃり出ていくのではなく、あくまでも「裏方」として、正確に、そしてクリエイティブにボールを配球するのです。高原やエジミウソン、はたまた梅崎や両サイドへの正確なパス。

 また、細貝や他のディフェンダーを「前戦へ送り出し」自分は後方に残るという、タテのポジションチェンジの演出家としても抜群の機能性を魅せる。そりゃそうだ。トゥーリオが後方に残るのだったら、誰もが、安心して攻撃の最終シーンへ飛び出していけるだろう。

 ということで、守備プレイヤーのオーバーラップ。何度、細貝が、最前線を追い越して決定的ゾーンで勝負を仕掛けていくようなオーバーラップシーンを目撃したことか。細貝は、いままさに「本物のブレイク・スルー」の真っ只なかにいるということです。このゲームを観戦していたオリンピック代表の反町監督も、細貝萌のプレーに舌鼓を打っていたに違いない。オリンピック代表チームにとっても、ものすごく貴重な「守備の起点プレイヤー」!? 期待しましょう。

 あっと・・トゥーリオの攻撃参加。もちろんトゥーリオ自身も、タイミングを見計らってオーバーラップしていきますよ。ゲームメイカーやチャンスメイカーを気取るわけじゃないから、まさに相手守備にとって「見慣れない顔」として、唐突に最終勝負ゾーンに顔を出すのですよ。これほど危険な選手はいない。まさに、究極の「消えるプレー」じゃありませんか。

 もちろん、試合展開によっては(ゲームの終盤に、どうしてもゴールを奪わなければならないというエマージェンシーでは)最前線にポジションを移すでしょう。このゲームでは最後の最後まで「守備の人」だったけれど、トゥーリオの「エマージェンシー・ストライカー」ぶりも魅力的だし、本当に頼り甲斐がある。

 要は、ゲルト・エンゲルス監督が、彼とのコミュニケーションを通し、トゥーリオの新しい可能性を開発したということです(中盤でのリーダーシップの発揮・・中盤での、攻守にわたる効果的な仕事イメージの確立・・攻撃への、実際的で実効的な絡みのイメージ・・等々)。それもまた監督のウデではあります。でも、やっぱり彼のスタートラインはディフェンスにありだよ。最後に、これだけは言っておかなければ・・。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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