湯浅健二の「J」ワンポイント


2008年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第13節(2008年5月17日、土曜日)

 

サスガのエキサイティング(タフ)マッチ・・レッズの出来は今シーズン最高でした・・(レッズ対ガンバ、2-3)

 

レビュー
 
 「本当に、ついていなかった・・でも、それもサッカーだからな・・とにかく、トレーニングのときから、レッズ選手の意識の高さやチームの優れた総合力を実感していたよ・・この試合も、内容的には完全にレッズのモノだった・・とにかくゲルトが良い仕事をしていることを確認できてハッピーだよ・・」

 試合後、レッズのゲストとして10日間ほど日本に滞在しているドイツサッカー協会の(プロコーチ養成コースの)チーフインストラクター、エーリッヒ・ルーテメラーと立ち話をしました。まさに、彼の言うとおりだと思いますよ。この試合でのレッズは、今シーズン最高のサッカーを展開したと思います。あっと・・エーリッヒ・ルーテメラーについては、私の「The 対談」を参照してください。

 西野監督も、「両チームともチカラを出し尽くしたタフなゲームだった・・攻め込まれる状態がつづいたけれど集中を切らすことはなかった・・とはいっても最後は、スタイルを問わないカタチでの逃げ切りということになった・・これで『J』が面白くなる・・」と、晴れ晴れとした表情で語っていた。

 たしかに攻め込まれるカタチがつづいたし、全体的にはレッズがゲームを支配していたと評価するのがフェアだとは思うけれど、それでも(何度かの短い時間帯)ガンバがイニシアチブを取るという流れになったら、彼らもサスガの強さを発揮した(危険な攻めを魅せつづけた)。特にバレーのスピーディーな力強さと、ルーカスの、攻守にわたるハイレベルな組織プレーが光り輝いていた。底力では、やはりガンバも「リーグの顔」ということです。

 ところで、西野監督の「スタイルを問わない逃げ切り・・」という表現。もちろん、後半37分に、バレーの代わりに水本を投入したことで、選手に対しては『守りきるぞ!』という明快なメッセージになったわけだけれど、それ以外にも「何か」出てくるかもしれないと、質問してみることにしました。「スタイルを問わない・・という表現について、もう少し詳しくお話しいただけませんか?」

 「水本を投入することがチームにとって明快なメッセージになったことは言うまでもない・・そこでスタイルを問わないと表現したのは、(ガンバらしさとは違う!?)泥臭く守り切るといったニュアンスを込めたということだ・・クリアリングする『だけ』になったのは、自分たちのスタイルじゃないということ・・それは、美しくないし、自分はやりたくないのだけれど・・」

 どんな現場監督も、常に「理想と現実の狭間」で悩むもの。そしてその悩みは中途半端になることが多いモノなのです。そして『二兎を追う者は一兎をも得ず』ってなコトになってしまう。

 要は、理想を追い求めるべき状況と、迷いのない「現実的な決断」をしなければならない状況を明確に分けて対応できて初めて、本当の意味での「美しさと勝負強さの高質なバランス」を達成できるっちゅうことです。「あの」バルサだって、マドリーにしたって、(状況に応じて)最後の10数分間、ガチガチに(泥臭く&カッコなんて気にせずに)守り切るっちゅうサッカーを展開するわけだからね。

 西野監督も、ACL(特に一昨年シーズンでの中途半端なトライが悔やまれる!?)や「J」での苦い経験を積み重ねることで、後ろ髪を引かれることのない「現実的な決断」が出来るようになったということなのかもしれない。今年のACLは、ガンバ、アントラーズ(もし北京が最終戦で汚い手を使わなければのハナシだけれど・・)、そしてレッズという日本を代表する強豪クラブが優勝を争うことになるかもしれないネ。

 さてレッズ。

 「この試合でのレッズは、今シーズン最高のサッカーをやったと思う・・そこでは、トゥーリオの役割が重要な意味を持っていたはずだが、そのことについて、簡単に表現してもらえないだろうか・・」

 そんな私の質問に、ゲルト・エンゲルス監督が、例によって真摯に答えてくれます。「トゥーリオは、まず守備からゲームに入っていくというイメージをもっている・・彼が真ん中にいれば(彼の特長である!?)リーダーシップを執りやすい・・とにかくトゥーリオは、真ん中にいることで、多くの重要な機能を果たせると思う・・」

 そう・・その通り。この試合では、はじめて(交替出場した)鈴木啓太と守備的ハーフの位置でコンピを組んだわけだけれど、トゥーリオがタイミングよく上がっていったり、後方で鈴木啓太が素早く正確にボールを展開したりなど、なかなか良かった。もちろん、鈴木啓太の「守備の起点プレー」は健在だし、それがあるからこそ、トゥーリオは、得意のボール舵手勝負を仕掛けていける。

 トゥーリオにしても、自分を中心にボールを動かそうなんてことは決して思っていない(まあ、以前はそんなイメージでプレーしたゲームもあったけれど・・)。大声でリーダーシップを発揮しながらも、『組み立てプロセスでは』、あくまでもスムーズな人とボールの動きを演出するための「一つの駒」として機能しようとしている。だからこそ、中盤での「人とボールの動き」が活性化する・・だからこそ、前後分断なんていう低次元のサッカーから脱却できる・・。そして、相手ディフェンスにとって「見慣れない顔」としてタイミングよく最前線へ上がっていく(=ハイレベルな『消える』プレー!)。フムフム、素晴らしい。

 誤解のなきように確認しておきますが、細貝萌のディフェンスプレーも、鈴木啓太に勝るとも劣らない効果的な「汗かきコンテンツ」満載ですよ(まあ局面勝負では啓太の効果レベルまでは至っていないけれど・・)。この試合では、啓太が入ったことで、細貝は右サイドバックへ移行したけれど、それで、チームとしての「前後方向へのエネルギー移動レベル」がちょっと減退したなんてことも感じていた(啓太の試合勘!?)。

 まあとにかく、中盤の守備的ポジションに、攻守にわたって自ら仕事を探し、その仕事を達成するために常に120%のチカラを発揮できる(発揮しようとする高い意識を持ち合わせた!)プレイヤーを何人も抱えていることの意義は、計り知れないほど大きいということが言いたいわけです。それもまた、ゲルト・エンゲルス監督の功績ということだね。

 ところで、この試合でのレッズのチャンスメイク(仕掛けプロセス)だけれど、それには本当に素晴らしい内容が詰め込まれていた。要は、サイドからのクロス攻撃、中央ゾーンでの一発スルーパス攻撃、中央ゾーンでの仕掛けコンビネーション、そしてセットプレー等々、とにかく、攻撃(仕掛け)のバリエーションが、高いレベルでバランスしていたということです。

 立ち上がり数分で作り出した、高原直泰&エジミウソン&相馬崇人が絡んだ絶対的ゴールチャンス、その後の複数のクロス攻撃、決定的スペースへタテに抜け出す高原直泰へのスルーパスが決まったシーン、セットプレーからの実効あるチャンスメイク(そして実際のゴール!)などなど、どうしてゴールにならないの(!?)という惜しいシーンのオンパレードでした。ここは、ガンバGK松代直樹に対して心からの拍手をおくるしかありませんよね。それにしても松代直樹の身体は、本当に「よく伸びた」ですね。素晴らしい!

 あと、二人だけピックアップしたい。一人は、梅崎司。ホントに良くなっている。特に守備が良くなっている。彼自身も、守備が良くなったからこそ(ボールがないところでの動きの量と質が上がったからこそ!)自分の強みを発揮できている・・という事実をしっかりと理解しているはずです。

 そう・・それこそが、才能が「ブレイクスルー」の領域へ入っていく際の「キーポイント」なんですよ。まず、自ら「何とかしたい・・何とかしなければ・・」という高い意識でチャレンジし、それがうまく回りはじめることで確信レベルが深まり、そしてポジティブサイクルが回りはじめる・・。これからの梅崎に期待しましょう。

 そして最後が、何といっても阿部勇樹。この試合でも、何度も魅せてくれたスーパーカバーリング。本当に素晴らしいよ。味方のミスを「予想」した超速ダッシュで寄り、ギリギリのところで身体を投げ出して相手シュートをブロックしてしまうんだから。

 阿部にしても細貝にしても、もちろんトゥーリオにしても他の選手たちにしても、とにかくいろいろなポジション(役割=タスク)をこなせる選手が増えてきたことは喜ばしい限りじゃありませんか。イビツァ・オシムさん曰くの「ポリヴァレント性」。そりゃ、そうだよ。それがなきゃ高質なサッカーなんて出来るはずがない。何せ、理想は(GKを除いて!)ポジションなしのサッカーだから・・ネ。

 あっと・・最後に、ガンバの遠藤についても一言。交替出場ということで30分だけのプレーだったし、パフォーマンスも「フル」じゃなかった。でも局面では、スッとスペースへ抜け出してパスを受けたり(得意の消えるプレー!)落ち着いたチャンスメイクを魅せたりと、サスガのスマート・プレーを披露してくれた。その中でも、三点目のミドルシュートは秀逸だった。

 これからの日本代表は、相手の強化守備とも対峙していかなければならないからね。遠藤が秘める、抜群の中距離シュートセンスは大きな武器なのですよ。もちろん中村俊輔も含めてね。それがあるからこそ、相手守備は、マークへ急行するなど「開いて」いかざるを得なくなる。そして日本のパス攻撃の威力が倍増する・・。

 西野監督も、「打てる状況は多いし、彼(遠藤ヤット)にはそれを決める能力がある・・そのことは常々意識させてはいるけれど、彼の場合は、どちらかといえば人を探す傾向が強く、どうしてもパスを選択してしまう・・」と言っていた。

 とはいっても、指揮官のイメージがしっかりとしているのだから、これからの遠藤ヤットの「消える(相手守備が気付かないうちにスッとシュートポジションに入ってくるボールなしのプレー!)中距離シュート」にも大いに期待しようじゃありませんか。

 さて、これから「レッズナビ」。楽しみながら喋ろうと思っています。こちらが楽しんでいれば、必ずポジティブなスピリチュアル・エネルギーが放散されるはずだし、観ている方々にとっても気持ちよい番組になると思うから・・。あははっ・・単なる独りよがりだったりして・・。それでは。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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