湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2008年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第13節(2008年5月18日、日曜日)
- ヴェルディの才能を抑えようとするゲーム戦術へのカウンターパンチ・・(ヴェルディ対エスパルス、4-1)
- レビュー
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- 「皆さんも観たとおり、ヴェルディはどこからでも(どんなに角度がなくても、どんなに遠くても)シュートを打ってくる・・それを(完全に!)抑えることは難しい・・我々は、相手を抑えることよりも、エスパルスの闘い方でゲームに臨むことを選んだ・・我々は、リスクを冒しても前へ行くべきだと思っている・・」
潔い(いさぎよい)ネ、エスパルスの長谷川監督。その他にも、「全体的にみて、相手に押し込まれたという展開じゃなかった・・我々にも十二分にチャンスがあった・・ただ、ミスが・・とにかく三点目が痛かった・・」とも言っていた。フムフム・・
そんな長谷川監督の発言は、私のこんな質問に対する回答でした。
「いまのヴェルディは、対戦する監督にとっては、ゲーム戦術を計画するのが楽しみで仕方ない相手だと思う・・長谷川監督は、ヴェルディが完敗したトリニータ戦を十分にスタディしたはずだが、ヴェルデイの前の三人を抑えれば、彼らは簡単にペースを乱すはず・・そのゲームプランについては、どのように考えていたか?」
でも長谷川監督は、自分たちの戦い方を貫くだけだと言う(とはいっても、本田拓也はディエゴをマンマークで抑えようとしていたフシはあるけれど・・)。そしてまさに、その言葉どおりの積極的な仕掛けサッカーを展開し、そして散った。フムフム・・
同じ視点の質問を、今度はヴェルディの柱谷哲二監督にぶつけてみた。
「いまのヴェルディは、対戦する相手チームの監督にとっては、ゲーム戦術を計画するのが楽しみで仕方ない相手だと思う・・何せ、ターゲットは決まっているのだから・・もちろん前の三人を抑えるという発想だ・・それで、前節のトリニータ戦はシャムスカ監督のゲーム戦術にはまって完敗を喫した・・この一週間、その完敗を受けて(次の相手も同じようなゲーム戦術で臨んでくることを前提に)何を反省し、どのような対策を練ってきたか・・?」
それに対する柱谷監督の答えは、本当に秀逸だった。
「先週は、大分戦からの反省を踏まえ、ボール絡みの局面勝負で絶対に負けないことを強調し、その強化トレーニングに没頭した・・とにかく、ボール絡みの局面勝負(1対1の勝負)に絶対負けないことを強く意識させたつもりだ・・」
いや、本当に素晴らしい(前向きの!?)発想でした。
ヴェルディが相手となったら、とにかく前の三人を潰すことがゲーム戦術の大前提になることは言うまでもありません。だから、長谷川監督への質問では、こんなことも付け加えたかった。
「ヴェルディの前の三人に対してガチガチのオールコートマンマークをつけ・・彼らに全くボールに触らせない・・そんな徹底マンマークを立ち上がりの10分間でもつづけられれば、この三人は完全に自分たちのペースを乱し、フラストレーションのカタマリになるだろう・・そうすれば、ストレスをため込んで、まったく自分たちのリズムでプレーできなくなるに違いない(足を止めてスタンディングプレーに終始するようになり、その悪魔のサイクルから抜け出せなくなる!)・・長谷川監督は、そんな発想でゲーム戦術を練ろうとは考えなかったか?」・・とかネ。
対する柱谷哲二監督は、相手チームが、常にそんなゲーム戦術で試合に臨んでくることを大前提に、それに対抗するためのイメージトレーニングと戦術トレーニングを積み重ねたということです。
絶対に「ボール絡みの局面勝負」で負けない・・そこでは、とにかくまずしっかりとボールをキープし、そして確実に次へ展開する・・そして、次のスペースへ向けてパス&ムーブを仕掛けていく・・それさえ繰り返せば、自分たちが得意のコンビネーションも出てくるだろうし、よりフリーな状況で、得意のドリブル勝負を仕掛けていけるようにもなるだろう・・っちゅうわけです。
この試合では、そんな「粘り強い」ボールキープと(次のパス&ムーブも含む)展開プレーが、殊の外うまく機能していました。だからこそ、素早く正確なコンビネーションを繰り出せただけではなく、サイド攻撃にも勢いが乗るようになった。だからこそ、前の三人の才能が、より効果的に活かされるようにもなったし、サイドからの仕掛けにも勢いが乗るようになった。
前の三人に対して、組織プレーを強調するのではなく、局面での「個のプレー」で絶対に負けないことを強調した柱谷哲二監督。その戦術的なイメージトレーニング(心理マネージメント)にアグリーだね。それがうまく回りはじめたからこそ、この三人の運動量も増幅した(ボールがないところでの動きの量と質が向上した!)だけではなく、守備にも勢いが乗るようになっていったからネ。
柱谷哲二監督が魅せた、彼ら三人の特長を活かす方向性の「才能マネージメント」に対して、心から拍手をおくっていた筆者でした。
それにしても、エスパルスのエゴイスト、フェルナンジーニョの「光と影のギャップ」は大きい。ボールがないところでの素晴らしいパスレシーブの動きや勝負ドリブルは、まさに才能としか言いようがない。ただ、組織的なプレーイメージには大きな課題を抱えている。だから、長谷川監督に対して、こんなことも質問したかった。
「長谷川監督にとって、フェルナンジーニョは、諸刃の剣ですか?」
とにかく今のエスパルスでは、彼が攻撃の流れの多くをマネージしていることは明白な事実です。だからこそ、彼を中心に、もっとしっかりとボールを動かせれば、人の動きも自然とついてくるはずだと残念に思うのですよ。そうしたら、藤本淳吾や枝村匠馬といった若手や両サイドが絡んだ組織的な仕掛けが、もっともっとダイナミックに機能するようになるはずだからね。でも・・
長谷川監督が言うように、エスパルスの攻撃の発想自体は、まだまだ高い次元にあると思いますよ。でも、いかんせん「駒」が・・。そのことは守備ブロックにも言えるのかな!? 新外国人がうまく機能しなかったり、伊東輝悦のパフォーマンスに陰りが見えてきたり・・。
とにかく、(特に)菅原智と大野敏隆の攻守にわたる戦術的な機能性アップによって、また最前線トリオのイメージシンクロレベルと忠実なプレーレベルの高揚によって、ヴェルディの全体パフォーマンスが増幅しつづけているのは確かなことです。とにかく、彼らほど、「J」に特異な(魅力的な!)彩りを添えるチームは他にはない。これからの発展が楽しみで仕方ありません。
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ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。
基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。
いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。
蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。
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