湯浅健二の「J」ワンポイント


2008年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第14節(2008年6月29日、日曜日)

 

「変化」に富んだエキサイティングマッチでした・・(FC東京対ジェフ、1-1)

 

レビュー
 
 「いや、そんなことはない・・(相手のキーマンである今野が退場させられ、数的に優位に立ったにもかかわらず!?)しっかりとボールをキープすることが出来なかったというのが実際のところだった・・そして、ショート&ショートというパスを繰り返してボールを奪われ、最後はコーナーキックから失点してしまった・・たしかに後半はワイドから(サイドゾーンをうまく使って)効果的な展開ができるようになったとは思う・・まあ、選手交代がうまくいったという側面もあるだろうな・・とにかく我々は、勝ち点を1を得るだけのサッカーは展開したと思っている・・」

 「ミラー監督は、前半は抑え、後半の選手交代で勝負を掛けていくというゲーム展開をイメージしていたのではありませんか?」

 そんな私の質問に、ジェフ千葉のミラー監督が、冒頭のように答えてくれました。今野泰幸という絶対的な主力をレッドカードで欠いたFC東京に対して、前半のジェフは、不自然なほど消極的にプレーしたのですよ。そんな展開を観ていて、それはミラー監督の意図だったに違いないと思ったわけです。要は、数的に優位な状況に応じた「何らかの戦術的な指示」を出さなかったということです。

 ご存じのように(今のところの!?)ジェフの基本的なチーム戦術的イメージは、しっかりと守備ブロックを固め、(もちろんなるべく高い位置で)ボールを奪い返してから、素早く直線的に相手ゴールへ迫る(蜂の一刺しカウンター)というものであり、そのチーム戦術を徹底しているからこそパフォーマンスを安定させられている。

 ミラー監督の弁によれば、今野泰幸の退場とレイナウドのPK失敗の後でも、特別な指示を出さず「それまでのやり方」を続けたということになります。まあ本当にそうだったのかもしれないね。ミラー監督には、有利な状況でも、まず安定した自分たちのサッカーを維持する方がうまくいく(攻めてくるFC東京に対して、より効果的なボール奪取をベースに危険なカウンターを仕掛けていける)という判断があったんでしょう。

 たしかに、PKを失敗した後のゲーム展開では(ジェフが意図するように)人数を掛けてゲームを支配するFC東京に対し、何度かジェフが、レイナウドを中心に(今野がレッドカードを受けたシーンのような)鋭く危険なカウンターを繰り出していたからね。そんなチャンスを体感した選手にしても、「よし、このままの展開でいいゾ・・」というイメージを強めても不思議じゃなかった。

 でも、そこは理不尽なサッカー。そんな展開のなかで(相手より一人多いにもかかわらず!)ジェフは、自分たちがイメージする以上にFC東京にゲームを支配され、そしてコーナーキックから先制ゴールまで叩き込まれてしまうのですよ。そんなゲーム展開を観ながら、誰もが「ジェフは何て弱いんだ・・」と思ったはずです。

 でも、そんな展開が、後半は俄然白熱していくのです。

 私が質問したのは、後半12分に守備的ハーフ戸田和幸との交替で巻誠一郎が登場してから、ジェフの攻めの勢いが(実際の実効レベルでも)FC東京の守備ブロックを振り回すまでに格段に高揚していったからに他なりません。

 だから私は、ミラー監督が、そんな「試合全体を通したゲームの流れ」までも俯瞰するような「狡猾な意図」を持っていたのかもしれないと思ったわけです。

 (数的に不利な状況であるにもかかわらず攻めつづける)FC東京の疲れを待つだけではなく、一人足りないことで、ゲームの「流れの変化」に対応する十分なキャパシティーを失っているはずのFC東京に対し、満を持して「守備的な選手に替えて攻撃的な選手を投入する」という戦略的な発想・・。何せ彼は、世界の強者プロコーチだからネ。

 そして巻が登場してから、ゲームがジェフ有利という流れに変容していっただけではなく、実際のチャンスも作り出せるようになっていく。そして、巻のヘディングアシストからレイナウドが決定的なフリーシュートを放った直後には、まさに「必然」という同点ゴールが生まれるのです。

 そしてゲームが、同点ゴールという「極限の刺激」によって、「これぞサッカー!」というエキサイティングなものへと成長していく。そんな「ゲーム成長のバックボーン」が、それまで減退気味だったFC東京のマインドが再び活性化しはじめたことに拠ることは誰の目にも明らかでした。

 ということで、FC東京のリバイタライズ(再活性化)。そのリソース(源泉)は、何といっても城福監督が魅せつづけた攻撃的なリーダーシップでしょう。ゲームの流れを見極め、躊躇なく、カボレと平山を、近藤祐介と赤嶺真吾にチェンジする。そして(今野が退場させられたにもかかわらず!・・また、交代枠を使い切った後で一人の選手がケガで十分にプレーできなくなったにもかかわらず!?)FC東京の攻めの勢いが目に見えて増幅していくのです。

 この時間帯ほど、城福監督のハイレベルな「勝負師マインド」を感じたことはありませんでした。

 試合後の記者会見。ミラー監督は「勝ち点1で満足」といったニュアンスの表情。それに対して城福監督は、勝てなかったことが悔しくて仕方ないという厳しい表情を崩さなかった。それも、ゲームの立ち上がり7分で「あの」今野泰幸が退場させられたにもかかわらず(また交代枠を使い切った後で一人の選手がケガで十分にプレーできなくなったにもかかわらず!?)。ホントに、なかなかの勝負師だよね。

 この試合は、両監督の意図がグラウンド上で火花を散らすという「変化」に富んだエキサイティングマッチでした。あ〜〜、面白かった。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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