湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2008年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第15節(2008年7月6日、日曜日)
- いろいろとテーマをピックアップしてみました・・(フロンターレ対マリノス、2-1)
- レビュー
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- 「また榎本だ・・」
フロンターレが決勝ゴールを奪い取ったシーンを観ながら、近くに座るジャーナリスト仲間が、小さく、吐き捨てるように呟きました。まさに、そういうことです。「あれ」は許されるミスじゃない。飛び出したゴールキーパー(榎本)をボールが飛び越えていったんだからネ。まさに、アウェーでのバーレーン戦の川口能活のミスと同じでした。
聞くところによれば、今シーズンのマリノスは、同じような榎本のミスによって、何試合か落としたということでした。ミスは仕方ないにしても、同じミスを繰り返すことは許されない。何せゴールキーパーは最後の砦なんだからネ。
これまで私は、ヘネス・ヴァイスヴァイラーとかリヌス・ミヒェルス(ドイツ語読みです)はたまたヴァレリー・ロヴァノフスキーを筆頭に、多くの欧州プロコーチ連中と、ゴールキーパーの能力評価についてディスカッションを重ねてきました。
それらを、細かいところまで列挙するわけにゃいかないけれど、そのディスカッション内容を収斂したら、こんな感じになるかもしれない。要は、ゴールキーパーに望まれる能力として、もっとも大事なモノのことです。
それは、「肉弾相打つギリギリの競り合いという勝負シーンで、いつものパフォーマンスを、冷静に、そして安定して発揮できるキーパー」ということです。
相手にガンガン押し込まれているなかで味方ディフェンダーが振り回され、相手ボールホルダーを決定的にフリーでプレーさせてしまう・・。そんな危急状況でも、落ち着いて「主体的な読み」をしっかりと自信をもって実行できる。そんなキーパーほど、どんなに危険な状況でも、何事もなかったように「傍目には簡単に」ボールを処理できてしまうモノなのですよ。分かり難いですかネ・・。
またハイボールにしても、まさに「当ったり前だゼ〜・・」なんていう感じで、まったく何も起きそうにない感じで、スボッと手に収めてしまったり、簡単にパンチングで逃れてしまったり。そんな、「オレがいれば、何事も起きないよ・・」といった、余裕のボール処理という雰囲気を醸し出せるゴールキーパーっちゅうことですかネ、危急状況でも、いつものパフォーマンスを当たり前のように発揮できるGKって・・。
さて試合・・
このゲームは、全体的には、ほぼ互角の内容だったとすることが出来ると思います。だから引き分けがフェアな結果だったかもしれない。だからこそ、余計ゴールキーパーの(決してやってはいけない!?)ミスが目立ってしまった・・!?
それにしても、前半立ち上がりのフロンターレの勢いにはホントに素晴らしいモノがあった。組織プレーと個人勝負プレーが、美しく、ハイレベルにバランスしつづけ、繰り返し、マリノス守備ブロックを振り回してウラスペースを攻略していくのですよ。そして、その勢いのままに先制ゴールまで奪ってしまうのだから、観ている方にはエキサイティングこの上ないゲーム展開ということになりました。
でもその後は、マリノスも盛り返していく。しっかりとしたボールポゼッションから、何度も、フロンターレ守備ブロックを攻略し「かける」ところまではいくのですよ。でも結局は、フロンターレ守備ブロックの「眼前」での仕掛けプロセスということになってしまうのです。要は、フロンターレのウラのスペースを効果的に突いていけなかったということです。
その背景として、やっぱり「タテのボールの動き」が十分ではなかったことが挙げられると思う。ボールを支配することに「ばかり」イメージが偏っていた!? まあ、そういう側面もあったのかもしれないね。もっと、思い切った勝負プレーが必要だったと主のですよ。組織コンビネーションでも、個人的な勝負ドリブルにしても・・。
ただ、山瀬功治のドリブル勝負だけは目立ちに目立っていた。この試合でも、2-3本はありましたかネ、危険なドリブルシュートシーンが。それでも、組織と個のバランスという視点では、やはりフロンターレに軍配が上がる。ジュニーニョ、中村憲剛、我那覇和樹といった個の才能連中が(もちろん交替出場したチョン・テセも!)組織的にもスムーズに機能しつづける(有機的なプレー連鎖を魅せつづける)のだからネ。
その象徴が、やはり中村憲剛。この試合でも、攻守にわたって「牛若丸ぶり」を存分に魅せつけた。もちろんディフェンスを絶対的なスタートラインにしてネ。
いや、ホントに素晴らしかった。
・・中盤での(汗かきも含む)効果的なディフェンス・・効果的なボール奪取勝負だけじゃなく、必要とあれば、ボールがないところで(味方最終ラインを追い越してまでも!)相手をマークしつづけたりする・・そんな効果的な(忠実な)守備プレーが基盤になっているからこそ、攻撃にうつったら、味方は憲剛を探しつづける(味方の信頼の証!)・・
・・とにかくボールが常に憲剛に集まりつづける・・そして魅せつづける局面での巧みなボールコントロール(以前はジネディーヌ・ジダンの組み立てプレーをイメージし、局面でのエスプリ・ボールコントロールなんて呼んでいたけれど、憲剛のプレーは、まさにそのイメージに近い!)・・そんな創造性プレーをベースに、効果的な(大小織り交ぜた)展開をリードする・・彼からの展開は、まさに相手守備の薄いスペースを突くといったイメージ・・それも、パス出しのタイミングが素早いからこそ効果的!・・ホントに素晴らしい・・それだけじゃなく、まさに「影のように」スッと決定的シーンに顔を出して決定的な仕事までやってしまう・・
誉めすぎだろうか。いや、そんなことはない。とにかく私にとって中村憲剛は、理想に近い、守備と攻撃を効果的に結びつける「リンクマン」なのですよ。そう・・だから牛若丸・・
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ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。
基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。
いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。
蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。
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