湯浅健二の「J」ワンポイント


2008年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第16節(2008年7月12日、土曜日)

 

これほど戦術イメージが「ツボ」にはまったゲームも珍しい・・(ヴェルディ対サンガ、0-1)

 

レビュー
 
 「ガンバ、エスパルス、トリニータと、リーグが再開してから勝てないゲームがつづいたわけだが、サッカー内容は悪くなかったと思っている・・それに新メンバーもチームに馴染みはじめているし(そのことを選手が実感しているからこそ)自信をもって我慢しつづけられた・・」

 試合後の記者会見で、加藤久監督が、そう胸を張っていました。まさに、そういうことだね。彼が言っていたように、「我慢」こそが京都サンガのキーワードということだろうけれど、それにしても、結果が伴わない場合は、どんどん状況が悪化していくモノです。だからこそ加藤監督は、選手の確信レベルを高みで維持するために、強烈に「内容」にこだわりつづけたということなんだろうね。

 とにかくこの試合は、京都サンガがイメージするゲーム運びが見事に「ツボ」にはまったという展開になりました。我慢して守備を安定させ、徐々に「ボール奪取勝負の機能性」を高めながら、そこから繰り出すカウンター攻撃のイメージを先鋭化する・・。

 要は、しっかりと守って必殺カウンターを仕掛けていくというゲーム戦術的イメージのことだけれど、選手に対して(様々な刺激を伴うカタチで!?)より鮮明にイメージを植え付けるマネージメントプロセスが非常に大事だということです。しっかりと守ってカウンターを仕掛けるという言葉の「ニュアンス」をしっかりと選手に理解させ、考える前に自然と身体が動くというレベルまで身体を(アクションイメージを)純化させる。それがあるからこそ、選手の「確信レベル」を高みで安定させることができるというわけです。

 そこでのイメージ作りプロセスだけれど、例えば・・

 ・・フッキとレアンドロに対しては、とにかく忍耐強くマークをつづけること・・彼らは、自分たちで仕掛けの起点になろうとするだろうから、そこがボール奪取勝負のチャンスになる・・そして「そこ」こそが、必殺カウンターの起点になる・・前戦の三人(柳沢敦、フェルナンジーニョ、そして渡辺大剛)は、その流れに対する明確なイメージをもっているから、ボールを奪い返したら、とにかくまず最前線の決定的スペースを意識すること・・そんなチャンスを、全員がイメージし、忍耐強く待ちつづけることが勝利につながる・・等々・・

 そしてトレーニングにおいて、「それ」を、クレバーな「形式」を導入することでイメージと身体に染みこませていくというわけです。

 それにしても、京都サンガの前戦の三人(柳沢敦、フェルナンジーニョ、そして渡辺大剛)の動きには、まさに「爆発」という表現がピタリと当てはまる勢いがありました。それほど彼らの「確信レベル」が高かったということです。特にフェルナンジーニョの、決定的スペースへ飛び出していく勢いには、誰にも止められないエネルギーが充満していた(そして実際に、決定的な縦パスを呼び込んでいた!)。もちろん柳沢敦の「使われるプレー」も秀逸だったし、渡辺大剛のスピーディーなドリブル突破も素晴らしかった。

 そんな彼ら三人の、ボールがないところでの脇目も振らない全力ダッシュの量と質からは、京都サンガの「トレーニング内容」が、具体的な輪郭をもって透けて見えてくるようでした。加藤久監督は良い仕事をしているようだね。

 対するヴェルディ。完全にサンガの術中にはまっていたことは誰の目にも明らかな事実だったと思いますよ。

 たしかに前半の立ち上がりは、まだまだ勢いがあったけれど(河野やフッキ、また土屋の惜しいシュートもあった!)それでも、サンガ守備ブロックのボール奪取メカニズムがよりハイレベルに機能しはじめた前半20分過ぎからは(特にフッキとレアンドロに対するマーキングと集中プレスが良くなってきた!?)彼らのカウンターの危険度が高揚しはじめたと感じました。

 そんなゲーム展開の「変容」を象徴していたのが、前半25分に飛び出したカウンター攻撃からのフェルナンジーニョの左足シュートでした。そのシュートは、それまでヴェルディが作り出したどんなシュートシーンよりも決定的だったのですよ。あのシーンほど、サンガ選手を勇気づけたモノはなかったに違いない。

 「よ〜し! これでいいぞ・・ヴェルディを攻めさせるゾ!!」

 このポイントについては、ヴェルディの柱谷哲二監督も感覚的に分かっていた。「前半のゲームへの入りは良かったけれど、途中から、ボールを持たされているという展開になってしまった・・また後半も、同じような展開になった・・色々と手は尽くしたが、相手の守備ブロックを崩せず、逆に危険なカウンターを喰らってしまった・・」

 そして前半30分、相手コーナーキックを逆手に取ったカウンターから(フェルナンジーニョを経由して)柳沢敦が決勝ゴールを叩き込んだというわけです。その後は、もう完全にサンガペースになりました。後半には、3-4本の絶対的カウンターシュートチャンスを作り出したサンガに対し、ヴェルディが作り出した決定機は、フッキのシュート場面くらいだったですかネ。

 それにしても、ヴェルディのフッキとレアンドロは「やり過ぎ」。完全に狙われていることが分かっているのに、ありゃ、ないよ。パスを受けた彼らが「こねくり回す」ことを前提にサンガ守備が網を張っているのに、まさに思うつぼといった自分勝手プレーに固執しちゃうんだからネ。

 まあ、あれほど明確に「ボール奪取ポイント」が絞り込めるのだから(そして、そこから間髪を入れずにロング勝負パスが飛ぶことを確認できるのだから)柳沢敦やフェルナンジーニョが、ボールを奪い返す「直前のタイミング」で、決定的スペースへの飛び出しをイメージしたアクションをスタートさせられるはずだ。

 フッキとレアンドロにしても、ディエゴがいれば「あれほど」自分勝手なプレーはしなかっただろうね。彼がいれば、全体的な運動量が上がるだけではなく、シンプルにパスを出してスペースへ走ったり、守備でも、もう少しエネルギーを傾注したと思うわけです。

 とにかく、これほど戦術イメージが「ツボ」にはまったゲームも珍しいと思っていた筆者でした。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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