湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2008年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第18節(2008年7月20日、日曜日)
- マリノス、木村浩吉監督のチャレンジ・・(マリノス対アントラーズ、0-2)
- レビュー
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- 「後半のようなサッカーを続けられれば、かならず浮上できると思っている」
マリノスの木村浩吉監督が、しっかりと未来を見据えるように語っていました。まさに、その通り。この試合でのマリノスは、後半だけじゃなく、前半11分に、マルキーニョスの事故のような(木村監督)先制ゴールを奪われてからも(前半29分に追加ゴールを奪われてからも)勇気あるチャレンジサッカーを展開したのですよ。
わたしは、マリノスの視点で「こんなふう」にゲーム展開をイメージしていました。
・・しっかりと守備を組織してアントラーズの攻めを受け止めるだけではなく、なるべく高い位置でボールを奪い返して(木村監督は、立ち上がりから積極的に前からプレスを仕掛けていくというイメージだったと言っていた!)素早くアントラーズゴールに迫る・・そんなゲーム戦術イメージのマリノス・・
・・実際に、立ち上がり数分で二回(木村監督に言わせれば素早い攻撃ということになるわけだけれど)危険なカウンター攻撃を繰り出した・・それも、しっかりと人数を掛けた攻めだった・・それこそが、チーム全体として「前から仕掛けていく!」という意識が徹底していたことの証左でもあった・・
・・そんな「素早い仕掛け」のプロセスでは、ロングパスを受けた坂田の(最前線での)身体を張ったボールキープを基盤に、後方からチームメイトが押し上げることで最終勝負を組み立てたり、(山瀬功治の)直線的な超速ドリブルを基盤にしたカウンターも飛び出した・・
・・そのように、ゲームはマリノスにとって良い流れだったけれど、前半11分、マルキーニョスの「事故のようなキャノンシュート」が飛び出して先制されてしまう・・ただそこから、マリノスの前への勢いが本格的にアップしていった・・
・・ただ前半29分、マリノスの「ゲームを通じた進化」をあざ笑うかのように、アントラーズに追加ゴールを叩き込まれてしまう・・それも、木村監督が期待する「若手のホープ」長谷川アーリアジャスールのミスパスから・・そのボールを受けたマルキーニョスが、余裕を持ってゴール前に走り込んだ興梠へのラストパスを通す・・興梠は、そのまま、マークする河合の身体を回り込むようにフリーになり、余裕をもってゴールへのパスを決めた・・あれは完全に河合のマーキングミスだった・・
・・私は、そこから、吹っ切れたマリノスの若いエネルギーが迸(ほとばし)ると期待していた・・そしてまさに期待通りに、マリノスが、サイドを起点に爆発的なエネルギーで攻め上がりはじめた・・もちろん仕掛けの流れをリードするのは山瀬功治・・ボールがないところでの積極フリーランニングを基盤に、ダイナミックに人とボールが動き続ける・・そんな組織プレーばかりではなく、チャンスとなったら、後ろ髪を引かれることなく(ミスを恐れることなく!)一対一のドリブル勝負を仕掛けていく・・
そんなエキサイティングな展開になったわけだけれど、いかんせん、相手はアントラーズ。やはり守備の強さはレベルを超えているのですよ。
とにかく、アントラーズの守備では、マークを受け渡しながらのアプローチ(チェイス&チェック)が忠実この上ないのです。また、相手ボールホルダーと対峙する状況でも、決して安易に「飛び込んだり」せずに、しっかりと守備の起点を演出するなかで、マリノスの仕掛けの流れを「うまく抑制」しながら「次のボール奪取勝負」をイメージしつづけます。
そして「ここぞの勝負所」では、マークする相手に確実に身体を「寄せ」ているのですよ。その「意志の強さ」をベースにした忠実ディフェンスには本当に舌を巻く。オズワルド・オリヴェイラ監督の「ストロング・ハンド」を感じるじゃありませんか。アントラーズの守備は、まさに、ハイレベルな「有機的なプレー連鎖の集合体」です。
ただ、そんな強固なアントラーズ守備に対しても、マリノスの攻撃の勢い(仕掛けに対する意志!)は衰えを知らないのです。本当に脱帽でした。
とはいっても、アントラーズの守備は強固この上ありません。ダイナミックに仕掛けつづけるマリノスだけれど、どうしても決定的なシュートチャンスを作り出すまでには至らないのです。ある程度のチャンス演出レベルまではいくけれど、最後の瞬間には、どうしても潰されてしまうマリノスの攻撃。そう・・ゲーム終了まで残り10分という時間帯までは、そんな展開がつづいていたのです。
そんな歯がゆい展開を観ながら、誰もが、この試合ではベンチスタートということになったマリノスの外国人プレイヤーが気になっていたに違いありません。「ヤツら(ロペスとロニー)だったら、効果的な個人勝負を挑んでいくだろうし、そのことでマリノスの仕掛けに変化をつけられるだろう・・ここは勝負所だから、木村監督も、外国人プレイヤーを投入するタイミングを計っているはずだ・・」ってね。
でも結局は外国人プレイヤーは出ず仕舞いでした。さて・・
それに対して、講談社の矢野透さんが興味深い質問を投げかけてくれました。「外国人プレイヤーを使わなかった背景には、どのような考え方があったのか?」
それに対して木村監督は、明快に答えてくれました。「私が監督に就任して最初のリーグ戦となったヴィッセル神戸とのゲームでは二人とも使いました・・ただ、そのときの彼らの運動量は少なすぎた・・にもかかわらず(十分な)仕掛けの起点にもなれていなかった・・アントラーズに対しては、守備ブロックをかき回せるくらいの運動量が必要だと思った・・モビリティー(動きのダイナミズム)が必要だと思ったのですよ・・まあ、一点差だったら、後半に投入する可能性もあったでしょうが、二点差だったから、とにかく運動量がある選手を投入する方が得策だと判断した・・」
その木村監督の判断は、結果としてポジティブな現象を生み出します。後半の終了間際には、まったくフリーになった山瀬功治がシュートを放つという絶対的チャンスだけではなく、つづけざまに松田が二本の決定的シュートシーンを迎えたりと、何度か、アントラーズ守備を崩し切ったのですよ。だから、木村監督の決断は正しかった!?
最後の時間帯になって、日本人だけで、「あの」強固なアントラーズ守備ブロックを崩して決定的チャンスを作り出したというわけですが、そのことは、マリノスにとって大きな自信になったに違いありません。とはいっても、外国人プレイヤーが、モビリティー・サッカー(木村監督)の流れに乗れるのだったら、もちろん「それ」に越したことはない。そのことについては、木村監督も同じ意見でしょう。でも・・
マリノスの「ロ・ロ・コンビ」ロペスとロニーに、攻守にわたり、ボールのないところでもしっかりと走らせる作業は、そう簡単ではないかもしれない。彼らにも、様々な「こだわり」があるだろうしネ。それは、木村監督にとっての大いなるチャレンジと表現できるコトかもしれません。
また同じことが、アントラーズの新外国人選手(ブラジル人の)マルシーニョにも言えそうだね(まあ、オリヴェイラ監督のことだから問題ないだろうけれど・・)。アントラーズやマリノスが志向する、中盤からの積極プレスを前面に押し出す「スピーディー」な組織サッカーに「実効あるカタチ」で乗るためには、サッカーに対する基本的な考え方を「調整」する必要があるのですよ。
もちろん、実質的な仕事量も大幅に増やさなければなりません。要は、攻守にわたる組織的なハードワーク(豊富な運動量)こそが絶対的な基盤であり、(多くのケースで!)個人勝負プレーは、その大前提を満たした上で、タイミングと状況を見計らって(ただし
ヤルときは思いっきり全力で!)仕掛けていかなければならないという性格のプレーなのですよ。
もちろん、ディエゴ・マラドーナだったら、ハナシはまったく別だけれどネ。
とにかく、マリノスの「ロ・ロ・コンビ」の動向には興味が尽きません。もちろん木村監督の、プロコーチ(心理マネージャー!)としての「ウデ」に対する期待も含めてね。
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ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。
基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。
いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。
蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。
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