湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2008年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第22節(2008年8月23日、土曜日)
- テレビ中継について・・また、ゲームの流れの変容と、コンサドーレが志向すべき徹底サッカーについて・・(マリノスvsコンサドーレ、1-0)
- レビュー
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- フ〜〜、本当にフラストレーションが溜まる・・。それは、テレビ中継の映像の作り方に対してです。とにかく昨日の(レッズ対ジュビロ戦の)テレビ中継とは、映像の作り方があまりにも違いすぎたのですよ。
実は、都合がつかなかったことで、昨日のレッズ対ジュビロ戦「も」テレビ観戦だったのです。そのゲームは「TBS」が映像を作っていたと思うのですが、そこでは、ボールがないところでのドラマもしっかりと認識できるような「俯瞰(ふかん)」の映像作りが主体になっていました。
でもこの試合の中継は、それとは(映像作りの方針が!?)まったく違っていた。カメラが寄り過ぎで、ボールがないところでの「だまし合い」ドラマをうまく観察できないのです。そしてカメラを、ボールの動きに合わせて思い切り「振り回し」つづける。フ〜〜ッ。以前にも書いたけれど、観る方の「楽しみ方の選択肢を奪う」ような映像の作り方には納得できない筆者なのです。
局面での攻守のせめぎ合いを(中心に!?)楽しみたい視聴者にとっても、あんなに中途半端に寄らなくても、美しいボールコントロールなど、個々のプレー内容はしっかりと楽しめるはずですからね。もちろん選手の表情については、あの程度の「寄り」じゃ確認できないのは分かり切っているし・・。
ということで、何故あのような「中途半端な寄り」を映像作りの責任者(!?)がカメラマンに指示する(!?)のか分からない。とはいっても、このところは(同じ会社が提供するテレビ中継でも)フラストレーションが軽減される傾向にあるという印象もあったから、ゲームによって(映像作り責任者の判断によって)違いが出てきているのかもしれないね。まあ、いいや・・。
さて、ホームのマリノスがコンサドーレの三倍ものシュートをブチかましたというゲーム。1-0という結果については、もっと点差が開いてもおかしくなかったという評価が妥当でしょうね。
とはいっても、前半立ち上がりの15分くらいは(まあ、後半の立ち上がり数分についても)どちらに転んでもおかしくないという展開でした。いや、むしろコンサドーレの方に分があるといった印象の方が強かった。それが・・
その、「それが・・」という言葉に込めたゲームの流れの変容が(その背景が)、このコラムの骨子になるわけですが、今回の「仮説」は、あまり面白くないに違いないと思いながらも(ちょっと重い気持ちで)キーを叩きつづける筆者なのです。
ということで、まずコンサドーレの守備について。それは、ポジショニング・バランス・オリエンテッドな発想が基盤になっているんでしょうね。要は、互いのポジショニングバランスをギリギリまで維持しながら、勝負のタイミングで、それまでバランスしていた相互ポジショニングを「ブレイク」して相手へのマン・チェックにいく(ボール奪取勝負へいく)という守備のやり方。
そこでは、前戦からのチェイス&チェックやボールへの鋭い寄せも含め、一人の例外もなく忠実な守備プレーが出来ていることが大前提。それを基盤に、相手の攻撃の「勢いや速さ」を自分たちの前戦からしっかりと抑制することで(≒相手のタテパスの出所を抑えることで)中盤ディフェンスの「網」を上手く機能させるという発想なのです。それが上手く機能すれば、それほど効率的で効果的なディフェンスのやり方はありません。
ただし、ちょっとでも「前戦や高いゾーンでの抑え」が効かなくなったら、後方の守備ブロックが抱える問題が、すぐにでも極大化してしまうことも事実。前半15分過ぎからマリノスが試合のイニシアチブを握ったゲーム展開のキーポイントは、まさに「そこ」にあったと思っている筆者なのです。
前半15分を過ぎたあたりから、後方からのタテパスの「タイミングとスピード」が大幅にアップしたマリノス。そんなプロセスに呼応するように、後方からのサポートの動きにも勢いが乗っていく。そして、ポンポンポ〜ンといった軽快な人とボールの動きによって(組織プレーベースで!)コンサドーレのスペースを突いていくのです。
「スペースを突いていけている」という表現の意味は、相手のゴール前やサイドのゾーンで、高い頻度で「ある程度フリーでボールを持つ選手」を演出できているということです。もちろんそのプロセスでは、スペースへ入り込んでパスを受けてもいいし、山瀬功治や坂田大輔のように、ドリブルで相手を抜き去っても、スペースを攻略できるというわけです。
そのようにマリノスの仕掛けの勢いが増幅した背景には、たしかに(コンサドーレに押され気味だった)マリノス選手の「意志」が攻撃的なモノへと活性化したこともあるけれど(それによってボールがないところでの動きが倍加した!?)、逆に、コンサドーレの前戦や中盤による「最初の」ディフェンスが、マリノスの「勢いの増幅プロセス」を抑えきれなかったということもあった。
この試合でのコンサドーレは、解説の原博美さんが言っていたように、たしかに、三人の前戦(ダビ、クライトン、そして問題児のアンデルソン)と、三人の守備的ハーフ(西嶋弘之、中山元気、芳賀博信)が二列の(守備)ラインを構成していた。要は、外国人三人による攻撃ラインと、日本人三人による中盤の守備ライン。
だからこそ、特にマリノスの前への勢いが増幅しはじめた前半15分あたりで、前戦の三人が忠実にチェイス&チェックを繰り返すことこそが非常に重要な意味合いを持っていたのです。にもかかわらず、それが上手く機能しなかった。また中盤の日本人トリオによる「次のパスレシーバー」に対する寄せ(マーク)もうまく機能しなかった。まあ、そこでは、アンデルソンの「サボリ」が周りの味方の「意志を殺いでいた」という側面も否めないけれどネ。
そしてゲームの全体的な流れが、一つの方向へと不可逆的に変容していったというわけです(マリノスの攻勢をコンサドーレが抑制し切れなくなった)。
そのゲームの流れについては、コンサドーレが(後方で守備を強化する)深い守備ブロックというイメージに回帰していかざるを得なくなったと表現するのが妥当でしょう。要は、少し下がり気味にブロックを形作り(前戦の三人の外国人による)カウンターのチャンスをねばり強く狙うという本来のイメージに戻っていったということです。
たしかに何本かは危険なカウンターを繰り出せたけれど、全体的な流れとしては、マリノスの人とボールの動きをコントロールし切れず、あまりにも受け身になり過ぎた(受け身サッカーに押し込められてしまった!?)という面は否めない。
そんなコンサドーレを観ながら、あれほど守備ブロックが振り回されていたのだから、もっと人へのマークを厳しくするような「マン・オリエンテッド」なイメージに切り替えることは出来ないものなのだろうか・・なんて思っていた。
あのようなジリ貧のゲーム展開を「逆流」させるためには、何といっても、厳しいマンマーク守備を徹底することで相手に自由にプレーさせないことが肝心なのです。
たしかにマンマークを仕掛けはじめた最初の時間帯は、自分たちも効果的な攻めを繰り出せないだろうけれど、そんな忠実でパワフルな守備を我慢強くつづければ、徐々に(そして最後は劇的に!)ゲームの流れが変わってくるものなのですよ。
そう、相手の足が止まってくる・・。そして相手は・・いまのオレたちは相手の勢いに呑み込まれている・・ここはまずしっかりと戻って守備ブロックを固めなければ・・などと「勘違い」しはじめる。そうなったらシメたもの。後は、全体的な運動量を上げて攻勢を強めることで、相手を「心理的な悪魔のサイクル」にまで落とし込めていしまうだけ・・というわけです。
サッカーで言う「心理・精神的なせめぎ合い」とは、いかに上手く(いまの状況について)相手を勘違いさせるのかという心理的な戦術と同義なのですよ。ホンモノのチームゲームだからこそ、一部の選手が「勘違い」したら、すぐにでも「消極ビールス」がチーム全体に蔓延してしまうものだからね。
まあ、コンサドーレには、そんなネガティブな展開を逆流させられるだけの「グラウンド上のリーダー」がいないということなんだろうね。
でもコンサドーレは、このようなゲーム展開では、いまのジリ貧の流れを効果的に変容させることは難しいように思いますよ。ここは一つ、何らかの「徹底サッカー」の方針を打ち出し(もちろん守備に関するチーム戦術的な方針!)それをチーム全体に「徹底的に浸透させる」ことが必要だと思う筆者なのです。
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ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。
基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。
いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。
蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。
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