湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2008年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第27節(2008年9月27日、土曜日)
- 二試合のポイントをまとめます・・(マリノスvsトリニータ、1-0)(レイソルvsフロンターレ、2-5)
- レビュー
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- 「全体的には、守り合いになったということです・・」
退席になったシャムスカ監督(要は監督へのレッドカード!)の代わりに記者会見に臨んだマルセロ・ヘッドコーチが、ゲーム展開をそう総括していました。まあたしかに、互いに相手の良さを消す(自分たちの良さを積極的に押し出していかない≒前向きにリスクへチャレンジしていかない)という退屈なゲームになったということです。
とはいっても、そのコノテーション(言外に含蓄される意味)を考えたら、それはそれで興味深いコンテンツ(内容)が内包されていたと言えないこともない。私は、両チームが展開する守り合いゲームを観ながら、こんなことを考えていましたよ。
・・両チームとも、ゲーム戦術を明確にイメージしながら(チームの決まり事を忠実に遂行するなかで)ディフェンスを着実に機能させつづけている・・汗かきのチェイス&チェック、様々な意味合いを内包するマーキング、そして狙いを定めた局面でのボール奪取勝負などなど・・
・・とはいっても、いくら安定してディフェンスを機能させているとはいっても、もちろんミスは発生する・・チェイス&チェックでの寄せの甘さ、ポジショニングミス、ポールウォッチャーなどなど・・もちろんそれは、スペースへフリーで走り込む選手が出てきたり、スペースで全くフリーの選手が出てきたりすることを意味する・・
・・ここが大事なところなのだけれど、そこには、攻撃する選手がしっかりと「周りが見えて」いたら、そんな「小さなチャンスの芽」を見のがさないというテーマが潜んでいる・・でも現実は、効果的な(イメージ)トレーニングが十分ではないことで(!?)ボールホルダーが、そのチャンスを上手く使えないケースがほとんど・・
・・その「チャンスの芽」をしっかりとイメージしてボールをコントロールしなかったり、勇気がなく、その「仕掛けパス」へトライすることに逡巡したり、等々・・
・・世界トップネーションとの「最後の僅差」のなかでも、チャンスの芽を、積極的にリスクへチャレンジしていかないことで失ってしまうケースほど、残念で、目立つものはない・・チャンスを、実効あるカタチで活用できることこそが一流の証明・・
・・世界トップサッカーでは、相手の守備のミスを見のがさず、瞬間的に「そこ」へボールを送り込むことでビッグチャンスにつなげてしまったり、組織パスプレーが難しければ、「天賦の才」が個人勝負で詰まった状況を打開してしまったりする・・等々・・
とにかく、彼らが展開する「動きの少ない守り合いサッカー」を観ながら、そんな視点にも思いを巡らせていた次第でした。
そんな守り合いサッカーではあったけれど、ゲーム全体としては、チャンスの量と質という視点でトリニータの全員守備&全員攻撃に一日の長があるとするのがフェアな評価でしょう。彼らは、ゲーム全体を通し、しっかりと安定して、仕掛けの流れにも「人数」を掛けられていたからね。このことについては、前々節のコラムを参照してください。
とはいっても、マリノスも、後半にかけて徐々に盛り返していった。要は、次の仕掛けにどのくらいの人数を掛けられるかなど、前への積極性が「ゲームの流れ」を決めるということです。ボールがないところで動いているプレイヤーの数が多ければ多いほど、次の仕掛けのオプションも広がるわけだからね(逆に相手守備はボール奪取勝負の的を絞りにくくなる)。
ところで、そのマリノスの攻撃だけれど、まだまだ、流れのなかでのチャンスメイクに大きな課題を抱えていると感じた。木村浩吉監督は、「たしかに前半はうまくいかなかったけれど、後半では、2-3本は流れのなかからチャンスを作り出せたと思う・・それを実際のゴールにつなげることが出来なかったのは課題だけれど・・」と言っていた。
たしかに、何度かは「チャンスの流れ」は作り出した。でも、その絶対的な数が不足気味だったことも確かな事実。それは、吹っ切れたサポートの量と質がまだ十分ではないことの証明だったと思うわけです。
まあ、マリノスもまだまだこれからということだけれど、彼らには、前述したフットボールネーションの「ホンモノの仕掛けマインド」を目指して精進して欲しいと思うわけです。言うまでもなく、その大前提は「ホンモノの守備意識」。攻撃へも積極的に出て行くし、その後の守備でも「強烈な自己主張」で存在感を発揮する。そんな究極の「上下動」に対する「強烈な意志」を高揚させることこそが、発展のための唯一のエネルギー源なのです。
あっと、またまた扇動的な言葉遣いになってしまった。まあ、そんな「アジテーション」の背景には、今日の二試合目で展開されたエキサイティングな攻撃サッカーがあったわけなのですよ。そう、国立競技場で行われたナイター、レイソル対フロンターレ戦。それは、ホントにスゴイ仕掛け合いになった。
そんな仕掛け合いのキッカケは、もちろん、開始数十秒でフロンターレがレイソルゴールに叩き込んだ先制ゴール。こうなったら、レイソルも仕掛けていかざるを得ない。対するフロンターレも、レイソルに押し込められることなく、ダイナミックなボール奪取勝負を展開するなかで必殺のカウンターを繰り出していく。とにかく、こんなにエキサイティングなゲームを観るのは久しぶりだった。
やはりゴールに優る刺激はないということです。そういえば、マリノス対トリニータ戦にしても、マリノス狩野の素晴らしいフリーキックゴールが決まってからは、両チームの「動き」が大きく活性化したっけ。前述した木村浩吉監督の「後半には、ウチも、流れのなかからチャンスを作り出した・・」という発言の根拠になったチャンスメイクにしても、ゴールの後の時間帯のことだったと記憶している。フムフム・・
ハナシは戻って、レイソル対フロンターレ。ガンガンと攻め上がるレイソルに対し、強力な外国人カルテット(ヴィトール・ジュニオール、ジュニーニョ、レナチーニョ、そしてスーパーなチョン・テセ!)を擁するフロンターレ攻撃陣のカウンターも鋭く火を噴きつづけます。
そんなフロンターレの危険なカウンターに舌鼓を打ちながら、「そうそう・・カウンターの成否は、基本的には才能レベルに拠るところが大きいからな・・」なんていう戦術的なセオリーを反芻していたっけ。
とにかく、先制ゴールの後のゲーム展開は、目の覚めるようなエキサイティングなモノへと変容していきましたよ。それは、まさに、マリノス対トリニータ戦とは「対極」に位置するような攻撃サッカー。もちろん「あの」先制ゴールがなければ、まったく違ったゲーム展開になっただろうけれどネ。
「前節のアントラーズ戦でのサッカー内容はよかった・・ロスタイムにPKで追い付かれてしまったけれど、我々は、その内容に自信を深めたところだった・・ただこの試合では、あんなカタチで先制ゴールを奪われてしまった・・それが痛かった・・」
レイソル石崎監督が唇を噛みしめていました。そりゃ、そうだろうね。アントラーズ戦では、素晴らしい集中力を維持しつづける「ソリッドなサッカー」で、あとちょっとというところまで勝利をたぐり寄せていたからね。レイソルは、その再現をイメージしていたわけだけれど、その立ち上がりに冷水を浴びせられたというわけです。フ〜〜
ガンガン攻め上がるレイソルの攻撃をしっかりと受け止め、カウンター気味の危険な仕掛けを繰り出していくフロンターレという構図だけれど、そんなフロンターレの「流れのコンダクター」は、言わずと知れた牛若丸(中村憲剛)でした。
「中盤の底」に位置し、守備と攻撃を、素晴らしいインテリジェンスとサッカーセンスでリンク(ゲームメイク)する牛若丸。外国人プレイヤーも、彼を捜し、ボールを預けて前線へ飛び出していくのですよ。彼らの、牛若丸のチャンスメイクセンス(パス出しのタイミングやスペース感覚など)に対する信頼は、まさに確固たるレベルに至っていると感じます。
また牛若丸については、こんなシーンもあった。それは、黒津勝が、レナチーニョと交替してグラウンドに登場してきた次の瞬間のことです。
最終ライン付近でボールを持った牛若丸が、ほとんど「ノールック」で、それも間髪を入れないタイミングで、サイドチェンジ気味の超ロング(浮き球の)スルーパスを、黒津のいる右サイド前方スペースへ送り込んだのですよ。そのボールの軌道からは、「黒津の足の速さならば相手ディフェンダーと競り合っても勝てるに違いない・・」なんていう読みが感じられた。そしてそのパスは、まさにピタリと、黒津のダッシュと結合したのです。ホント、見事なリーダー振りじゃありませんか。
想像を絶するほどの大勝を収めたフロンターレ。たしかに後半の二失点は反省材料ではあるけれど、現在リーグ随一という攻撃力をいかんなく発揮し、後半も、何度も決定的チャンスを作り出しながら観ている我々を魅了してくれた。まさに痛快そのものでした。
ちょっと中途半端だけれど、疲れたから、今日はここまでにします。それにしても「あの」先制ゴールには感謝しきりの筆者でした。
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ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。
基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。
いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。
蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。
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