湯浅健二の「J」ワンポイント


2008年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第28節(2008年10月4日、土曜日)

 

ウェズレイ不在の意味・・リーグ随一のフロンターレ攻撃力のバックボーン・・(フロンターレvsトリニータ、3-0)

 

レビュー
 
 「この試合のキーポイントは、何といっても、トリニータのウェズレイが出場できなかったことだね・・そのことで、前戦でボールをキープしたりタメを演出できないから、まったくといっていいほど攻撃の起点が出来なかったし、確信が持てないから、後方からのサポートも中途半端になっちゃった・・それがフロンターレにとっての大きなアドバンテージになったからね・・」

 試合後の記者会見がはじまるまえ、ジャーナリスト仲間の方とそんなハナシをしていました。そうしたら(シャムスカ監督が出場停止ということで)前節のマリノス戦と同様に会見に臨んだマルセロヘッドコーチが、まさにそのポイントについて言及したのですよ。

 「前節までの二試合(コンサドーレ戦とマリノス戦)では守備はよく機能していた・・しかし、このフロンターレ戦では、守備をうまく組織的に機能させられず、相手の効果的なカウンターを抑えきれなかった・・その原因は、攻撃に移ったときに確実にボールを動かすことがままならなかったからだ・・だからサポートも徐々に薄くなっていったし、次の守備も不安定になった・・まさにそれは悪循環だった・・やはりウェズレイの不在は痛かった・・彼は、本当に大事な選手だ・・」

 その発言で、守備と攻撃の「深〜い関係」に言及したマルセロヘッドコーチは、フロンターレが繰り出したカウンターについて、こんな表現もしていた。

 「このゲームでは、攻守の切り替えは良かったが、次の攻撃に移る段階でミスパスが目立ってしまった・・守備から攻撃への切り替え自体はよかったのだが、そこからの攻撃でミスを連発し、そこをフロンターレにうまく突かれてしまった・・要は、フロンターレが、我々が攻め上がろうとする流れのなかで冒したミスを上手く活用してボールを奪い返し、そこから何度も危険なカウンターを繰り出したということだ・・リーグ随一の攻撃力を誇るフロンターレは、我々のミスをうまく利用し、結果を残した・・(ここでも)やはり、前戦でしっかりとボールをキープしたり、中盤に下がってボールを確実に展開できるウェズレイは重要な選手だ・・」

 まあ、そういうことだね。その発言では、相手からボールを奪い返し、「さあ攻撃だ!」と、チームの重心が前へ傾いていくなかで、再びトリニータがボールを奪い返されてカウンターピンチを迎えたというクダリに重要な意味合いが込められている。相手の「攻め上がりパワー」の逆モーションを突いてしまうようなカウンターほどビッグチャンスにつながる状況はないわけだからね。

 ましてフロンターレは、ジュニーニョ、ヴィトール・ジュニオール、レナチーニョ、そしてチョン・テセという爆発的な(個の才能ベースの!)攻撃力を誇る前戦カルテットを擁しているからね。カウンターがものすごく危険なものになるのも道理です。カウンターの「実効ベース」は、何といっても個の才能だけれど、マルセロヘッドコーチの「フロンターレはリーグ随一の攻撃力を備えている・・」という発言には、そのニュアンスも内包されていたはずです。

 もちろんマルセロヘッドコーチは、そんな天才連中が、守備や、ボールがないところでも忠実に動くなど、しっかりと組織(汗かき)プレーにも精進していることこそが「個の才能を活かす」ための唯一の道であるという、サッカーの歴史が証明している戦術的な事実を十分に理解しているはずです。

 そんな戦術的ニュアンスでも、たしかに今のフロンターレの攻撃力はリーグ随一と言えるだろうね。そのテーマを匂わすように、フロンターレの高畠監督が、レナチーニョについて、こんなことも言っていた。

 「レナチーニョが来日して既に二ヶ月が経ったわけだが、彼のプレーは、時間が経つにつれて良くなってきている・・守備にもしっかりと取り組んでいるしポジショニングも良くなっている・・(そのことが彼のプレーの発展を支えていると思うし!?)ゴールという結果も出している・・彼については、非常に満足している・・」

 2ゴールを奪ってヒーローになったレナチーニョだけれど、そのバックボーンに効果的な守備プレーがあったという高畠監督の発言。

 そうそう、それこそが成功のメカニズムなんだよね。皆さんも観られているとおり、「UCL」では、天才連中が、守備でも(攻撃での)ボールがないところでも、忠実に汗かきプレーを繰り返している。そのことで、彼らの個の才能も素晴らしく効果的に(そして魅惑的に)表現される。フムフム・・

 まあ、フロンターレには、牛若丸(もちろん中村憲剛のことだよ!)という、攻守にわたって「汗かき仕事」にも全力投球する(できる)天才プレイヤー(=チームリーダー)を擁しているというビッグアドバンテージもある。

 牛若丸は、組織プレーと個人勝負プレーの高質なバランスとか、攻撃と守備の(意識的な)バランス感覚とか、互いに使い・使われるメカニズムとか、攻守にわたって常に(汗かきも含む!)全力で仕事を探しつづけるプレー姿勢・・などなどといった様々な「戦術的実効ニュアンス」を深く理解するホンモノのイメージリーダーだからね。

 この試合でも、目立たないところで実効ある汗かきプレーを展開し続けていた牛若丸。前戦カルテットが、彼に対して全幅の信頼を置くわけだ。ジュニーニョにしてもヴィトール・ジュニオールにしても、常にケンゴを探していると感じます。

 ところで牛若丸の「憲剛」という名前はどのように発音するのが正解なのだろうか? 「Kengou(ケンゴウ)」なのか「Kengo(ケンゴorケンゴー!?)」なのか? 多分パスポートには「Kengo」と記されているはずだけれど・・

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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