湯浅健二の「J」ワンポイント


2008年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第28節(2008年10月5日、日曜日)

 

ジェフが魅せつづけたダイナミックな徹底サッカーと、思うように実力を発揮できないレッズ・・(ジェフvsレッズ、3-2)

 

レビュー
 
 「一緒に旅へ出よう・・」

 ジェフの監督に就任した際、アレックス・ミラー監督が、選手に対してそう語りかけたということです。期待感・・

 この試合は、たしかにシュート数ではレッズに分があったけれど、広く深い戦術ニュアンスも含む実質的なゲーム内容という視点では、ジェフの堂々たる勝利というのがフェアな評価だと思います。実質的なチャンスの量と質だけではなく、勝負の流れを掴むという視点でも、ジェフが優るとも劣らないサッカーを展開したわけだからね。

 それにしてもジェフは、最後の最後まで、素晴らしく忠実で「ダイナミック」な守備を魅せつづけた。チェイス&チェック・・ボールがないところでの忠実マーキング・・インターセプト狙い・・そして協力プレス狙い・・などなど。それらの守備プレーが、まさに有機的に連鎖しつづけていたのですよ。

 ここで私が使った「ダイナミズム」の意味。一般的には「活力・迫力・力強さ」と訳されるけれど、ここでは、それをもっと具体的に深めてみようと思ったわけです。

 例えば、チェイス&チェック。ジェフの場合は、チェイス(=寄り)の素早さと忠実さに特長があるけれど、チェック(=敵対動作)でも、決して安易に飛び込むことなく、粘り強く相手ボールホルダーを追い込んだり、味方の協力プレスを待ったりするような実効ある判断もする。またそこでは、相手のパスモーションをしっかりと読み、忠実にパスコースへ足を出しつづける。もちろん切り返されて振り回されても、置き去りされることなく(身体ごと!?)必死に食らいつく。

 またボールがないところでのマーキングも、「忠実&徹底」を絵に描いたようなプレーのオンパレード。ここぞの勝負では、まさに「スッポン」そのものなのですよ。決してフリーで行かせたりはしない(まあ、互いに相手の身体を押さえたり引っ張ったりというプロフェッショナルな競り合いシーンも多いけれどネ・・)。そんな実効あるマーキングが基盤にあるからこそ、次のボール奪取勝負も有利に展開できるし、ボールの動きを抑制することで、効果的な協力プレスも仕掛けられる。

 感覚的なコトだから言葉で表現するのは難しいけれど、ジェフの「忠実ディフェンス」には、強烈な意志という確固たるバックボーンがあると感じている筆者なのです。要は、簡単に諦めたりせず、アタックするところとウェイティング(相手ボールホルダーのプレーを制限してしまうような効果的な正対シーン)を使い分けながら、全力で、冷静に、そして粘り強く「主体」アクションをつづけるのです。

 そのレベルを超えた忠実ディフェンスを見せつけられたから、やはり質問しないわけにはいかなかった。

 「ミラー監督は、前半は、心理的に受け身になったことで下がり過ぎる場面もあったけれど、後半は盛り返し、しっかりと前から(協力プレスなどの)勝負を仕掛けていけるようになったと言われた・・わたしは、そんな積極的に前からプレスを掛けるチャレンジ姿勢こそが、いまのジェフの成功のバックボーンにあると思っているのだが・・」

 もちろん質問には、そこで発生するに違いないリスクをいかにマネージするのか・・というニュアンスも含まれていたわけだけれど、ミラー監督は「行間で」そのニュアンスに対してもヒントをくれた。

 「メンタリティー的に強くなければできないこと・・」と語りながら、「チーム一丸となって機能すれば(相手がレッズであったとしても!?)怖いものはない・・ジェフには良い選手が揃っているのだから・・」といったニュアンスを匂わせていたのですよ。

 要は、選手たちの不安(自信のないネガティブ心理)を一掃し、彼らの確信レベルを格段に引き上げることで、チームが一つのユニットになって(要は、各自のイメージがシンクロするように!)チャレンジし続けられるようになったということです。

 その絶対的な基盤となったのが、責任感と勇気をベースにした優れた守備意識と、それに対する「相互信頼の醸成」ということですかね。そんな相互信頼関係を確立できたからこそ、攻守にわたる「全体ユニットとしてのダイナミズム」が格段に発展したということなんだろうね。

 意志さえあれば、おのずと道は見えてくる・・。どんなやり方でも、全身全霊で(一つのユニットとして!)徹底すれば、確実に、ポジティブなベクトルに乗り、優れたモノへと脱皮し、収斂していくものだ・・。そんな考え方のフレームワークを確立し徹底させた優れた心理マネージャー(アレックス・ミラー監督)に対しては拍手するしかないね。

 とはいっても、まだまだ「降格リーグ」は先が見えないわけだけれど、いまのジェフの「忠実&徹底&後ろ髪を引かれない確信レベル」を見るかぎり、その闘いのプロセスが、チームに、そして選手個々に「有意義な価値をもたらす」に違いないと思いますよ。ホント、アレックス・ミラー監督の仕事ぶりにはシンパシーを感じます。

 ということで次はレッズ。たしかに蓄積された疲労は簡単には回復させられないだろうけれど、彼らの実力はよく理解しているつもりだからこそ、どうも彼らの「プレー姿勢」に納得がいかない。

 皆さんもご存じのように(先日のACLでのゲーム内容のように!)攻守にわたってしっかり動けば(闘う意志を『チーム一丸となって』高揚させられれば!?)レッズの実力は、やはりリーグ随一ですよ。それでも、どうも、その動き(意志)がうまく有機的に連鎖しない・・。

 ボールを奪い返しても、周りの、ボールがないところでの動き(攻撃での汗かき)がタイミングよく「連鎖」しないから、ジェフ守備ブロックを振り回してしまうような効果的な攻撃を展開できないのですよ。

 もちろん、そんなネガティブ現象の背景には、前述した、ジェフの優れた組織ディフェンス「も」あるわけだけれど、それだけではなく、自分たちの「意志」も十分に高揚させられないことで、強力なジェフ守備と相まって、グラウンド上の現象は「ジリ貧の方向へ」と引っ張られてしまうのですよ。

 局面勝負では(要は個人勝負では)良い崩しのシーンもあるし、それをベースに、チャンスにつながるカタチも作り出せるけれど、結局は「それ」を、次の組織的なスペース活用にうまく結びつけることが出来ないのです。回りくどい言い方だけれど、要は、ボールがないところでのサポートの動きがニブ過ぎるということだね。だから、ジェフ守備ブロックの裏スペースを突いていけるような素早く広いコンビネーションが出てこないということです。

 前節のサンガ戦でも、この試合の前半でも、しっかりと動けば、相手との地力の差を明確に表現できるレッズだけれど、それをうまく表現する前の段階で、ジェフの「ダイナミックな守備」にエネルギーが抑制されてしまう・・といった具合。

 「レッズは、もっともっと良いサッカーができる・・」

 ゲルト・エンゲルス監督がそう言っていた。人とボールが動きつづける組織的なパスサッカーを標榜する彼もまた、「ある境界線」を境に、二つの「状況的なゾーン」を不安定に行ったり来たりするチームの状態にフラストレーションを溜めているんだろうね。

 この「境界線」だけれど、チーム全体として「動きやイメージ」が有機的に連鎖しているのかどうかということです。要は、チーム全体として、選手の動きやイメージが連動しているときと、そうでないときがあるということです。

 連動していれば、ジェフのように、リスキーなチャレンジでも、まったくリスクにはならないことの方が多い。チームが一丸となって(積極的に)攻守にわたってリスクチャレンジを繰り返していれば、相手を心理的に押し込んで「悪魔のサイクル」に陥れてしまえるだろうからね。だからこそ、攻守にわたって、うまくいっているチームの人数が多く感じられるわけです。

 逆に、連動レベルが減退したら、そりゃもう大変。部分的に人やボールが動いても、単なる「局面的な現象」に過ぎず、まったくスペースを攻略できないばかりか、簡単に「次のパスレシーバー」のところで協力プレスを掛けられてしまうなど、簡単にボールを失ってしまうでしょう。そして、相手の「善循環サイクル」に呑み込まれていく・・。この試合のレッズは、そこまでヒドくはなかったけれどネ。フムフム・・

 最後になったけれど、レッズが投入したフレッシュな交替選手(永井雄一郎と梅崎司)のプレーダイナミズムが、まったくといっていいほど高揚していかなかったこと(周りのとまったく同じリズムで怠惰にプレーしていたこと)は残念至極でした。

 とにかく彼らは、まずディフェンスからゲームに入っていくべきだった。最前線から、全力でのチェイス&チェックを仕掛けまくる・・そして、もし味方が、次のボール奪取ポイントでサボっていたら大声で檄を飛ばす・・最前線からスライディングを掛けまくって味方を鼓舞する・・そして攻撃となったら、爆発フリーランニングで目立ちまくる(まあ梅崎司は、何度かは長い距離を走ってパスレシーバーになろうとはしていたけれど・・)などなど。

 あんな「沈滞した状況」でグラウンドへ送り出されたんだからネ、彼らに与えられたミッションは「強烈な刺激になる」ことしかないじゃないか!!

 この試合のレッズについては、「疲れ」という発想「も」評価ベースにあったことで、攻守にわたる組織プレーがうまく機能しないという不満もちょっと中途半端に抑え気味だったわけだけれど(そんな不満が溜まっていたこともあって!?)フレッシュであるべき二人の「カッタるいプレー姿勢」に対してだけは怒り心頭の筆者だったのです。

 最後に、「ACL」に臨むレッズに対しても一言。

 ゲルト・エンゲルス監督も言っていたように、とにかく今は「気持ちの切り替え」が最重要課題です。優れた心理マネージャーのゲルト・エンゲルス監督のこと、たぶん3日後の(ガンバとの)ACL準決勝での、まったく違ったチームに仕上げてくることでしょう。要は「意志」の問題ということだけれど、その意味でも、レッズ選手の「セルフモティベーション能力」にも期待しましょう。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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