湯浅健二の「J」ワンポイント


2008年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第29節(2008年10月18日、土曜日)

 

ショッキングな完敗を喫したレッズ・・これはもうヴィッセルを賞賛するしかない・・(レッズvsヴィッセル、0-1)

 

レビュー
 
 「まあ一言でいったら、全員守備、全員攻撃っていうことになりますかネ・・要は、攻守にわたる11人のハードワークが基本ということです・・日頃のトレーニングでは、よくこんな表現も使うんですよ・・寄ってたかってボールを奪い、寄ってたかって攻め込む・・まあ、とにかく出来るかぎり多くの場面で相手よりも数的に優位なカタチを作りつづけるということですかネ・・」

 ヴィッセルの松田浩監督が、「冒頭で監督は、90分を通してヴィッセルらしいサッカーが出来ていたとおっしゃったが、そのヴィッセルらしさというモノを、いくつかのキーワードで簡単に表現していただけないだろうか?」という私の質問に対して、冒頭のように真摯に答えてくれました。ナルホド、今日のヴィッセルは、まさにそのコンセプト通りに、素晴らしくダイナミックなサッカーを展開した。

 試合後、例によって所用が重なったことで、コラムを書きはじめたのは深夜ということになってしまいました。とにかく簡潔にまとめようと、重く沈んだ「気」にスピリチュアルエネルギーを「エイヤッ!」と注入しながらキーボードに向かった次第。

 このゲームは、皆さんも観られたとおり、ヴィッセルの完勝という結果に終わりました。それは、彼らが展開した(冒頭の松田監督の表現そのままの)攻守にわたるダイナミックなサッカーが、レッズを完全に凌駕しただけではなく、彼らを心理的な悪魔のサイクルにまで陥れてしまったからに他なりません。

 その絶対的なベースは、何といっても「寄ってたかって相手からボールを奪い返してしまう」ディフェンスにありました。一度パスでハズされても、次、その次と、どんどんプレッシャーの輪を展開しちゃうんだからネ。本当に素晴らしいかったですよ、

 とはいっても、前半は、かろうじてレッズがペースを握っていたし、決定的チャンスも作り出した。ただし、そのペースは、あくまでも「かろうじて・・」といったニュアンスにしか過ぎませんでした。決してそのペースは、運動量豊富な(もちろん守備での)ダイナミズムを前面に押し出して相手を押し込みながら「個」の能力の差をグラウンド上に表現するといったハイレベルなモノじゃなかった。

 やはり、しっかりと走らなければ、本来の実力の差を、相当にグラウンド上で表現できるわけがないということです。要は、実力の差は、それほど僅かだということです。

 「かろうじてレッズがペースを握った前半」にしても、カウンターから、何度もヴィッセルにチャンスを作り出されたしネ。グラウンダーのクロスから、レアンドロに決定的なダイレクトシュートを打たれただけじゃなく(レッズGK山岸の鬼神のセービングによって一命を取り留めたレッズ!)スッと「消えた」大久保嘉人へのクロスをピタリと合わされた絶対的ピンチの場面もあった。

 その大久保のフリーヘディングシーンだけれど、そのとき誰もがヴィッセルの先制ゴールを確信したことでしょう。でも、大久保のヘディングシュートは僅かに右に逸れた。ホント、決まらなかったのが不思議なくらいに絶対的シュートチャンスだったのに・・。

 大久保嘉人だけれど、たしかにシュートへ「入る」感覚的な能力には非凡なモノがあると思いますよ。そのヘディングシュート場面だけじゃなく、後半でも、何度も絶対的なシュートアクションに入れていたし(一度など振り向きざまにバー直撃シュートを放った!)、タテパスを受けて抜け出したシーンでは、「あの」トゥーリオもファールで止めざるを得ないほどの巧みな競り合いプレーを魅せた(レフェリーはノーファールという判断で流したけれど・・)。

 先週の日本代表コラムで書いたように、大久保嘉人は(攻守にわたるボールがないところでの動きの量と質など)全体的な運動量が少な過ぎることで、組み立ての流れやディフェンスでの「汗かき貢献度」は低い。それでも、最終勝負シーンでの爆発的な(パスレシーブの)動きも含めた「シュート感覚」だけは本当に秀でている。

 難しいね・・大久保嘉人が秘める才能をうまく活かすようなチーム戦術を効果的に機能させるのは・・。またまたここでも、天賦の才に恵まれた選手の出来ることと『やらない』ことを天秤に掛けて判断するというテーマが出てくるということか。

 もちろんイチバン良いのは、大久保嘉人のプレーイメージと実行力を正しい方向へリードすることですよ。そのためにも、世界一流(才能)プレイヤーたちの「汗かき総集ビデオ」を編集し、彼にしつこく見せつづけることでイメージトレーニングを積むのが最善の策ということですかネ・・。

 あっと・・試合。そんな前半の互角の流れが、後半になって、どんどんとヴィッセルへと傾いていきました。ちょっとショッキングな「レッズのエネルギー減退現象」だったわけですが、そんなゲームの流れは、レッズの調子が悪かったというよりも、ヴィッセルのサッカーが秀でていたからと評価する方がフェアでしょうね。

 その中心は、やはり金南一。素晴らしいボランチです。彼のパフォーマンスに対しては「本物のボランチ」という表現を当てはめることに躊躇しません(この日のポンテは、彼によってコントロールされていたと言っても過言じゃない!?)。また彼のパートナーである田中英雄の汗かきパフォーマンスも光り輝いていたし、外国人コンビのボッティとレアンドロも、攻守にわたって労を惜しまないハードワークで魅せつづけていた。

 「やっとメンバーが揃ってきたことで、サッカー内容が良くなっている・・要は、良いプレーイメージが連動しているということだが、昨年からやっていることが、うまく回りはじめているということだと思う・・」と、ヴィッセルのサッカー内容に手応え十分の松田浩監督だけれど、本当に良い仕事をしていると思いますよ。拍手です。

 最後に、今日のレッズのサッカー内容についてもう少し。

 ゲルト・エンゲルス監督も言っていたように、闘う意志を高揚させられなかったというのは厳然たる事実でした。ヴィッセルにペースを握られている状態を逆流させるためには、もう何といっても、ヴィッセルの誰ひとりとしてフリーでボールをコントロールできないくらい厳しくプレッシャーを掛けつづける(厳しく忠実なマンマークを仕掛けつづける)しかないのですよ。そう、この試合でヴィッセルがやっていたようにね。

 でもレッズは、それに対する意志を高揚させられなかった。だから、プレッシングを連動させられず、逆に不用意なカタチでボールを奪い返されて危険なカウンターを仕掛けられるというジリ貧の展開を逆流させられなかった。まあ、いつも書いているように、中盤のリーダーシップに大きな課題を抱えているということもあるわけだけれどね。

 とはいっても、皆さんもご存じのように、極限の緊張感が支配するACLの「一発勝負」では、サッカー内容が大きく高揚する(本来のレッズのサッカーに戻る!?)という期待は持てます。一発勝負であるが故の高い緊張感と集中力・・。

 とにかく、水曜日のガンバ戦に期待しましょう。そこで良いゲームが出来れば、「J」での自信レベルも向上するに違いありませんからね。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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