湯浅健二の「J」ワンポイント


2008年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第2節(2008年3月16日、日曜日)

 

さてアントラーズが、リーグの(オンリーワン的)主役に躍り出てきた・・(ヴェルディ対アントラーズ、0-2)

 

レビュー
 
 「立ち上がりから積極的にいくという意志をもってゲームに臨んだ・・それは、自分たちが主体になってヴェルディが得意のリズムを作るため・・ゲームがはじまる前から、残り30分が勝負所になると言っていた・・そして実際に、残り30分で勝負が決着した・・残念ながら、勝負の女神はアントラーズに微笑んだけれど・・」

 ヴェルディの柱谷監督が、毅然とした態度で(それでも悔しそうに)話していました。たしかに悔しいだろうね。あんな立派なサッカーをしたのに、終わってみたら「0-2」なんだからね。それにしてもアントラーズの勝負強さは正にホンモノだ。

 ゲームは、ヴェルディのパフォーマンスが思った以上に良く(失礼!?)、その積極的な仕掛けプレーによって白熱した内容へと膨れ上がっていきました。いや、ホントに面白かった。

 試合の趨勢に大きな影響を及ぼしたのは、両サイドでのせめぎ合い。ヴェルディのサイドハーフ、飯尾一慶と廣山望と、アントラーズのサイドバック、新井場徹と内田篤人が対峙する。その対決は、ガップリ四つといった感じだった。一方が攻め上がったら、もちろん他方はディフェンスに入るわけだけれど、そこで起点をつくりつづけられたら、他方は完全に「守備の人」に押し込められてしまう。だから、他方「も」勇気をもって押し返していく。そんな、積極プレー姿勢のぶつかり合い。わたしは、そんなせめぎ合いに舌鼓を打っていましたよ。

 もちろん実際には、両チームのサイドハーフ、ボランチやサイドバック「も」臨機応変に参加してくる構図になるから、そのせめぎ合いも様々に変容しつづけていた。まあここでは、それらを(五秒間のドラマ風に)描写するのは勘弁願うしかないけれど、そこで展開されたコンビネーションとタテのポジションチェンジ、また互いのカバーリングなど、とにかく興味深いプレーが目白押しでした。

 全体的なゲームの流れは、まあ互角と言えるモノでした。それでも、勝負を決定づけるゴールが決まるまでは、前半と後半に一本ずつ、アントラーズが決定的スペースを突いてシュートチャンスを作り出すなど(決定機の量と質では)確かにアントラーズに軍配が上がっていたと言っていいだろうね。

 とはいっても、そんなピンチがあったにもかかわらず、ヴェルディの積極的な押し上げ姿勢が衰えることはなかった。ホントに立派でしたよ。そんな積極的プレー姿勢が、ディエゴが放った左ポスト直撃シュートというビッグチャンスとなって結実するのですよ。タラレバだけれど、本当に素晴らしいカウンターだったし(うまくサイドゾーンを活用し、人とボールが素早く広く動きつづけるカウンター!)、完全にツボにはまっていたから、ヴェルディが先制ゴールを奪ってもおかしくない展開ではありました。でも・・

 「本当にアントラーズは試合巧者だと感じた・・」

 「いま、勝負所の残り30分あたりでアントラーズがみせた試合運びは本当に上手いとおっしゃいましたが、それを具体的に言うと・・?」

 「アントラーズは、自分たちの仕掛けがうまく機能していないということもあったんでしょうが、少し守備ブロックを固めはじめた・・要は、我々が攻め上がってくることをイメージしていたということだろう(ヴェルディは狡猾なワナにはまった!?)・・もちろん逆に、アントラーズのトップ選手たちはカウンターを狙っていた・・そこらへんに彼らの試合運びの上手さを感じた・・」

 記者会見では、柱谷監督と、そんな会話もありました。フムフム。要は、あのようなゲーム展開になったとき、アントラーズの攻撃陣は、まさに明確に、カウンター攻撃をイメージするということです。共通のカウンターイメージの共有。それがあるからこそ、゛うぇるディからボールを奪い返した次の瞬間には、ボールがないところでの動き(フリーランニング)がスタートしているし、シンプルなタイミングで「タテパス」も飛ぶということです。

 先制ゴールのシーンでは、本当に素晴らしいスルーパスが決まった。ドリブルするダニーロからのスルーパス。もちろん、受ける側のマルキーニョスが「パスを呼び込む爆発フリーランニング」をスタートしたから成功したスルーパスコンビネーション。パスを出す側のダニーロは、マルキーニョスのスタートが(事前に)明確に見えていた。またマルキーニョスも、ダニーロからのスルーパスが(事前に)見えていた。まあ、ブラジルのあうんの呼吸。素晴らしい。

 その後はアントラーズの独壇場ということになりました。先制ゴールをポジティブな刺激にしたアントラーズが、完全に(心理的に)解放されたのです。サッカーはホンモノの心理ゲーム・・。

 そのことは、彼らのボール絡みプレーでの「リスクチャレンジ姿勢」からも見えてきたし、決定的スペースへ向けて全力で「走り抜ける」ようなボールがないところでのフリーランニングからも見えてきた。そこでは、余裕が出てきたからこそのリスクチャレンジプレーが活発になっていったのですよ。そしてそれが、攻め上がるヴェルディの「逆モーション」を見事に突いたスーパーカウンター(追加ゴール)として結実したというわけでした。

 「まあ、あの二点目は(ゲーム内容が変容していった展開からすれば)まさに当然の帰結だったね」と、オリヴェイラ監督。

 ということで、このコラムのテーマは、またまた「アントラーズの勝負強さ」ということになる!? いやいや、それでは面白くないから、今回はちょっと趣向を変えた視点でハナシを進めましょう。それは「我慢」というキーワード。

 要は、リーグ展開で「オンリーワン的な存在」になりかけているアントラーズが、他のチームにとって、より具体的な(叩く)チャレンジターゲットになるということです。

 次の対戦相手は、より深く広範なスカウティングを実施するだろうし、それを基盤に、より徹底したゲーム戦術を練り上げてくるでしょう。それは、まさに全力を傾注する徹底的な準備。また選手も、これ以上ないほどモティベートされる(やる気のスピリチュアルエネルギーが充満する)でしょう。だからアントラーズも、そう簡単には持てるチカラを100%発揮できなくなるに違いない。そう・・このヴェルディ戦のようにネ。

 だからこそ「我慢」。

 でも、既にアントラーズは、そんなキーワードをチームに浸透させる必要がないレベルに到達しているのかもしれないね。何せ、厳しい状況を(受け身ではなく積極的プレーをつづけることで)耐えていれば必ず(勝負強い)決勝ゴールを挙げられる・・ということに対する確信を十分に醸成できるだけの体感を積み重ねてきているからね。ということは、このままアントラーズが突っ走っちゃう!? そりゃ、ノーサンキューだよね。まあ、このことについては、先日の「Jリーグコラム」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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