湯浅健二の「J」ワンポイント


2008年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第32節(2008年11月23日、日曜日)

 

残り2試合・・ここからは、自分なりのストーリーを練ることで、とことんリーグを楽しみましょう・・(レッズvsエスパルス, 1-2)

 

レビュー
 
 さて、どのように書きはじめようか。今夜はレッズナビに出演するから、そのままスタジアムのプレスルーム(インタビューホール)でコラムを書きはじめたのだけれど、どうもイマイチ、イマジネーションが膨らんでいかない。

 ・・たぶん、不健康なポリティックス(政治的な動き)が見え隠れすることで、自由な発想が阻害されているんだろうな・・でも、そんなスティンキーな(悪臭がただよう)「うごめき」にも関わらず、ゲルト・エンゲルス監督と選手は、健康的なマインドで全力を尽くしていたと思う・・それは確かなことだよな・・まあ、攻守にわたる「目立たないところ」でのアクション内容については、まだまだ不満タラタラだけれど(後述)「闘う意志」だけは明確に前面に押し出せていたと思うのですよ・・

 ・・それにしてもグランパスはよく勝った・・結果をインターネットで拾っただけだけれど、今シーズン限りでの退団が決まったと報道されているヨンセンが決めたということも含めて、そこには、強者たちのギリギリの執念を感じた・・またアントラーズも、トリニータの反攻パワーに対して、最後までよく闘い抜いた(最後の数分間だけ、スタジアムでテレビ観戦できた!)・・この二チームにつづくフロンターレも、ガンバを相手に、持ち前の攻撃力を爆発させた・・これでフロンターレが三位・・勝ち点では、首位のアントラーズが「57」、グランパスが「55」、フロンターレが「54」・・それに、レッズ(53)、大分(52)、FC東京(52)とつづく・・リーグは、あと二試合・・何が起きるかは神のみぞ知る・・フムフム・・

 さて、この試合のポイント。やはり、エスパルスが素晴らしいサッカーを展開したという事実は外せない。それと、レッズでは、トゥーリオ、そしてセルヒオ・エスクデロから見えてくる「光と影」・・ってなところかな。

 エスパルスだけれど、とにかく、チーム戦術がより深く浸透し、そのことが実際のグラウンド上の現象にしっかりと反映されていると感じます。要は、攻守にわたる組織プレーが、シーズンを通して順調に「発展をつづけている」ということだけれど、長谷川健太監督も、プロコーチとしてチームとともに発展しているということなんだろうね。

 優れたインテリジェンスとパーソナリティー・・。長谷川監督は、その両方を兼ね備えていると思います。これからの日本サッカーを支えるべきネクスト・ジェネレーション(次世代の期待の星!?)の一人ということだね。天皇杯も含め、来シーズンのACL参戦権もまだまだ視野に捉えている(観ていて楽しい!)伸び盛りのエスパルス。期待しましょう。

 さてレッズ。ゲルト・エンゲルス監督が言うように、田中達也のフリーシュートなど、何度かチャンスは作り出したものの、前半の出来は納得できるものではなかった。それに対して後半は、意志の高揚に伴い、守備もふくめ、ボールがないところでの目立たないアクションの量と質も格段にアップした。だからこそ、しっかりとスペースを使えるようにもなった。だからこそ、組織プレーの流れのなかに、うまく個人の勝負ドリブルをミックスさせることが出来るようになった。

 要は、前から積極的にボール奪取勝負を仕掛けていくことで、次の攻撃でも、人数をかけた組織的な仕掛けを展開できるようになった(うまくスペースを活用できるようなった)ということです。そして、2度、3度と、決定的チャンスも作り出した。でも逆に、エスパルスが展開する、強固な意志をバックボーンにしたダイナミックサッカーに(粘り強い汗かきディフェンスという絶対的な基盤!)効果的なカウンターを浴びて決定的な二点目を奪われてしまうのですよ。

 そこでレッズのピックアップテーマだけれど、まずトゥーリオから入りましょう。全体的には良かったと思いますよ。効果的なゲームメイカー&リンクマン機能だけじゃなく、ストライカーとしても抜群の存在感を発揮したと思うのです。また守備でも、「そこにいれば」、やはり素晴らしく効果的なボール奪取勝負を魅せてくれる。もちろん「そこにいれば」のハナシだけれど・・

 要は、守備的ハーフの場合は、激しい上下動をベースに、守備となったら、とにかくしっかりと「戻る」ことが大前提になるということです。まあこの試合でのトゥーリオのプレーイメージは、守備的ハーフというよりも、攻撃をサポートする「ゲームメイカー&リンクマン」ということだったんだろうけれど、それでも、やはり戻らなければならないところは、しっかりと戻らなければならないのですよ。

 例えば、前半のエスパルスの先制ゴールシーン。そこでは、兵藤が送り込んだ素晴らしい「ラスト・タテパス」に、後方から「飛び出した」枝村が合わせたわけだけれど、ゴールを決めた枝村をマークしなければならなかった(最後の瞬間にプレッシャーを掛けなければならなかった)のは鈴木啓太とトゥーリオだった。でも、どちらもマークのタイミングを失ってしまったことで(最終ラインが対応できると判断したことで!?)結局は枝村をフリーで「行かせて」しまった。もちろん彼らは(エスパルスの)他の可能性もイメージして守備に入っていたわけだから、それは「結果としての偶発的なマークのズレ現象」だったとも言えるでしょう。でもネ・・

 守備でも攻撃でも、ボールに絡んだときのトゥーリオは無類の強さと「実効レベル」を魅せる。それは疑いのない事実。だからこそ、攻守にわたって、なるべく多く『良いカタチ』でボールに絡むべきなのです。そのためには(もちろんミッドフィールダーとして機能する場合だけれど)運動量をアップさせなければならない。

 要は、中盤での激しい「上下動」の繰り返し。でも、彼にとっては難しいことだろうから、わたしは常に、トゥーリオが、フォーバックの前にポジションする「前気味リベロ」として機能すべきだと言いつづけているわけです。まあこの試合では、鈴木啓太に守備的タスクを任せていたというイメージなんだろうけれどネ。フムフム・・

 もう一人、セルヒオ・エスクデロ。守備での「汗かきプレー」など、目立たないところでのプレーに対する「意志」が高揚する傾向にあるとは思うけれど、それでも実効レベルという視点では、まだまだフラストレーションが溜まりつづける。

 後方からタテパスを受けてしっかりとボールをキープする「ポストプレー」や、ある程度フリーでボールを持ったときの爆発的な仕掛けドリブルなど、期待がふくらむ見せ場もあったけれど、全体的には、まだまだ落胆プレーの方が多いのですよ。

 守備では、行かなければならないところでサボッてしまったり(要は、気が向いたときにしか汗かきをやらないアリバイ守備!?)、攻撃では、三人目としてスペースへ抜け出していなければならない肝心なところで足を止めてしまったり(トゥーリオへのクロスが流れたシーンでは、その後方の決定的スペースへセルヒオが走り込んでいなかったことで、トゥーリオが強烈に怒っていた!?)、パス&ムーブで抜け出して行かなければならないシーンで、ワンのパスを出した後に、間抜けにも「足許パス」を待ったり、彼の持ち味であるドリブル勝負を(勇気をもって)仕掛けていかなければならないシーンで、急に意志と勇気が萎えて逃げの横パスを出して足を止めてしまったり・・

 どうも、そんな落胆プレーの方がまだまだ多いと感じるのですよ。だから、彼のプレーを観ていて(その高いポテンシャルを分かっているからこその)大いなるフラストレーションが溜まりつづけるというわけです。期待と怒りは表裏一体ということです。ということで『甘えるな〜、自分に厳しくなれ〜、ガンバレ〜、セルヒオ〜ッ!!!』。

 さて、最後に、残された二試合について(レッズについて)もう一言。

 このゲームについてだけれど、全体的な内容からすれば引き分けが妥当な線だったとは思うけれど、まあ、それもサッカーだから仕方ない。ここからは、現実を受け止め、「次」に対する期待を自分自身で膨らませることで、とことん、ドラマを楽しむことにしましょうヨ。何せ、レッズのチームモラルは、まだまだ高みで安定している「はず」だからね。

 とにかくプロサッカーを楽しむ極意は、究極のオプティミズム(楽観主義)にあり・・なのですよ。もちろん、結果が出たあとの「奈落の落胆」もあるわけだけれど、捉え方によっては、それもまた深い哲学を体感できる学習機会だとすることもできますからね。

 私も含め、ドイツの友人たちは、例外なく、サッカーでの「めくるめく歓喜」と「奈落の落胆」の両方を、うまくマネージできているのですよ。それもまた、歴史とかサッカー文化と呼ばれているモノのうち!? フムフム・・

 とはいってもネ、この状況で、具体的にリーグ優勝をイメージしてドラマのスクリプト(脚本)を練るのでは、心理・精神的に、ちょっと荷が重すぎるかもしれない。だから、ここは次年度のACL狙い(三位以内)をイメージしてストーリーを練ることにしましょう。

 繰り返しになるけれど、ファンの皆さんが、そんな「自分なりの楽しみ」を満喫できる絶対的な条件は、チームが全身全霊で闘いつづけることです。それが出来ないならば、プロの資格なしということだね。

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 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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