湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2008年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第33節(2008年11月29日、土曜日)
- アントラーズは、リーグ優勝に相応しいサッカー(意志の闘い)を魅せつづけている・・(アントラーズvsジュビロ, 1-0)
- レビュー
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- スゲ〜な〜・・ホントにオリヴェイラ監督の意識付け(心理マネージメント)のウデは大したモンだ。そのシーンを観ながら、思わず感嘆の声を上げていた。
そのシーン。最前線でボールを奪われた興梠慎三が、味方の最終ディフェンスブロックを追い越すくらいの勢いで相手ボールホルダーを追い詰めたのです。全力ダッシュのチェイス&チェック。もちろん「そんな迫力の汗かきプレー」が効果的な守備の起点にならないはずがない。次の瞬間、ジュビロ選手が苦し紛れに出した「逃げパス」を、別のアントラーズ選手が簡単にカットしたことは言うまでもありません。
アントラーズが魅せつづけた「優れた守備意識」は、まさに天文学的なレベルにまで到達していた!? すごいネ、ホントに。高い守備意識をイメージ基盤にした汗かきプレーは、大変な労力を要することは言うまでもないからね。だからこそ、「それ」を全力でつづけ「させる」ことは、すべてのコーチにとって難しい作業なのですよ。
そしてサッカーでは、まさに「そこ」に、コーチの「良い仕事」の本質が隠されているというわけです。
古くは、故ヘネス・ヴァイスヴァイラーや故リヌス・ミケルス、また現代では、モウリーニョやアレックス・ファーガソン、アルセーヌ・ベンゲルなどなど。彼らは、「才能たち」にも、攻守にわたる「組織的な汗かき」を続けさせることで「継続的」な成功を成し遂げた。もちろん「アリバイ」じゃなく全力の汗かきプレーをネ。
スター選手であっても、アリバイ的な「ぬるま湯」プレーをしようものなら、すぐにお払い箱。そのために彼らは、常に、同格のライバルや、「振幅の大きな」心理環境の整備など、十分な刺激(武器!?)を準備しているのですよ。フムフム・・
もちろん、アントラーズのオズワルド・オリヴェイラ監督の場合は、そんな世界トップクラブとは、様々な意味を内包する「仕事環境」が大きく異なるだろうけれど、それでも、全力でチームコンセプトを体現しようとする選手の意志を高揚させ高みで安定させる(心理)マネージメントの原則的なメカニズムに変わりはないでしょう。とにかく、オリヴェイラ監督は良い仕事をしている。
彼の仕事の底流にあるフィロソフィーは、多分「継続こそチカラなり」ということなんだろうね。前述した世界トップクラブのように、一つのポジションに少なくとも二人の同格スターを揃えるというわけにはいかないだろうからね。だから、とにかく我慢強く、ことあるごとに(しつこいまでに繰り返しながら)同じことを言いつづける(意識させる)というわけです。それもまた監督のウデ・・。
この日の記者会見でも、こんなニュアンスのことを言っていた。
・・意図したことが上手くいかないときにアタマを垂れてしまっては状況はより悪くなるだけ・・そのことを、しつこく繰り返し指摘しつづけている・・とにかく最後まで諦めないという姿勢が大事であり、それに対する意志を高めるのが監督の仕事・・
・・この試合では、何度もチャンスを作り出したが、それを決めることができなかった・・たしかにベンチにとっては心臓に悪いシーンが多かったわけだが、それでも、チャンスを作れていることはポジティブだと「前向き」に考えることが大事なのだ・・選手は、自らの内にある心理的なバトルを制さなければならない・・要は、失敗したときに、どうやって、意志のダウンの程度を低く抑えるのかということ・・選手にも、ミスしたあとが大事だと『常に』意識させている・・そこでは、アタマを垂れるのではなく、すぐに気持ちを切り替えて次のプレーに入っていくことが大事だと『常々』言い聞かせている・・などなど・・
要は、意志のレベルを高みで安定させる心理マネージメントを忍耐強く繰り返すことで、選手が自分自身で闘う意志を高揚させられるようになることが大事だという指摘です。セルフ・モティベーション能力の高揚・・。グラウンド上で闘うのは選手だからね。監督の仕事は、選手が、自らの意志で、最後の一滴の汗まで絞り出せるようになることなのですよ。
ここでオリヴェイラ監督は、「小さな心のなかのバトルを制するのが大事・・」なんていう素敵な表現をしてくれた。まさにその通り。監督の本質的な仕事は、「人間の弱さとの対峙」だからね。選手が、主体的に、自らの内に潜む「弱さ・甘え」を制することが出来れば、かならずチームは一皮も二皮も剥けるよネ。
試合のポイントだけれど、こんな風にまとめてみました。
全体的な流れでは(結果では!?)たしかにジュビロが、マルキーニョスにまったくプレーをさせないなど、ガチガチのゲーム戦術でゲームをコントロールしていたという捉え方も出来そうだけれど、それでも私はこう考える。あの(ハンス・オフト監督の)やり方だったら、アントラーズに一度でも「惜しいチャンス」を作らせてしまったら、まさに「ゲーム戦術の破綻」なんだよ・・。
前半からアントラーズは、クロスからのマルキーニョスのシュートチャンス、つづけざまに二度もあった野沢拓也の絶対的フリーシュートチャンス(ゴールに入らなかったこと自体が不思議)、後半にも、野沢拓也からのクロスにマルキーニョスが合わせたシーンや(最後の瞬間にボールがイレギュラーした!?)勝負を懸けたアーリークロスを放り込みはじめてからの田代有三や岩政大樹の惜しいヘディングシュートなど、数々の決定的チャンスを作り出しました。
だから、ハンス・オフト監督が記者会見で言っていた、「戦術的には、うまく機能していた・・」というコメントには、まったく納得できませんでしたネ。本山雅志の素晴らしいドリブル突破からのスルーパスや、クロスボールを興梠慎三がヘッドで流したボールをフリーで受けた野沢拓也のフリーシュートなど、何度も守備ブロックが崩され、ウラの決定的スペースが攻略されてしまったわけだからね。決勝ゴールまで失点しなかったのは、単にツキに恵まれていただけではありませんか!?
だから、ハンス・オフト監督が言う、「引き分けでもおかしくないゲームだった」という意見にも、まったくアグリー出来なかった。
まあ、たしかに、経験則的な「ゲームの流れ」からすれば、引き分けても仕方ない雰囲気ではあったけれど、それでも、キッカーと受け手のイメージが明確にシンクロした素早いタイミングで送り込まれた(!?)フリーキックからの岩政大樹のスーパーヘディング決勝ゴールは、まさに「必然」と呼ぶに相応しいモノだったとも思うのです。
いや、ハイボールの処理に不安定なジュビロGK川口能活だけではなく(クロスボールに対応してゴールから飛び出したのにボールに触れないシーンが続出!)、田代有三を入れ、シンプルに放り込んで勝負を仕掛けていくという「仕掛けイメージ」でチーム全体が一体となって仕掛けつづけたことを考えれば、そのロスタイムの決勝ゴールは、まさに「必然」だったと言えるよね。
とにかくアントラーズは、リーグ優勝を勝ち取るに相応しい「素晴らしい闘い」を展開していると思います。もちろん(明日のグランパスの結果も含め)最終節のビッグドラマを誰も否定はできないわけだけれど、この試合で魅せたアントラーズの「素晴らしい闘う意志」があれば、最終節に用意されているかも知れない「神様の悪戯ドラマのスクリプト」も凌駕しちゃうんじゃないかとさえ思えてくるじゃありませんか。
「降格リーグ」も含め、最後の最後まで目が離せない「Jリーグ」。世界的に見ても、こんなエキサイトメントは希有だからね、とにかく、とことん楽しまなきゃ大損だぜ。
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ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。
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ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。
基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。
いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。
蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。
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