湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2008年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第4節(2008年4月2日、水曜日)
- 組織と個のバランスというテーマ(ヴェルディ対ジュビロ、1-2)・・また、明確に回復基調に乗ったレッズ(エスパルス対レッズ、1-2)
- レビュー
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- ゲームの後で所用が重なり、コラムを書きはじめたのは夜中ということになってしまいました。今回も二試合レポートしますが、とにかくテーマを絞り込んで短くまとめることに努力しようと思います。これから、エスパルス対レッズの試合をビデオで観なければならないしネ。
ということで、まずヴェルディ対ジュビロ戦から。
久しぶりに「観ていて楽しい」ゲームだった。もちろんヴェルディの攻め。「個の勝負」に偏り過ぎているし、中央ゾーンへ集中し過ぎだけれど、彼らの積極的な仕掛け姿勢には、サッカーの楽しさや美しさを演出する本質的なリソース(資源)の一つがありました。
誤解を避けるために書き添えますが、もちろん私は、人とボールが、活発に、そしてクリエイティブ(創造的)に動きつづける(だからこそ決定的スペースを魅力的に攻略できる!)ダイナミックな組織サッカーこそが、サッカーの楽しさや美しさを演出する本質的なリソース(資源)だと思っているのですよ。それでも、後ろ髪を引かれることのない吹っ切れた個の勝負も「また」大きな魅力リソースであることは確かな事実だからね。
さてヴェルディ。レアンドロやディエゴの個人勝負は言うまでもありません。その個人勝負をベースに、パス&ムーブを組み合わせた勝負コンビネーションを仕掛けていくのです。でも、純粋に「個のドリブル突破」という視点じゃ、この二人のブラジル人も、抜群のスピードとテクニックを兼ね備える河野広貴にはかなわない。
前半だけだったけれど、河野広貴は、二度ほど、まさに日本人離れしたドリブル勝負を魅せてくれました。まさに天賦の才の為せるワザと呼べるくらいのドリブル勝負。一つのドリブル突破シーンでは、ジュビロのディフェンダー二人が置き去りにされてしまった。スゴイよ、ホント。河野広貴が魅せてくれるに違いない「本物のブレイクスルー」への期待がふくらみます。
そんな魅力的なヴェルディの攻めだけれど、シュートを打つという具体的な攻撃の目的からすれば、実効レベルはそんなに高いわけじゃない。前述したように、あまりにも個の勝負に偏っているし、中央ゾーンへ集中し過ぎているのですよ。まあ、平本も含めて、攻撃プレイヤー全員が、個の勝負をイメージし「過ぎて」いるということだよね。
たしかにボールは動くけれど、それは足許パスばかり。また勝負コンビネーションにしても、小さな(狭い)局面でのワンツーが主体だから、それは「グループ・ドリブル」みたいなものです。そんなだから、ボールがないところでの決定的フリーランニング(スペースへ抜け出すようなパスレシーブの動き)が活性化するはずがない。だから(相手守備のウラ側にある)決定的スペースを突いていくようなシーンは希です。
まあ、ドリブルや小さなコンビネーションが成功すれば、ある程度はウラスペースに入り込めるけれど、それでも、相手ディフェンダーの密度がもっとも高いゾーンだから、窮屈このうえありません。
ヴェルディが、クリーンなシュートチャンスを作り出したのは、前半では、左サイドからの(レアンドロ!?)大きなサイドチェンジパスが、右サイドでフリーになっていた河野広貴に通ったシーン、また後半では、2-1へと差を縮める「平本の追い掛けゴール」が決まった一発カウンターシーンと、シンプルなタイミングでレアンドロ(後半10分)と服部(後半41分)がクロスを送り込んだシーンでした。
やっぱり、効果的なチャンスメイクは、カウンター&セットプレーと、流れのなかでは、サイドを有効に活用した(要は、グラウンドを広く使うような展開からの)素早くシンプルなタイミングのクロスボールに限るよね。そう、この試合でジュビロが徹底していたようにね。
ヴェルディの柱谷監督は、基本はサイドからの仕掛けで、それに中央ゾーンの突破もミックスしていくという考え方のようです。まあ、それが常道。でもヴェルディの場合、実際にはその逆だったかも・・。
柱谷監督は、こちらは基本的な方向性をしめすだけで、ゲームがはじまったら選手に任せると言う。でも、どうも選手たちの感性は「個の勝負」に偏り過ぎていると感じられてしまうのですよ。だから、組織的な仕掛けがうまく機能しない。さて・・
そうそう、このメンバーに、これからフッキも復帰してくるんだよね。さて、どうなることやら。とにかく、ヴェルディについては、そんな「組織プレーと個の勝負プレーとのバランス」というテーマで観察するのが面白そう。
そこでの考え方の基本は、あくまでも、組織プレーのなかに、柔軟に、機を見計らった個人勝負プレー(グループ・ドリブルも含む!)をミックスしていくという方向性です。それが、本当の意味での「変化」を生み出すのですよ。
逆に、個人勝負プレーばかりが主体になってしまったら、そのなかに「組織プレー」をミックスしていくのは至難の業ということになってしまう。やはりサッカーでは、勝負はボールがないところで決まる・・のです。
さて、これからエスパルス対レッズの試合をビデオ観戦します。後で簡単にレポートしまっせ・・。
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さて、エスパルス対レッズ。申し訳ありませんが、今回はレッズに焦点を当てさせていただきます。何せ、私にとってレッズは、継続的な学習テーマを内包していますからね。今のところのメインテーマは、言わずと知れたトゥーリオ。
チームパフォーマンスですが、前節の内容からすれば、全体的なダイナミズム(活力・迫力・力強さ)は、急速に回復ベクトルに乗っているようです。攻守にわたって、選手の「主体的なアクションの量と質」が大幅に好転しはじめていると感じるのですよ。そんなポジティブな流れを牽引していたのが、言わずと知れた、トゥーリオ。
この試合でも守備的ハーフに腰を据えたトゥーリオ。こちらは、正直言って、「何だ!またかヨ〜〜」ってな感じでした。でも、この試合での彼のプレーは、前節とは見違えるほどポジティブに変容していた。
たしかに、守備の起点を演出するための「忠実なチェイス&チェック」については、まだまだだと感じるけれど(その分、細貝の汗かきプレーはレベルアップした!)、攻守にわたる「実効レベル」自体は大幅にアップしていたのですよ。
このレベルアップ現象を(その背景要素も含めて)言葉で表現するのは、ちょっと難しいけれど、まあ、こんな感じかな・・。
チームがディフェンスに入ったとき(相手にボールを奪われたとき)、味方守備ブロックの人数が足りない状況では、前戦から全力で守備的ハーフのポジションまで戻ってくる・・ただし、後方の人数が足りているケースでは、ゆっくりと柔軟に戻ってくる・・
・・中盤ディフェンスでは、基本的に、細貝が「汗かきの仕事」をこなし、トゥーリオはボール奪取勝負「ばかり」を狙うという構図に大きな変化はない・・ただこの試合でのトゥーリオは、ボールがないところでの「守備の仕掛けプレー」でも、かなりのエネルギーを投入していた・・前節では、動かずにインターセプトばかりを狙っていたけれど、この試合では、相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)へ素早く寄せるなど(要はパスコースを限定する汗かきの仕事など)守備の起点プレーもこなしていた・・
・・また、相手が攻め込んでくる状況に応じて、最終ラインまで下がったり、中盤で、パスの出所を抑えたりする(この抑制プレーはまだまだ甘い)・・中盤でのカバーリングはなかなか効果的だった・・要は、(自分がボールを奪い返す)ボール絡みだけではなく、ボールのないところでも、実効レベルが上がったということ・・
・・攻撃になったら、しっかりとしたボールキープから、常に「タテ方向への」チャレンジパスを送り出していた・・このチャレンジ姿勢がいい・・それによって、レッズの周りの選手も、大きく、素早く動くようになった・・エジミウソンも、永井雄一郎も、山田暢久も(梅崎司も)・・特に永井雄一郎が、爆発的なイメチェンを果たしたと感じる・・攻守にわたる積極プレーの量と質は、まさに「覚醒」としか表現のしようがない・・あっと、エジミウソンも、やっと本来の「期待値」に近づきはじめていると感じるし、梅崎も、しっかりと守備に入るようになっただけではなく(それでも、まだまだだけれど・・)攻撃でも、ボールがないところでしっかりと動くようになった・・
・・さて、トゥーリオ・・攻撃での彼は、ゲームメイカー、チャンスメイカー、ストライカーの一人三役をこなしていたと言っても過言じゃない・・それも、高い効果レベルなのだから驚きだ・・それが可能だったのは、彼の積極的な(ある意味、無謀な)押し上げを、チームメイトが十分にバックアップしていたからに他ならない・・
・・まず、山田暢久と永井雄一郎・・この二人は、トゥーリオの「積極性というオーラ」に完璧に感化されていた・・トゥーリオの動きに合わせるように、攻撃的に、ボールがないところで動き回る・・そして、必要に応じ、トゥーリオの上がりをバックアップするように中盤守備のカバーリングポジションに入ったりする・・そのサポートの動きがあったからこそ、トゥーリオの上がりが「無謀」ではなくなるのである・・まあ、山田にしても永井にしても、「トゥーリオが上がるんじゃ仕方ネ〜〜」ってなことなんだろうね・・
・・トゥーリオの、一見「無謀」にみえる大きな動き・・それが、味方を大いに「刺激」したということも確かな事実だ・・もっと言えば、「あっ、トゥーリオが行っちゃった・・しょうがネ〜な〜・・オレがカバーリングに入るしかネ〜よな・・よし、それじゃ次からは、オレが主体になってトゥーリオを前戦へ送りだそう・・そう、タテのポジションチェンジ・・なんて言っても、そんなことに関係なく、どうせトゥーリオは最前線まで出掛けて行っちゃうよな」・・
そんな現象描写になるでしょうかね。ところで、前節の記者会見で、ゲルト・エンゲルス監督が、トゥーリオの守備的ハーフへのコンバートについて、こんなことを言っていた。
「彼のリーダーシップはチームにとって非常に大事なものだ・・中盤に上がれば、中心でチームを引っ張っていくことが出来ると思った・・また、いまの最終ラインは安定しているから、それを崩したくないというポイントもあった・・」などなど
その発言内容について、私はこう考えています。最終ラインを崩したくなかったというのは付け足しの理由に違いない・・とにかくエンゲルス監督は、トゥーリオの攻撃性オーラというリーダーシップをチームの中心に据えたかったはずだ・・とね。そして「その意図」が、うまくツボにはまり始めた。
前節と、このエスパルス戦でのトゥーリオの行動範囲と運動量だけれど、多分、前節よりも倍以上に増幅しているはずですよ。だからこそ、周りの味方を大いに刺激した。この試合でのチーム全体の運動量は、かなりアップしていたに違いないと思うのですよ。
ということで、前節レポートで書いた、「トゥーリオの中盤はマイナス以外の何ものでもない・・彼には、最終ラインのリベロとして、より大きな自由度を与える方がいい・・」という考えについて、「一応」前言撤回的なマインドニュアンスになっていることを表明せざるを得ないヨな、と思っている湯浅なのです。
レッズは、明確に、回復ベクトルに乗りはじめていると思いますよ。ゲルト・エンゲルス監督のウデが存分に発揮されはじめた!? まあ、そういうことだよね。今度、彼の言う「和」について、より深く話し合ってみることにしよう。
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ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。
基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。
いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。
蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。
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