湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2008年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第5節(2008年4月6日、日曜日)
- さて「J」に、抜群の個性派集団が誕生した・・(ヴィッセル対ヴェルディ、0-1)
- レビュー
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- 結局フッキは、フロンターレが志向する「組織サッカーのベクトル」に乗り切れなかった(はじめから乗るつもりもなかった!?)ということなんだろうね。ヴェルディに「復帰」したフッキは、本当に活き活きとプレーしている。もちろん、全面的に「個」を押し出しながらネ。
そりゃ楽しいだろう。楽しくて仕方ないから、気が向いたら(≒自分自身でボールを奪い返せる状況になったら!)ディフェンスにだって入る。
もし彼がコレクティブな組織プレーをコンセプトにするチームでプレーしていたら、前戦からのチェイス&チェックは「義務的なもの」になるから楽しくもなんともないだろうけれど、多分ヴェルディでは、守備については本人の意識に任されているんだろうな(誰もフッキがチェイス&チェックすることなんて期待していない!?)。
そしてボールを持ったら、あくまでも自分のイメージにこだわったドリブル勝負を仕掛けていくのですよ。もちろんボールを持つまでのプロセスでは(絶対にパスがもらえる状況になったらという条件付きだけれど)タテのスペースへ全力でダッシュするし、パス&ムーブだって全力で繰り出していく。
これが、組織プレーをコンセプトにするチームだったら、周りの味方との「兼ね合い」で、シンプルにパスを回したり、パス&ムーブだって要求されるだろうから、自分の欲望を抑えなければならないシーンも多くなる。もちろんそれは、より良いカタチで個人勝負を仕掛けていけるようなオプションを作り出すためだけれど、フッキにとっちゃ、そんなプレーは、カッタるい回り道だろうからネ。フムフム・・
まあ、とにかくフッキが(先シーズンのように!)持ち味を存分に発揮できるようになったことで、観察する私にとっても、非常に面白い教材が一つ増えたということになるわけです。良かった、良かった。
攻撃の目的はシュートを打つことだけれど、そこに至るプロセスでの当面の目標イメージは、ある程度フリーでポールを持つこと(≒スペースを活用すること)。まあ、シュートへ至る最終勝負ドリブルや最終勝負コンビネーションのキッカケになるような「仕掛けの起点」を作り出すこと・・なんていうふうにも言い換えられるかな。
そんな仕掛けの起点だけれど、それは、パスとフリーランニング(ボールがないところでの動き)といった組織プレーを駆使して作り出してもいいし、ドリブルで相手を抜き去ってウラのスペースへ入り込むこと(個人勝負)で作り出してもいい。理想は、そんな組織プレーと個人勝負プレーのバランスだけれど、ヴェルディの場合は、個のドリブル勝負がより強調される傾向にあるということになるわけです。
繰り返しになるけれど、理想は、組織と個のハイレベルなバランス。どちらかに偏り「過ぎた」場合、相手守備がイメージターゲットを絞り込んでくることで潰され易くなるなど、必ずマイナス面が目立つようになってくるものなのです。そこに、ヴェルディが落ち込むかもしれない落とし穴がある!?
でもネ・・。ある「戦術的なイメージ」でチーム全体が徹底的に「意識統一」されたら、ハナシがちょっと違ったモノになる可能性もある。そのときには、ボールがないところでの汗かきの動き(まあフッキのドリブル勝負をサポートするようなムダ走りなど!?)も自然と出てくるようになるかもしれないし、個の勝負の「成り行きを想定」して、決定的なボールがないところでの崩しの動きが出てきたりするようになるかもしれないのですよ。
また(天才連中が守備をしないことで!?)周りの守備意識が高まり、攻撃から守備への切り替えスピードも倍増したりするかもしれない・・。この試合でも、ディアスにしても河野広貴にしても、ディフェンスでも忠実なプレーを魅せていたからね。
でもこのゲームの攻撃については、クロスも含め、パスで崩すというシーンでは、タテのスペースへ走り抜ける決定的フリーランニングとか(決定的スルーパスを誘発する最終勝負コンビネーション)クロスボールを「呼び込む」ような意図のある動きといった、ボールがないところでの動きが「有機的に連鎖」することは希だったし、クロスが送り込まれる状況でも、例えばニアポストのスペースへ走り込んでくるといった意図のあるフリーランニングも出てこなかった。まあ、フッキが復帰した初戦だから仕方ないのだろうけれど・・。
とにかく、ヴェルディにフッキが出戻ったことで、リーグのなかでも、彼らの「個性」がものすごく際立ちはじめたことだけは確かな事実だと思う。より「個の勝負」に偏った攻撃を仕掛けてくるチーム。面白いじゃありませんか。
フッキだけではなく、ディエゴもいるしレアンドロもいる。また「若き天才」河野広貴もいる。そして、このような「個の才能プレーを前面に押し出すチーム」を率いるのが、日本代表の守備的ハーフとして鳴らした柱谷哲二というのも、抜群のコンビネーションだと思いますよ。イヤ、ほんとに興味深い・・。
柱谷哲二監督は、富沢清太郎を、純粋な汗かきの守備的ハーフにコンバートし、前戦を牛耳る「個の勝負集団」と守備ブロックとを「スムーズにリンクするコーディネイター」として福西崇史を置いた。フムフム、面白い。
もちろんこれからは、極端な「前後分断サッカー」に落ち込むことで、(後方からのオーバーラップなど)ボールがないところでの仕掛けプレーが沈滞するかもしれないし、対戦相手が「個を抑えるゲーム戦術」を徹底してくることで、ヴェルディの才能連中が抑え込まれてしまうようなケースも出てくることでしょう。そんな、想定される困難をどのように乗り越えていくのか・・。
とにかく、これからのヴェルディの動向には、ものすごく興味深いコンテンツが山盛りです。柱谷哲二監督にしても、これからヴェルディに対する注目度も急激にアップしていくだろうから、やり甲斐があるっちゅうもんじゃありませんか。「J」を盛り上げるためにも、私の学習機会を増やすためにも、ヴェルディの存在感がアップすることを願って止みません。
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ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。
基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。
いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。
蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。
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