湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2008年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第7節(2008年4月19日、土曜日)
- まさに「J」最高峰のせめぎ合いではありました・・(アントラーズ対ガンバ、0-0)
- レビュー
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- 本当にエキサイティングな勝負マッチでした。まあ、見せ所の「量」はそんなでもなかったけれど、見せ所の「質」には本当に素晴らしいモノがあったからね。
決して、ノーガードの撃ち合いなどという低次元なものではなく、(両チームともに)あくまでも、優れた守備意識と、素早く効果的な攻守の切り替えを基盤にした、エキサイティングな中盤でのせめぎ合いが最後の最後までつづいたという素晴らしいサッカーだったのですよ。
本当に、心から堪能できたわけですが、その背景には、ハイレベルなテレビ中継技術もありました。この試合は、NHK総合でテレビ観戦したのですが、そのカメラワークが(スイッチング技術も!?)素晴らしかったのです。あっと・・今日は、所用が重なったことで鹿島まで足を伸ばせませんでした。
さて、NHKのテレビ中継。基本はグラウンドの広い範囲をカバーする「引き」のアングル。だから、こちらも、スタジアム観戦のように「俯瞰の視点」でもゲームを観察できました。それに加え、肝になるシーンでは、素早いスイッチングでズームアップ映像に切り替えたりする。また、攻撃チームが仕掛けのターゲットにした勝負ゾーンへも(カメラマンの方の意志によって!?)タイミングよくカメラアングルを「寄せて」いったりするのですよ。カメラマンの方も「そこが見たい!」と寄せていくということなんだろうか。とにかく、まさにハイレベルな中継技術でした。良かったですよ、ホント。
そのようにカメラワークの質が高いから、こちらは観たいところのほとんどを把握できるし、ストレスなく、エキサイティングマッチに舌鼓を打つことが出来たという次第でした。
さて、ゲーム。立ち上がりは、リーグランキングで「追う側」のガンバの気合いが勝っていた。この「気合い」だけれど、もちろん「その現象面」はディフェンス内容に現れる。両チームの監督さんは、このゲームについて、異口同音に「中盤でのせめぎ合いになる・・」と言っていたわけだけれど、まさにそんな展開でゲームが立ち上がり、守備での効果レベルが少しだけ上回っていたガンバが、最初に「流れ」を掴んだというわけです。でも実効レベルの高いシュートチャンスを作り出すというところまでゲームを支配できていたわけではない。
そんなガンバに対し、徐々に(もちろん守備内容をベースにした!)中盤でのせめぎ合いでも挽回していったアントラーズが押し返していく。でも彼らの場合は、押し返すだけじゃなく、かなり実効レベルの高いシュートシーンまで演出してしまうのですよ。そんなチャンスメイクの主役は、ダニーロでした。
このゲームでの最初のチャンスシーンは、前半14分にアントラーズが作り出しました。中盤まで下がってパスを受けたマルキーニョスから(マルキーニョスが魅せつづける、大きな動きをベースにした攻守にわたる実効プレーに拍手!!)、前戦に張るダニーロへタテパスが飛ぶ・・それをダニーロが、ダイレクトで、左サイドを駆け上がる石神へパス・・素晴らしいタテのスペース活用・・そしてダニーロは、そのままゴール前の決定的スペース(要は、ニアポストスペース!)へ走り込み、そこへ石神からグラウンダークロスが送り込まれた・・というチャンス。
次のビッグチャンスもアントラーズ。前半16分。ガンバ左サイドでオーバーラップを仕掛けようとワンツーにトライした安田がパスをミスする・・そして空いたアントラーズ右サイドのタテのスペースへ進出した小笠原から、逆サイドで狙うマルキーニョスをイメージした「見事なトラバースパス」が送り込まれる・・ガンバGKと最終ラインの間にあるスペースを横切っていく、カーブが掛けられた(ガンバGKから逃げていくような)トラバースパス・・ギリギリのところでガンバ選手がクリア出来たけれど、それは、小笠原の才能が垣間見えたシーンだった・・
あっと・・そんな「五秒間のドラマ」を羅列しても仕方ない。
このゲームでのテーマは、「中盤でのハイレベルなせめぎ合い・・」ということでした。言いたかったことは、両チームが、中盤でのイニシアチブを「まさに互角に奪い合った」ということです。要は、両チームともに、主体的に、奪われたペースを(主体的に)奪い返していくというプロセスを何度も魅せてくれたということです。それこそ、この両チームが、本物の強豪であることの証明なワケだけれど、そのプロセスは、ホントに見応えがありましたよ。
前述したように、最初はガンバがイニシアチブを握り、カウンター気味の展開からアントラーズが何本かチャンスを作ったあたりから、今度はアントラーズの流れになる。そこでは、ガンバの守備での「ダイナミズム」が大きく減退したと感じましたよ。要は、チェイス&チェックの勢いがなくなった(守備での足が止まった)ということです。
まあ、そんな展開になったら、一方のチームが「心理的な悪魔のサイクル・・」にまで落ち込んでしまうケースが多いよね。でもガンバの場合は違った。まさに、主体的に勢いを盛り返していったのです。
明神、遠藤、二川、ルーカス、そして最前線から大きな動きで攻守に絡みつづける山崎。彼らが展開した、局面での「ダイナミックな競り合い」には、まさに強烈な意志が込められていたと感じました。そんな「気持ちの入った闘い」がチームメイトの刺激にならないはずがない。まあガンバの場合は、中盤の全員が、そんな「闘うプレー」を積み重ねたわけだけれど、それがゲームの流れを「再び」引き寄せたというわけです。
ちょっと蛇足かもしれないけれど・・。そんな「強烈なせめぎ合い」がつづくなかで、遠藤ヤットが魅せた、例によっての「クールな逆取りプレー」にも舌鼓を打っていましたよ。それは、一発のシンプルなダイレクトパスによって、見事にガンバ左サイド(アントラーズ右サイド)のスペースが攻略されたというエキサイティングプレー。
そのとき、攻守にわたって神出鬼没の動きを魅せていた遠藤ヤットが(前戦で)フリーになっていた・・そこへ、案の定、後方の味方からタテパスが送られる・・アントラーズ守備ブロックの何人かが、「ソレッ!」という勢いでボール奪取アタックを仕掛けていったのは言うまでもない・・と、次の瞬間、トラップすると見せ掛けた遠藤ヤットが、ダイレクトでガンバの左サイドスペースへボールを「走らせた」のですよ・・そして、その一本のシンプルなダイレクトパスによって、ガンバ守備ブロックがウラスペースを突かれてしまった・・というシーン。
なかなか興味深かった。柔道でいったら「空気投げ」。要は、相手のエネルギーを逆利用して急所を突いていくっちゅうプレーです。遠藤ヤットの「クールさ」が冴えわたったシーンではありました。まあ、彼の場合は、攻守にわたって、「闘う意志が込められた全力ダッシュ」をもっと魅せて欲しいとは思うけれど・・。もちろん、そんな強烈な自己主張が、彼の才能を本当の意味で「ブレイク・スルー」させるに違いないと思うのですよ。とはいっても、彼の場合は、クレバーな「消えるプレー」が特長でもあるけれどネ。さて・・。
とにかく、ボールがないところでのせめぎ合いも含め、ハイレベルなサッカーを堪能させてもらいました。NHKのエンジニアの方々にも感謝します。草々・・
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ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。
基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。
いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。
蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。
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