湯浅健二の「J」ワンポイント


2008年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第7節(2008年4月20日、日曜日)

 

内容的にアルディージャがレッズを凌駕した埼玉ダービーでした・・(レッズ対アルディージャ、0-0)

 

レビュー
 
 「自分からアクションを起こしていくサッカーです」

 アルディージャの樋口監督に、こんなことを聞いてみました。「監督は、会見の冒頭で、今シーズンのコンセプトをどこまで出来るかがテーマだったとおっしゃいました・・不勉強で申し訳ないのですが、その、アルディージャが掲げるコンセプトを、短く表現していただけませんか?」

 それに対して、冒頭の、素晴らしい一言コメントがはね返ってきたというわけです。要は、攻守にわたって、それぞれの最終目的に応じ(ボール奪取とシュートを打つこと)自らイメージを描写し、強い意志をもって実行に移していく・・ということでしょう。

 もちろん、守備においても攻撃でも(上記した)最終的な目的を達成するためのプロセスアクション(準備アクション)は欠かせません。守備では、チェイス&チェックや協力プレスへの寄り動作といった汗かきの準備アクションなど。また攻撃では、パス&ムーブや、ボールから離れたところでの、決定的スペースへ飛び出していくフリーランニング等々。

 それらの「準備アクション」が、すぐにボール奪取やシュートに結びつくワケじゃないけれど、でも「それ」がなければ、攻守の目的に「近づいていくこと」すら出来ない。だからこそ、そんな(ボールがないところでの)汗かきアクションと、ボール絡みアクションがうまくリンクすることが求められるというわけです。

 樋口監督の言う「自らアクションを起こしつづけるサッカー」には、そんな要素も内包されているはずです。もちろんサッカーだから、そのコンセプトは無限のサッカーシーンに応じて様々なカタチで表現されるんだろうけれどネ。まあ、もっと言ったら、(主体的に)考え、走るサッカー。それこそが本物の自己主張です。攻守の目的を明確に意識するなかで、次の効果的プレーを脳裏に描写し、強烈な意志を基盤に、勇気をもって実行に移しつづけていく・・。それです。

 とにかく、この試合でアルディージャが展開したサッカーは、まさに「自ら仕掛けつづけるダイナミックサッカー」でした。本当に素晴らしかった。もちろん「その」絶対的なベースが、素晴らしい組織ディフェンスにあったことは言うまでもない。

 ポジショニングバランス・オリエンテッドな守備のチーム戦術。チェイス&チェックから守備の起点を演出し、それを(要は相手ポールホルダーの意図を)ベースに、次のボール奪取勝負を狙いつづける。そんな組織ディフェンスの場合、一人でもサボッたら(ボール奪取プロセスの)全てが破綻するのは言うまでもない。だからこそ、選手一人ひとりの意識を「あれほど高めた」樋口監督のウデに心からの拍手をおくっていた湯浅だったのですよ。

 アルディージャが展開する、そんな素晴らしい組織ディフェンスの「網」に引っかかりつづけたのがトゥーリオでした。

 この試合でのトゥーリオだけれど、たしかに、局面でのボール奪取アクションでは素晴らしい才能を魅せつけていたけれど、味方にボールを奪わせるための「準備(汗かき)アクション」という視点では、お荷物になってしまうシーンも多く見受けられた。私は、そのことが、レッズ守備ブロックが、アルディージャが展開する組織オフェンスを効果的に抑制できなかったことの大きな要因の一つだったと思っているのですよ。

 たしかに細貝は頑張った。強烈な闘う意志(≒セルフモティベーション能力)も含め、優れた才能に恵まれた若者です。とはいっても、まだまだ鈴木啓太の代役を務めるのは荷が重い。啓太がいないのだから、トゥーリオは、普段以上に「汗かき」も意識しなければならなかったのですよ。でも彼は、例によって、リベロのプレーイメージに凝り固まり(!?)自分がボールを奪い返すイメージ「だけ」でプレーしていたのです。これじゃ、最終ラインが不安定になるのも道理じゃありませんか。

 また攻撃にしても、決して効果的なチャンスメイクが出来ていたとは言い難い。コンビネーションのコアになるにしても、ボールコントロールが遅いだけではなく、持ちすぎの感も否めないから、相手に取り囲まれてしまうシーンが続出するのですよ。そして逃げの横パスを出して足を止めてしまう。これじゃ、レッズの前戦が寸詰まりの攻撃しか仕掛けられないのも道理です。

 この試合でのレッズ攻撃は、まさに「限界」でした。個人の才能レベルからすれば、もちろん「もっと出来る」はず。でも、実質的なプレー内容は、まさに「アップアップ状態」だったのですよ。もちろんそれは、両サイドも含む、後方からのサポートの量と質が足りなかったから。もっと組織的にボールを動かせなければ、スペースを攻略できるはずがないし、個人の才能を活かせるはずもない。そして、組織的にボールを動かすためには、もちろん「効果的に人数を掛けること」が必要になるというわけです。

 もちろん、そんな寸詰まりの展開でも、個人勝負で状況を打開していければ何とかなるものです。でも、エジミウソンにしても高原直泰にしても、まったくといっていいほど、ドリブルで相手守備を切り崩していくようなシーンを演出できない。

 もちろん、前半で高原直泰が仕掛けたドリブルシュートは素晴らしかった。そのシーンを見ながら、「これは・・高原がブレイクする(以前の、自信あふれるプレー姿勢を取り戻す)キッカケになるかもしれない・・」などと期待がふくらんだモノです。実際に、その後の彼のプレーが、格段にダイナミックになっていったと感じられたからね。攻撃でも、守備においても。でも結局、再び「落ち着いて」しまった・・。

 ただし、永井雄一郎のプレー内容は、良かったですよ。豊富な運動量をベースに、ボールを効果的に動かそうと、労を惜しまずエネルギーを傾注しつづけていた。また、後方からの一発勝負ロングパスを「呼び込む」ように、相手守備ブロックのウラに広がる決定的スペースへ抜け出すフリーランニングにも(何度も)トライしていた。実際、一度だけだったけれど、ロングラストパスが通り、彼がシュートまでいったシーンもあった。

 後半15分、両トップ(エジミウソンと高原直泰)に代わって、梅崎司と田中達也が登場しました。そして永井雄一郎がワントップに張る。またトゥーリオも積極的に上がってくる。その交替によって引き出された、積極的でダイナミックな仕掛けの流れには、期待するに十分なパワーが秘められていたモノです。

 でも「その流れ」にしても、5分ともたなかった。

 梅崎司は、効果的なディフェンスが出来るまでに守備意識が高まっているし、田中達也にしても、ケガ上がりとは思えないほど積極的に最前線から守備に入っていた。にもかかわらず、一度は大幅にアップしかけたレッズの攻撃の勢いが(このことについてエンゲルス監督が、コンパクトサッカーを維持する勢い・・的な表現をしていた・・ナルホド!)ズルズルと減退していってしまったのですよ。

 まあそれにしても、アルディージャの守備が素晴らしかったからに他ならないよね。盛り上がりへの期待を裏切られた失望感に苛まれたけれど、すぐに、素晴らしいアルディージャの守備に拍手をする元気も戻ってきた。

 とにかく、この試合でのアルディージャは、本当に素晴らしい組織サッカーを展開しました。まさに樋口監督が言う、主体的コレクティブ・サッカー(この表現・・樋口さんは好きじゃないだろうか・・)。4月27日の、アルディージャ対アントラーズ戦が、いまから楽しみで仕方ありません。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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