湯浅健二の「J」ワンポイント


2008年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第8節(2008年4月27日、日曜日)

 

ホンモノ感が発展しつづけるアルディージャ・・いまのアントラーズでは蓄積疲労のマネージメントも重要テーマ・・(アルディージャ対アントラーズ、1-1)

 

レビュー
 
 「中国でのゲームは、まさに戦争だったんだよ」

 そのとき、アントラーズのオリヴェイラ監督が語気を強めました。それは、数日前に北京で行われたアジアチャンピオンズリーグの勝負マッチのこと。わたしは観ていませんが、中国国安ホームの勝負マッチだから、それがどんなゲーム展開になったのかは推して知るべしです。そうだよな・・そりゃ、大変だったろうな・・。

 4月に入ってから、最初の水曜日のJ(アウェー新潟戦)、その週末のJ(ホーム千葉戦)、次の水曜日のACL(ホームでの中国国安戦)、その週末のJ(アウェーのレッズ戦)、やっと一週間空いた週末のJ(ホームのガンバ戦)、次の水曜日のACL(アウェーでの中国国安戦)、そして今日のアルディージャ戦というように、本当にハードな連戦がつづいたからね、たしかにアントラーズは、コンディション的に厳しい闘いを強いられていた。

 そのことについては、アルディージャの樋口監督も、ゲーム戦術イメージに組み込んでいたようです。「後半になったらアントラーズの足が止まり気味になると確信していた・・だから前半は、とにかく失点ゼロで切り抜けようと選手たちに意識付けした・・いや、1失点でも大丈夫だと思っていた・・前半は0-1でリードされたわけだが、後半に向けて、選手たちにハッパを掛けて送り出した・・後半のアントラーズは必ず足を止める・・そのチャンスを絶対に逃すなってネ・・」

 そして、まさにイメージ通りのゲーム展開になったというわけです。

 後半30分に同点ゴールを叩き込んでからのアルディージャは、一体何本の決定的チャンスを作り出したのだろうか。ペドロ・ジュニオールの爆発ドリブル突破から放たれたバー直撃シュートやゴール前10メートルからのフリーシュート、デニス・マルケスが吉原宏太のクロスをダイレクトで触った決定的シュートやヘディングシュート、デニス・マルケスからのグラウンダークロス(決定的サイドチェンジパス)をダイレクトで叩いた小林大悟のシュート(この場面では、デニス・マルケスのラスト・サイドチェンジ・グラウンダークロスと、小林大悟のファーサイドスペースへの決定的フリーランニングは美し過ぎた!)など。

 それにしてもアントラーズは、本当によく引き分けに持ち込んだ。今の彼らの最重要テーマは、何といっても、選手の「蓄積疲労」をいかに和らげるのかということに集約されるよね。でもそれは簡単じゃない。単に身体を休めるだけじゃダメなんですよ、これが。とにかくアクティブに身体を動かしながら、深く浸透した蓄積疲労を「解きほぐして」いかなければならないのです。

 これからも、5月21日まで(ACLチャンピオンズリーグ予選ラウンド最終日)厳しい連戦がつづくし、ベストメンバーを効果的に代替できるメンバーが限られているという現状を踏まえた闘いを展開しなければならないからね。その代替メンバーは、伊野波雅彦、石神直哉、ダニーロ、増田誓志、興梠慎三・・といったところか。あっと・・、中田浩二も戻ってくるか・・。

 とにかく今のアントラーズは、「チームパフォーマンスが落ちない」ような選手ローテーションは難しいということです。それもまた、オリヴェイラ監督のウデの見せ所ではあるけれど・・。

 あっと・・、冒頭のオリヴェイラ監督の言葉だけれど、それは、私が出した、ちょっと挑発的な質問に対する答えの一部でした。その質問は・・

 「このところ、数日ごとに試合をこなさなければならない厳しい連戦がつづいています・・また結果は思わしいものではありません・・とはいっても、レッズ戦やガンバ戦、またホームでの中国国安戦の内容は決して悪くはありませんでした・・ただ、結果が思わしくないことで、それに引きずられるように内容も減退傾向に入ってしまったように感じるのです・・今日のアルディージャ戦のように・・」

 それに対してオリヴェイラ監督が、スケジュールの厳しさと、そのなかでコンディションを高いレベルで維持することの難しさを強調したというわけです。オリヴェイラ監督は、「今シーズンのアルディージャは、皆さんもご存じの通り手強い相手・・そんな彼らに対して、前半はある程度のサッカーが出来たと自負している・・ただ後半は、連戦の(特に中国での試合からの)疲れによって押される展開になることは分かっていた・・とにかく、数字的な結果ではなく、しっかりと内容を評価してもらいたいと思う・・」とも言っていました。

 まあ、そういうことです。わたしは内容をしっかりと評価していたつもりですが、たしかに、アントラーズの蓄積疲労にも焦点を当てるという分析マインドはちょっとボケ気味だったかもしれません。

 それにしても、アルディージャの強さは本物になりつつあると感じますよ。たしかに前半の内容は、(アルディージャが押し気味には見えたにしても!)実質的な勝負の流れはアントラーズにあったけれど、後半のゲーム内容では、明らかにアルディージャがアントラーズを凌駕していたからね。この「凌駕」の意味は、堅牢なアントラーズの守備ブロックを振り回し、ウラのスペースを効果的に使えていたということです。

 「我々は、良いサッカー内容をしっかりと結果につなげていかなければならない・・しっかりと勝ち切れるチームへ脱皮していかなければならない・・」

 アルディージャ樋口監督が、力強く言い切っていました。とにかく、今のアルディージャ選手が見せつけつづける「リスクを顧(かえり)みることなく主体的にギリギリまで闘う姿勢」は、まさに監督のウデの証明です。グラウンド上の選手のプレー内容は監督を(その仕事内容を)映す鏡なのです。樋口監督に心からの拍手をおくる湯浅なのでした。

 最終ラインのコントロール内容(最終ラインの絶対的リーダーであるレアンドロのプレーに、ベンゲル・グランパスのトーレスを見ていた湯浅です)、中盤でのチェイス&チェックと有機的に連鎖しつづける周りの守備ブレー、ボール奪取してからの人とボールが良く動く攻撃・・などなど、本当に魅力的なサッカーを展開しています。

 とはいっても、やはり「個のチカラ」で限界があることも確かな事実。それを「組織」で補っているわけだけれど・・。だから、最終勝負シーンでのチャンスメイクという視点では、たしかに大きな課題が見え隠れしているのですよ。ところが、この試合では・・

 樋口監督が言います。「最後の時間帯は、完全にオープンなゲームになった(守備ブロックが開き、両チームが攻め合う展開になった)・・だから、デニス・マルケスとペドロ・ジュニオールも、個人のチカラを存分に発揮できたと思う・・彼らは、スペースをもらい、前を向いてプレーしたら、やはりスゴいと再認識した・・」

 まあ、この二人にしても、しっかりとした守備をベースに、(攻撃となったら)ボールがないところで「も」しっかりと動くことで上手く組織プレーを機能させられるようになれば、ゲームが「オープン」にならなくても、もっと頻繁に、スペースで前を向いて勝負できるようになるはずだよね。

 それもまた監督さんのウデの見せ所じゃありませんか。ガチンコ勝負でも、しっかりと「勝ち切る」ことが出来るように、彼らを十全の戦力として機能させられるか・・。そのポイントでも、樋口監督のウデに注目しましょう。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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