湯浅健二の「J」ワンポイント
- 2008年Jリーグの各ラウンドレビュー
- 第9節(2008年4月29日、火曜日)
- トゥーリオは、自分の特異な能力をもっとも効果的に発揮できるプレーに徹するべき・・(レッズ対コンサドーレ、4-2)
- レビュー
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- 「レッズのリズムになったら、それまでとはまったく違うサッカーを展開できるようになる・・」
記者会見でのゲルト・エンゲルス監督が、そんなキーワードを発しました。そう、まさにその通り。ただし、そのリズムに乗るまでには、ほとんどいつも、フラストレーションしか感じられない低次元サッカーを見せつけられるのですよ。
足の止まった停滞サッカー(オーバーラップやタテのポジションチェンジといった攻撃の変化がまったく出てこない前後分断サッカー!?)。ということで、かなり重傷の「スロースターター」でもあるレッズということなのですが、その背景要因を探ることには重要な意義がありそうです。
前節の京都サンガ戦もそうだった。たしかに最後は大勝を収めたけれど、それも、相手が一人退場させられたことでレッズがリズムを掴んでからのことだった。
ゲーム展開について誰もが同じような印象を持ったはずだけれど、コンサドーレの三浦監督もレッズのエンゲルス監督も、前半25分あたりにゲーム展開の大きな変異ポイントがあったと言っていた。要は、その時間帯を境に、徐々にレッズがリズムを好転させていったということです。
「この試合では、(三浦監督が指摘した)そのポイントが重要なテーマだと思うのだが、三浦監督は、そのゲームの流れの変化の背景には何があったと思うか?」
そんな私の質問に、例によって、三浦監督が真摯に答えてくれます。「徐々に我々のプレスの勢いが落ちていった(レッズの守備が良くなってきた)こともあったが、それ以外でも、梅崎司と山田暢久のサイドで起点を作られはじめたことも一つの要因だったと思う・・」
フムフム・・。次に、同じ質問をゲルト・エンゲルス監督にも投げてみた。
「相手に二点取られたことで、選手たちが目を覚ましたこともあったと思う・・選手は、これじゃダメだ、もっとやらないと(しっかり闘わないと)いけないと思ったはず・・また、立ち上がりの時間帯にコンサドーレが仕掛けつづけたプレスが効果的だったということもあるだろう(コンサドーレのプレスの勢いが落ちたことも、流れが変わった要因の一つだった)・・」
フムフム。まあ、たしかにそういう要因もあるはずだよね。わたしも、前半20分あたりまでのレッズの低級サッカーを観ながら、いろいろと考えをめぐらせていたのですよ。そこでもっとも目立っていたのが、やはり、トゥーリオのプレー内容でした。もちろん、ネガティブな意味合いでね。
とにかく、全体的な運動量が少なすぎる。たしかに局面でのボール奪取勝負では、日本一の強さと巧みさを魅せてくれるし、攻撃でも、素早いボールコントロールからのシンプルな展開パスも悪くありません。でも、パス&ムーブがまったくないし、(パスを出した後の)サポートの動きも緩慢。要は、(タテのポジションチェンジも含めた)全力の上下動など、チームのリズムを高揚させていくための忠実なアクションの「量と質」が足りな過ぎるということです。
そんな、足を止めた鈍重サッカーを観ながら、心のなかで毒づいたモノです。
何やってんだヨ・・パスしたあとで動かなければ(ボールがないところでスペースへ動かなければ)ゲームの流れを活性化するコトなんてできゃしない・・トゥーリオは、ゲームメイカーを気取ってんだろ・・それだったら、しっかりと、ボールがないところでの汗かきの動きもやらなきゃダメなんだよ・・そんなところで、止まってパスを要求するから、レッズの攻めが遅くなったり停滞しちゃったりするんだ・・とにかく、レッズの攻撃で全体的に足が止まり気味になってしまう一番の原因のは、トゥーリオのプレー内容なんだよ・・まあ、言い換えたら、あまりにもトゥーリオの影響力が大き過ぎるということなんだけれどネ・・だからこそ、ちゃんとした(人とボールが動きつづけるような組織プレーを活性化するために!)リーダーシップを発揮しなければならないんだよ・・先週のコラムで書いたようにネ・・
でも、たぶん本人もそのことに気付きはじめていたはずです。私には、徐々に、細貝萌や両サイドをタテへ送り出すことに「も」気をつかいはじめたと感じられました。それが、前半25分あたりの変化の背景にあったと思うのです。そこには、「正しいリーダーシップ」を発揮することに対してトゥーリオの自覚が芽生えていく兆候を感じていたのですよ。
そして後半は、その現象がより顕著なものになっていく。要は、組み立てプロセスにおいて前戦と後方をつなぐ「リンクマン」としての機能を細貝萌に任せようという明確な意識を持ってプレーしはじめたということです。細貝は、シンプルにボールを展開しながら、常に自身もサポートの動きを繰り返します。それが組織プレーの流れを活性化した一つの大きな要因だったのです。もちろん「それ」は、ゲルト・エンゲルス監督のアドバイスだったのかもしれないけれどネ。
とにかく、そんな「変化」によって、徐々にレッズが自分たちのリズムを取り戻していったことは確かな事実でした。また「そのプロセス」では、エジミウソンの勝ち越しゴールというラッキーな出来事もあったから、レッズの「リズム掌握プロセス」に格段の勢いが乗るようになっていった・・。
そしてトゥーリオは、組み立てプロセスでは、後方のバックアップに徹しながら(守備的ハーフの位置で、たまには阿部勇樹を前戦へ送り出したりもしていた!)チャンスを見計らって、全力パワーで最終勝負シーンへ絡んでいくのですよ(そのときのオーバーラップの勢いには素晴らしいモノがあった)。
美味しいところに狙いを定めた攻撃参加!? まあ、そんな表現が当てはまるかもしれない。とにかく私は、そんなトゥーリオの「プレー内容の変化」が、レッズの「リズム掌握プロセス」を加速させたと確信しているわけです。
ここで、ちょっと視点を変えると・・。要は、それって、トゥーリオがリベロとしてプレーしているのと同じコトじゃありませんか。だからこそ、運動量が少ない(コンディション的に多くを期待できない!?)トゥーリオには、「リベロ」として(流れの中でもセットプレーにおいても!)ココゾの攻撃参加をイメージさせる方が、より実効レベルが高いと思うのですよ。いつも書いていることだけれど、彼は、攻守の勝負所(ボール奪取勝負シーンとシュートシーン)に直接的に絡むようにプレーすることで(プロセスの準備作業はチームメイトがお膳立てしてくれる!)もっとも効果的な仕事が出来るはずだからね。チームメイトも、トゥーリオには、まさに「そのこと」を期待しているわけだから(そこでのトゥーリオの並はずれた能力に敬意を持っているからこそ!)彼のために、汗かきのお膳立てワークに精を出すことなど全くいとわないと思いますよ。
プロセスワークはチームメイトに任せ、自分がもっとも能力を発揮できる最終勝負シーンに集中する・・。チームの目的を考えたら、そんなところでワケの分からない「平等論」を持ち出すヤツなんてどこにもいないよ。人それぞれに特異な能力っちゅうものがあるんだからね。
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ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。
基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。
いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。
蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。
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