湯浅健二の「J」ワンポイント


2009年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第1節(2009年3月7日、土曜日)

 

アントラーズが素晴らし過ぎた・・それでも、レッズも正しいベクトルに乗っていることを示した・・(アントラーズvsレッズ, 2-0)

 

レビュー
 
 まあ、このゲームについては、アントラーズが実力どおりの順当勝ちを収めたという総体的な評価が妥当なところでしょう。

 それにしてもアントラーズは、今でも目に見えるほどの発展をつづけている。守備にしても、攻撃にしても。特に守備(優れた守備意識=ボールがないところでの汗かきディフェンスも含め、主体的に仕事を探しつづけ、それを実行できること!)。この試合でも、マルキーニョスが、何度も爆発的チェイス&チェックを魅せつづけていたわけだけれど(それこそがアントラーズの優れた守備意識のシンボル!!)、それは、まさにレッズにとってのお手本といえるモノでした。

 本当に、オリヴェイラ監督の「プロコーチのウデ」を感じますよ。先週のゼロックス戦とこの開幕戦でアントラーズが魅せた『創造性と勝負強さが高みでバランスした!』サッカーだったら、本当に「ダブル」や「トリプル」も夢じゃないと思えてくる。

 守備メカニズムだけれど、両チームともに、フォーバックを基調に、中盤では、基本的に「ポジショニングバランス・オリエンテッド」な守備を展開する。要は、マークを受け渡しながらプレスのチャンスをうかがうというイメージ。

 もちろん、ボールホルダーへのチェイス&チェックは絶対的なベースだけれど(前戦からの戻りと後方からの押し上げを、状況に応じて使い分けるチェイス&チェック)、それを基調に、ボールを奪い返す勝負所までは、互いのポジショニングバランスをしっかりとマネージするのですよ(位置的なバランスと適当な距離感!)。そして、チャンスを見計らい、インターセプトや協力プレスによって効果的にボールを奪ってしまう。

 そんな「基本的な発想」は、両チームに共通したモノがあるはず。でも、そこで表現されていたダイナミズム(活力・迫力・力強さ)には明かな差があった。そう、アントラーズに「一日以上の長」があったのです。

 チェイス&チェックのスピードと迫力、その状況を的確に判断した協力プレスチャレンジ、そして次のパスを狙う(インターセプトやトラップの瞬間を狙ったアタック)などなど・・、どれを取っても、明らかにアントラーズに軍配が上がる。それが基盤になっているからこそ、次のカウンターにも勢いを乗せることができる。

 あっと・・「勢いを乗せる」とは、もちろん、カウンターの流れのなかで前戦へ絡んでいくサポート(選手の)数と質のことですよ。アントラーズが挙げた2ゴールともに、セットプレー崩れのカウンターだったけれど、最終的なシュート状況では、完全にアントラーズが数的に優位に立っていたからね(先制ゴールの場面では、アントラーズの4人に対してレッズは2人だけだった!?)。

 アントラーズの勝負強さは、もちろん守備の優れた機能性にあり。とはいっても、やはり、マルキーニョスと興梠慎三で組むツートップは、スピードといい、テクニックといい、パワーといい、とにかく強力無比です。あれだけのトップがいるからこそ、前述した「後ろ髪を引かれないサポート」が出てくるというわけです。

 「ウチにはスピードある(もちろんパワーやテクニックも備えた!?)トップ選手がいる・・そのクオリティーを使わない手はないではないか・・」

 記者会見でオリヴェイラ監督が言っていた。もちろん、その通り。アントラーズには、二人の攻撃クオリティーを活用し切るという共通イメージが浸透している。だからこそ、高い位置でのボール奪取(協力プレス)にも勢いが乗っていくというわけです。そう、トップの能力をうまく活かした(ポストプレーなど)次のカウンターをイメージして・・。

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 さて浦和レッズ。たしかに負けはしたけれど、前半の立ち上がりから中盤にかけてまでは、フォルカー・フィンケ監督が志向するサッカーがかいま見られました。

 守備では、前述した、ポジショニングバランス・オリエンテッド(受け渡しマークなど!)の発想をベースにした協力プレス(連動ボール奪取プレー)。攻撃では、ショートパスを主体にしたコンビネーション(人とボールが動きつづける組織パスサッカー!?)。

 時間を経るとともに、アントラーズに凌駕されちゃったけれど、ゲーム序盤では、アントラーズに優るとも劣らない守備を魅せていた。でも、徐々に足が止まり気味になっていった。それは、とりもなおさず、次のボール奪取勝負ポイントを(イメージを)絞り込めなくなっていったからに他ならない。だから「様子見」になってしまう。

 その背景には、アントラーズが繰り出しつづけた巧みな個人プレーと組織パスプレーもあったに違いありません。最前線の二人だけじゃなく、本山雅志、青木剛、ダニーロ、野沢拓也と、個のチカラでも秀でた「組織プレイヤー」が目白押しだからね。だから、協力プレスがうまく掛からないことで様子見になってしまうシーンが多くなる・・そして協力プレスの機能性がどんどん減退していく・・。そう、悪魔のサイクル。

 それでも、前半の半ばまでレッズが魅せたサッカーには、明らかに「好材料」があった。たしかに最後は「順当」に負けてしまったけれど、それは、アントラーズという、いまでも発展をつづける「J」を代表するリーディングチームが相手だったからだと考えるべきだろうね。とにかく、今のアントラーズが魅せつづける攻守にわたる「イメージ・シンクロプレー」は素晴らしいレベルにあるのです。

 言いたかったことは、レッズが正しいベクトルに乗っていることだけは確かな事実だということ。そして、ある程度の機能性が発揮されるまでには、もう少し時間が必要だということ。

 一つだけ気になったのは、選手が「何らかのイメージに囚われ気味」にプレーしていたという点。いろいろな戦術的テーマを与えられ、それを具現化しようとして、逆にプレーが縮こまっていったという印象なのですよ。

 あまり「考えすぎず」、とにかく攻守の目的を達成するために、主体的に、そしてダイナミックに「まず動くこと」が大前提なんだよ。戦術的なテーマを具現化するために工夫しよう「し過ぎ」れば、動きが縮こまったものになるでしょう。もちろん考えることは大事だけれど、逆に「考えすぎない」こと(要は、身体の方が先に動くこと!)も大事なのです。

 ショートパスを積み重ねるコンビネーションにしても、要は「如何にスペースを攻略していくのか」というのがテーマであり、シュートを打つというのが目的なんだから、そこでは「ショート&ショート&ロング」という「ボールの動きの変化」も大事だし、人の動きにしても、様々な変化をミックスしていくのが肝要なのです。

 もちろん、スペースを活用できたら(要は、ある程度フリーでボールを持てたら)突破ドリブルも(仕掛けの変化の演出という意味で)次のプレーのオプションに入っていなければなりません。

 そんな全てのことは、やはり「その場での選手のイメージ力」に拠るのですよ。決して、監督から与えられたイメージ通りに・・なんて考えちゃいけない。それだったら、結局はステレオタイプのサッカーになってしまう。

 サッカーは、あくまでも「最後は自由にプレーせざるを得ないボールゲーム」なのです。それこそがサッカーの魅力のコア。観る方にとっても、プレーする方にとっても。

 だからこそ、ある程度は「指示された戦術イメージ」をベースにしながらも、それを、攻守の目的を達成するために「実践的に発展理解」するのは選手なのだという意識が大事なのです。まあ、中盤のリーダーシップというテーマにも通じるかもしれないけれどね。

 とにかく、ベースが悪くなったり、プレーに迷いが生じたら(様子見になってしまう状況が出てきたと感じたら!)まず「率先して動く」ことです。守備では、言うまでもなくチェイス&チェックを率先する。また攻撃では、パスを呼び込むような、ボールがないところでの動きを繰り出しつづける。そこで「クレバーで効率的な動きを・・」なんて考えたら、必ず失敗するよ。

 良いサッカーは、有機的なプレー(イメージ)連鎖の集合体なんだからね。

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 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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