湯浅健二の「J」ワンポイント


2009年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第11節(2009年5月10日、日曜日)

 

いまのレッズでは、どんな結果でも「効果的な糧」になると思えるのだから、いいネ・・(レッズvsフロンターレ, 2-3)

 

レビュー
 
 「2-1とリードしたときは(全体的なサッカー内容から)このまま勝ち切れるというイメージが強くなっていった・・ただその後は・・」

 フォルカー・フィンケが、記者会見で、そんなニュアンスのことを言った。その、ゲーム展開についての感覚的なイメージについては、まさにアグリーだったネ。

 セルヒオ・エスクデロに代わって高橋峻希が入り、攻守にわたる中盤ダイナミズムが再び活性化しただけではなく、そんな良い流れのなかでトゥーリオのスーパー勝ち越しゴールまで飛び出したんだからネ。そんなゲームの流れを感じながら(峻希については後述)わたしも、そのまま押し切れるという、確信にも似た感覚をもちはじめたのですよ。レッズの守備ブロックも、個人勝負を(個人のチカラを)前面に押し出すフロンターレの仕掛けの流れを、しっかりとコントロールできていたしネ。

 でも結局サッカーの神様は、我々の「感覚」をあざ笑うかのように、PKと、その後のカウンターによる大逆転ドラマというスクリプトを書いていた。サッカーじゃ、こんなことは日常茶飯事だから、世界の強者フォルカー・フィンケも、サバサバした表情だったね。まあ、仕方ない。

 「相手にボールを奪われたら、全員でディフェンスに就き、奪い返したら全員で攻めに入る・・そんな(究極の)理想イメージを志向していることについては、我々も変わりない・・フロンターレは攻撃的なチームだと言われるが、全員で守備をし、そして(チャンスを見計らって)なるべく多くの人数をかけて仕掛けていくという攻撃イメージをもっているのだ・・」

 フロンターレ関塚監督が、記者会見で主張していたけれど、レッズのフォルカー・フィンケも認めていたように、フロンターレの攻撃は、やはり前戦の「スーパーな外国人トリオ」に拠るところが大きいよね。ジュニーニョ、チョン・テセ、そしてヴィトール・ジュニオール(またレナチーニョも控えている!)。

 フロンターレの全体的な仕掛けの流れも、そんな天才たちの「プレーイメージ」をコアに置いている。だから、周りのチームメイトたちも、天才のプレースタイルをしっかりとイメージしながら、彼らの仕掛けイメージを邪魔することなく、うまくその流れに乗るようにサポートしようという意志をもってプレーしていると感じます。

 もちろん、この強力トリオの能力を考えれば、彼らの個の勝負能力を中心に「仕掛けイメージ」を構築するのは自然な流れだよね。オレが監督でも、まず「それ」をイメージする。とはいっても「そのこと」が諸刃の剣であることも確かな事実。

 この試合では、レッズが「自分たちのサッカー」を貫いて攻め上がってきたから問題は目立たなかったけれど、総合力が劣ることで「対処ゲーム戦術」を立ててゲームに臨んでくるような相手の場合は、彼らがフロンターレの「良さを消す」ことを具体的な戦術的ターゲットにするから、かなり苦労することになるばすだよね。

 とはいっても、フロンターレ関塚監督は、組織と個のハイレベルなバランスを志向しているし、その方向で、前戦の天才トリオの仕掛けイメージを「修正&調整」していると思う。もちろんまだ道半ばだから、周りでは「ヤツらは、前戦の強力トリオに頼り切るような偏った攻撃サッカーをやっている・・」などと揶揄する向きもいるだろうけれど、実際には(牛若丸=中村憲剛=を中心に)優れた組織テイストもより強く感じられるようになっていると思う。

 そう、まだ道半ば・・。関塚監督も、「昨年の高畠監督の方がうまくいっていたのでは!?」なんてコトまで語られている周りの雰囲気を痛いほど感じているはず。そうそう・・たしかに厳しい状況だけれど、それこそが絶好の機会じゃありませんか。脅威と機会は背中合わせ・・なのです。

 人は、厳しい状況を乗り越えて初めてホンモノになれる(人々のホンモノの共感を勝ち取ることができる!)。有能な関塚さんにとっては(彼自身もそう感じているはず!?)願ってもない学習機会だと思いますよ。

 この試合でのレッズの攻撃だけれど、コンビネーションサッカーの基本的な流れは維持していたけれど、やはりポンテの穴は感じられた。

 彼の代わりに先発メンバーに名を連ねたのは、セルヒオ・エスクデロ。わたしは、ある意味で、期待していた。そしてゲーム開始の数分間で、その期待が「興奮」へとヒートアップしていった。それほど、攻守にわたるセルヒオのプレーに、強い「意志」を感じたのですよ。

 その「意志」は、もちろん(攻守での)全力スプリントの量と質に如実に表現される。良かったですよ。「行けば」やはりスゴイ・・やっぱりセルヒオの才能はレベルを超えている・・。そんな、これまでは「落胆のリソース」になることの方が多かった「事実」を反芻していたものです。

 でも時間が経つにしたがって、彼のプレーが(これまでのように)どんどん矮小化していき、結局は「落胆リソース」に逆戻りしてしまう。

 ボールをもっても、中途半端な小手先のワザを安易に繰り出すから(まあ人によっては足先のプレー・・なんて表現する!?)簡単にボールを失ってしまうし、守備でのマーキングでも、行ったり、行かなかったりと安定しなくなってしまう。

 それでも、本気でディフェンスに入ったら、素晴らしいボール奪取を魅せるし、後半に魅せた、山田暢久との爆発的な「パス&ムーブ・コンビネーション」からの決定的スペースの攻略プレーは見応え十分だった。

 そんな「パフォーマンスの変動」を観ながら、こんなことを思っていた。

 ・・立ち上がりのセルヒオの「プレー姿勢」を観れば、彼が、良いプレーや、それを続けるための強い意志という言葉の意味するところを、しっかりと分かっていることは明白・・でも結局は、プレーコンテンツ(プレー内容)がどんどんダウンし、気付いてみたら、いつもの様子見シーンのオンパレードに成り下がってしまっていた・・

 ・・その原因には、彼の「精神的な弱さ」だけではなく、フィジカル的な(要は物理的な)背景「も」ありそうだ・・そうだとしたら、なお許せない・・もしかしたらヤツはオーバーウェイトなのか!?・・そんな物理的なことなんか、ヘドが出るほどの努力さえすれば、すぐにでも解決するじゃないか・・プロだったら当たり前だろ・・もちろんサッカー的な才能やインテリジェンスといった微妙なファクターの課題だったら、それを乗り越えるのは難しいだろうけれど・・でも彼は、基本的な部分では強いモノを持っているハズだからネ・・

 ・・とにかく、山田直輝、原口元気、高橋峻希といった、彼の後輩たちの「後塵を拝する」ことが悔しくないのであれば、彼はプロを辞めた方がいいね・・

 ということで高橋峻希。良かったですよ。とにかく、走り回ってボールに触りまくるだけじゃなく、そこから何度もリスキーなプレーにもチャレンジしていった。彼は、明確に、ゲームの流れを「逆流」させられるだけのインパルス(刺激エネルギー)を放散していた。

 そんなグッドパフォーマンスの基盤になったのは、言わずと知れた「優れた守備意識」。ボールから離れた右サイドを爆走オーバーラップする相手を、最後の最後までマークしつづけ(この時点で自チームの最終ラインも越えていた!)案の定その決定的スペースへ送り込まれたタテパスをカットし、そこからの次のレッズ攻撃につなげた。それは、ちょっと感動的なシーンではありました。

 とはいっても、フロンターレに逆転されてからは、どうもサイドに「張り付きすぎ」で、意志が爆発しなかった。まあ、トゥーリオやアレックスも出てきたから、彼らにコアの勝負プレーを委ねるという仕事をイメージしたんだろうけれど、それでも、何度かは、自ら仕掛けていけるチャンスがあったのに・・。ちょっと残念ではありました。

 とにかく、これで、堀孝史が育てた(彼については「このコラム」を参照してください)レッズユース三羽がらすが本当の意味で「実戦デビュー」したことになる。これからが楽しみで仕方ない。

 最後になったけれど、フォルカー・フィンケは、攻撃陣について、こんなコメントも残していた。「三人も主力の攻撃プレイヤーを欠いたら、彼らをリプレイスすること(他の選手で補うこと)は難しい・・」

 その三人とは、ポンテ、田中達也、そして梅崎司だという。フムフム・・。フォルカー・フィンケは、梅崎司に対しても大いに期待しているということか。そうそう、彼にしても、今のレッズの「サッカーの流れ」に大いに刺激されているはずだからね。まあ、とにかく楽しみだ。

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 ところで、拙著「ボールのないところで勝負は決まる」の最新改訂版が出ました。まあ、ロングセラー。それについては「こちら」を参照してください。

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 ということで・・しつこくて申し訳ありませんが、拙著『日本人はなぜシュートを打たないのか?(アスキー新書)』の告知もつづけさせてください。その基本コンセプトは、サッカーを語り合うための基盤整備・・。

 基本的には、サッカー経験のない(でも、ちょっとは興味のある)一般生活者やビジネスマン(レディー)の方々をターゲットに久しぶりに書き下ろした、ちょっと自信の新作です。わたしが開発したキーワードの「まとめ直し」というのが基本コンセプトですが、書き進めながら、やはりサッカーほど、実生活を投影するスポーツは他にはないと再認識していた次第。だからこそ、サッカーは21世紀社会のイメージリーダー・・。

 いま「六刷り」まできているのですが、この本については「こちら」を参照してください。また、スポナビでも「こんな感じ」で拙著を紹介していただきました。

 蛇足ですが、これまでに朝日新聞や日本経済新聞(書評を書いてくれた二宮清純さんが昨年のベスト3に選んでくれました)、東京新聞や様々な雑誌の書評で取り上げられました。NHKラジオの「著者に聞く」という番組で紹介されたり、スポナビ宇都宮徹壱さんのインタビュー記事もありました。また最近「こんな」元気が出る書評が出たり、音声を聞くことができる「ブックナビ」でも紹介されたりしました。

 



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